第20話 お風呂を作る際はヴェルさん用のブラシも一緒に用意しようと思いました。
お風呂に関してはあとで色々考えるとして。
先に周囲にいる動物について確認するため、ヴェルさんと一緒に動物たちのいる高原へと向かった。
動物たちが見えてくるまでさほど時間はかからなかった。
なだらかな坂になっているせいで棲家からは見えなかったが、ポツリポツリと予想していたとおりの動物達がモッシャモッシャと草を食べている。
羊だ。
念のため杖で調べると確かに羊種だそうだ。
地球にいるメリノ種にとても近い見た目をしている。
こちらの人間も品種改良を行うのだろうか?
どちらにしろここに羊がいるってことは確定だろう。
イルカを呼び出して念のため確認してみる。
「あの羊なんだけど、先代さんの羊?」
「ん~……あぁ、たぶんそうですなぁ。
正確にはその子孫?
とある地域で飼われてた羊たちで先代さんがピンチを救ったのでついてきたんですよ」
いやぁ、懐かしいとイルカが楽しそうに羊たちを呼ぶ。
羊たちが一斉にこっちを向いた。
1匹が鳴く。
すると10匹前後の羊がこっちに向かって歩いてきた。
敵意はなさそう?
……ちょっと気になるので確認しておこう。
「ヴェルさん、羊って食べたことある?」
「かなり昔、ここではないところに住んでいた時に一度だけあるな。
毛ばかりな上、小型なので2度と食うかと思ったものだ」
うんうんとヴェルさんが思い出を語った。
……ヴェルさんって基本脳筋なのだろうか?
と、とにかくここの羊をむやみやたらにマルカジリ、という事態にはならなそうだ。
先代さんとご縁のある羊たちだし、ぶっちゃけて言えば羊毛欲しいし。
羊毛があればベッドにソファ……やわらかいものがたくさん出来る。
ヴェルさんにも恩返しとして編みぐるみなんかも作ってあげられるかもしれない。
俺たちも羊たちに近づいていく。
近づいて思ったが、先頭を歩く羊の角がまがまがしい。
なんだあれ……あれは殺す形をしていないか?
やばい……コワイ。
「へたれですなぁ、サトウさん。あの角は間違いなくラブちゃんたちの子孫なので性格は温厚だと思いますし、若干は人語を理解してくれますって♪」
イルカがケタケタと笑う。
このイルカ、野生を舐めてやがる……っ!
しかし、ヴェルさんが同意しながらうなずく。
「そうだな、何かあっても吾輩に任せておけば万事問題ない! ……しかし、ラブちゃん……とは?」
「先代さんの名づけた雌羊ですよ~♪」
ネーミングセンスはそれでいいのか、先代さん?!
しかし……、もしかして俺は不必要に怖がりすぎているのだろうか?
現代社会で野生動物に会う機会なんて実家以外じゃほとんど無かったから加減が分からない。
その実家周辺に居たのも狐に鹿、それにイタチやふくろう程度。
じゃあなんでこれだけ警戒しているのかと言われれば、定番である野犬や狼などの肉食獣を警戒……
隣を見た。
ヴェルさんが視線に気づいて小首をかしげた。
カワイイ。
そうだよね、ヴェルさんって大きな狼だったね。
……ヤバイ、俺の中で愛犬カテゴリに入っていた。
そう考えるとド定番どころの狼なんか(ヴェルさんがいるから)怖くない!
それに異世界だからと警戒してたがこっちの羊も草食だ。
なら何も恐れることは無いじゃないか!
と余計な事を考えていたら、いつの間にか羊たちと合流した我々。
ふむふむ、近くで見てみると角以外はやはり俺の世界と一緒の普通の羊。
やっぱり俺は縮こまりすぎていたんだな!
俺は護心完了とばかりに、羊を撫でようと手を伸ばす。
その瞬間、羊達は一斉に、
メェ!
と吠えた。
実際には鳴いただけだ。
だが、何故か俺の耳には、獰猛な獣に吠えたように聞こえ、足が震えている自分がいる。
膀胱が少しピンチになるくらい動揺している……っ!
なにこれ!?
ナニコレ?!
「……ふむ、格付けとは面白い」
そう言って頷くとヴェルさんが思いっきり吠えた。
獣人の状態なのにさらにちびりそうになった!
股間を恐る恐る触ってみる……よく耐えた、俺の膀胱!
羊達も戦き動揺したが、それが収まると一斉に頭を垂れた。
野生ってやべぇ!
決めたぞ! 俺は今後も石橋を叩いて渡るスタイルでこの世界の生物達と接することにする!!
「格付けは終わったな、スズキ、次はどうする?」
満足げなヴェルさん。
「……ちょっと心の安息のため、休憩させて」
何もしてないけど動悸と息切れを起こした俺を笑いたくば笑え!!
あと1話くらいで今の章が終わるのでまた登場人物紹介(という名の整理)と1週間のお休みを挟みとうございます。




