第34話 そのときズズキに電流走る
逆に考えるんだ、鍋なんて無くてもいいさ、と。
「なるほど。
我輩たちが鉄を手に入れるためには早い話が鉄鉱石というのを手に入れる必要があるのだな?」
ヴェルさんが腕組みを尋ねてくる。
「そういうこと。
んで鉄鉱石を手に入れるためには掘るか買うかってところなんだけど」
「そもそも金銭がないから買えない上、鉱脈を見つけるのは難しい……なるほどな」
ヴェルさんも納得してくれたようで良かった。
「鍋を作る材料は鉄の他にも石や粘土があるけど、今回はとりあえず現地調達をしようかなと」
「現地調達?」
俺はお目当ての物を検索してヴェルさんに見せる。
「これは貝殻か?」
「その通りでございます」
ヴェルさんに含有量について教えている最中に思い出したのだが、昔は大きな貝殻を鍋代わりとして使っていた記録がある。
俺の世界ではオオシャコガイという種類が確か最大で2メートルくらいの大きさだったかな?
このファンタジー世界でもそこそこの大きさの貝殻なら見つかる可能性も高いんじゃないかと考えたわけだ。
「大きい貝殻を鍋代わりにして海水を煮詰めて塩を作ろう、そんな計画です。
さらに、っと」
俺は再度検索して貝の形の石鹸を見せる。
「おぉっ!」
思った通り、ヴェルさんがその画像に食いついた。
「とまぁ、こんな感じで貝殻っていうのは石鹸置き場の皿としても可愛いし、鹸化させたときの形成模様も綺麗だと思うんだけどどうかな?」
「良いではないかっ! 早速海へ行こう!」
言うが早いか、ヴェルさんが服をバッと脱ぐとクソデカ狼さんの姿になる。
俺は彼女の服をズックに詰めて物件巡りの時に見つけた籠を背負うと早速背に乗った。
「それではレッツゴー」
「オーッ!」
サクッと到着。
見渡す限り海海海の砂浜だ。
他の人族っぽい影も動物っぽい影も無く、これが世に言うプライベートビーチ……なんてね。
「まさかまたここに来るとはな……」
ヴェルさんが素っ裸で腰に手を当てて格好つけていらっしゃる。
「あの頃は腹が減って死にそうだった……
そういえばスズキ、食事はどうするのだ?」
「前に聞いた話だと貝とか蟹はいたんだよね?」
「いたな。
まさかあんな固いものを食うのか?」
「もちろん、それを食べないなんてもったいないっ」
俺も裸になり、腰に手を当てて胸を張った。
……先に弁明しておこう。
回りにヴェルさん以外の人はいないし、脱いだのは服を痛めないためだ。
パンツは未だ一張羅だし……考えるな、考えるな。
まぁ足の裏とかを切るかもしれないがそこはヴェルさん頼みの回復魔法で怖いものなし!
……あと平然と会話していたものの、息子が反応しそうになっているので精神力で押さえているのは言うまでもない。
俺の脳内は今、ウホ♂男だらけのサンバカーニバル状態なのは内緒だ。
……精神的に正直つらたん。
そんな俺の胸中なぞ知らないヴェルさんは純粋な疑問を俺にぶつける。
「あんな固いものをどうやって……しかも蟹はトゲがあって食えたものではないぞ?」
「蟹は殻の下の身が旨いのよ。ついでにカニミソと和えると……また旨い」
向こうの蟹を思い出して口許が緩む。
場所柄、昔から蟹は結構食べていたからなぁ。
特に旨かったのは毛ガニ。
さっぱりな身に濃い味の蟹ミソがまたなんとも旨い。
一度アニメの真似をして蟹の甲羅で日本酒を飲んでみたが、酒選びを失敗して苦い思い出になってしまった。
あれば辛口でやるもので大吟醸酒でやるものじゃないわ。
次があればリベンジしたいなぁ……。
よほど恍惚な顔をしていたのだろうヴェルさんに揺さぶられた。
「そ、そんなに旨いのか?
あんなものがそんなに旨くなるのかっ!?」
「茹でて食べると身に甘味がでて中々なお手前に」
「よし、さっさと食おう!
直ぐ食おう!」
「あ、でも蟹がどこにいるのかわからないと」
とりあえず杖で調べてみようかと思ったところでヴェルさんに首をかしげられた。
「ん?
そんなことしなくてもあっちからくるだろう?」
……おや、聞き間違いかな?
いきなり雲行きが怪しくなってきたぞ?
ヴェルさんの耳がフリフリ動く。
何が聞こえたのだろうか……あかん、ヴェルさんのご立派様が急接近しているこの状況でもマイサンが丸くなるを発動しているぞ?
ちょっと足も震えてきたぞ?
「ほら、やってきたぞ!」
恐る恐るヴェルさんの指差した方向を見ると、蟹の集団が海から砂浜に上がってきていた。
そう蟹である。
念願の蟹である。
茹でると赤くなって旨い蟹である。
俺は今猛烈にレトロSFのイラストを思い出していた。
種類様々な"人間大"の蟹達は一斉にこちらに向かって横走りをして向かってきた。
「おぅまぃごっどっ!!」
この大きさは聞いてないぞ!
転ばぬ先の賢者の杖(転ばないとは言っていない)




