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第66話 逃避と嘆願

『私は竹のカグヤと申します。

 この名は我が主、遠藤様より賜りました』


身体を軋ませながらカグヤと名乗った竹人形は綺麗な姿勢で直立しながらそう語る。

ヴェルさんが最初に正気に戻り、口火を開いた。


「竹……?

 貴様は外の竹と関わりがあるのか?」


『あれは私です』


「あの竹たちの母体……ということか。

 良く我輩の前に姿を現せたものだな」


『それが望みですので』


「ほぅ……」


ヴェルさんの目が細くなる。

どこか臨戦態勢の雰囲気を感じたので、俺が会話を引き継ぐ。


「貴方の望みは死ぬことですか?」


『左様です』


あっさりと肯定されて面食らった俺を見てジルベルトが疑問をぶつける。


「何故死にたがるんだい?

 バン・ブーはその姿になるとそうなるようになっているのかい?」


『他の同胞がどう生きているのかわかりませんので検討もつきませんが、私が死にたい理由はただ1つです。

 遠藤様のところへ行くためです』


「エンドウ、という方は……亡くなったんだよね?」


『恐らくは。

 当時の私は声が聞こえ、魔力が少し見える程度の存在でしたから』


「これは……驚いたな」


「ジルベルトさん、驚いたで済む問題ですか?」


「どうだろう……カグヤと言ったね。

 君は愛した人間に会うために死にたいというんだね?」


『“愛する”の意味がわかりません。

 遠藤様がいないので、いる所に往くだけです』


「会いたい理由があるのかい?」


『遠藤様がいないと遠藤様とお話ができません。

 それは私にとってとても困ることです』


「話をするだけなら別の人でもいいだろう?」


『別の人は遠藤様ではありません。

 私は遠藤様が必要なのです』


それは愛情ではないのだろうか?


「貴様は、我輩を呼んだのだな?」


『そうです。

 あなたは私を殺せます』


「お前を殺すとお前の手足と呼べる竹共はどうなる?

 我輩は森の回復力に合わせて貴様らを駆逐していた」


『ただの竹に戻ります』


「なるほど……。

 スズキ、我輩はこいつを殺そうと思う」


「なっ!?

 やめてください!!

 この子には聞きたいことが……ッ」


「ドラゴン、これは我輩の森で起こった出来事だ。

 本来貴様は関係なぞないし、意見も聞いていない。

 それとも……事を構えるか?」


ジルベルトは苦虫を噛んだ顔でグッと言葉を飲み込んだ。


「それでスズキよ。

 貴様はどう思うのだ?」


ヴェルさんの真剣な眼差しが俺を射抜く。

バクバクする心臓に無意識に手を当てながら、俺はカグヤに再度質問する。


「カグヤ、さんは自分で死なずに誰かに殺されることが望みだったのですか?」


『自分は殺せません』


表情も変わらず、淡々とした物言いをするカグヤの感情は読み取れない。

でも……。


「……ヴェルさんが嫌な思いする必要はないよ」


この竹人形は逃避している。

そしてヴェルさんに責を背負わせようとしている。

俺はそう感じた。


「嫌な思いはしない。

 森に害なす竹を駆逐する、魔物を駆逐する。

 アレがしゃべる以外、やっていることはいつもとそう大差ない。

 そうだな、強いて殺す理由を上げるとするならば……。

 慕う者の傍に行きたいというのは至極当然じゃないか、我輩はそう考えたのだ」


ヴェルさんは微笑みながらそう言った。

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