第46話 油の作り方
一夜明けて朝。
ずっと離れないヴェルさんを伴いながら昨日から干し始めた木の実を観察。
さすがに1日じゃしっかり乾燥しないか。
「これは何をしているのだ?」
「中から種を取り出すために干してるんだ。
それよりヴェルさん、歩きづらくない?」
ヴェルさんは首を横に振ってさらに腕にしがみつく。
胸がむにゅんと……むにゅんと……。
OK、クールになれ。
アルさんが帰ってからというもの、ヴェルさんはこの調子で離れようとしない。
まぁ……俺も大人なので色々と察してしまうのだけれども、それ以上に臆病者なので見ぬ振りをしている。
最近は煩悩が理性を凌駕してしまいそうになる時もあるが、未だ一線は越えていない。
愛犬的な可愛がり方はしているが、それはセーフ。
イヌケモとはいえ人型の女性に対して愛犬的な可愛がり方をしているという酷い字面ではあるがセーフ!
うん、俺頑張ってる。
「それよりここは我輩の出番ではないか?」
ご立派さまをさらに押し付けながら得意げな表情のヴェルさん。
「魔法で乾燥させるの?」
「そのとおりだ!」
ヴェルさんは意気揚々とドヤ顔をしている。
オチが透けて見えそうなので、実を1つとって実験。
……一瞬で見事に粉になった。
「うぅ……」
「落ち込むこともないよ、ヴェルさん。
乾燥させることは出来るんだから程度の問題だよ」
再度徐々に魔法で乾燥させると見事にぱっくりと実が割れた。
種も普通に取り出せるのを見てヴェルさんははしゃぎ、他の実も乾燥させていく。
短時間でかなりの量があった木の実全てから種が取り出せた。
次に種を蟹の甲羅で軽く炒る。
切実にフライパンが欲しいが今回は量的にこれでも問題はないかという気持ちになる。
少し冷ましたら、殻を剥く。
ひたすら剥く。
嫌になっても剥く。
ヴェルさんとコダマも手伝ってくれた。
嬉しい。
竹を運んできたコダマは何故か数人だけこの家に残っている。
四人くらいかな?
外に出たら置き場の近くで昨日教えたけんぱとかで遊んでいた。
お手伝いのお礼にあとでまた何か教えよう。
……それが狙いで残ったのだろうか?
作業に戻ろう。
人海戦術で昼前には何とか殻が剥き終わる。
そしたらまた軽く炒る。
今度はさっきと違い、ナッツの良い匂いがしてきた。
そういえばあれも種だったか。
森に似たようなものがあるなら今度採集しよう。
ちなみに杖の情報によるとかなり渋い味がするらしく事前にしっかりヴェルさん達に伝えた。
が、
「ビリビリしゅりゅ……」
竹のコップに舌をつけっぱなしのヴェルさん。
もちろんコップの中には水が入っている。
うん、竹有能!
……しかし何故前振りのようになってしまったのか。
ヴェルさん曰く、
「我輩なら食べられると思ったのだ」
どこからそんな自信が?
匂いも良かったし美味しそうだったから仕方がないか。
作業を続けよう。
煎った種を今度は磨り潰して粉状にする。
竹を丁度良い長さに切って頑張る。
ヴェルさんと交代しながらの作業。
……俺やる意味あるのかな?
いやいや、気持ちを萎えさせるな。
頑張れ、俺。
磨り潰したら今度は水を加えて煮る。
じっくりグツグツと煮る。
そうしていたら表面上に何か浮いてきて、味噌汁っぽい色になった。
ヴェルさんがジーッと見てる。
「飲んじゃダメだよ」
ぶんぶん振れていた尻尾がペタンと垂れ下がった。
ある程度煮たら、表面を掬って濾す。
ここで登場するのはアルさんの布だ。
用途を告げると自分の糸でサクッと数枚織ってくれた。
サンキューアルケニー。
新しい下着にも期待してます。
ヴェルさんにも感謝してるよ。
確かにアルさんの事を考えていたけれども。
何故分かったんだろう?
さて油作りは濾した液体を再度煮詰めて再度濾せば完成。
1度目の濾す作業の際はヴェルさんの魔法を利用したが、今回は自然落下に任せてみる。
ちょっと味見。
「不思議な味だが物足りないのだ……」
ただの油だからね。
そう言う割には結構舐めてる気がするんですけど……。
あとまだ残ってるとか言いながら俺の指舐めまわさないで。
いや、嫌ではないけどね!
全然嫌じゃないんだけどねっ!!
ヴェルさんのスキンシップが激しくなっていますが、理性くんは頑張って持ちこたえています。




