第134話 穴の原因
「あ、頭を上げてくださいッ。
確かにこっちにきた始めの1週間は憎しみに溢れてましたけど、今となってはいい思い出ですし。
それに巻き込まれたお陰でヴェルさんとも会えましたから」
テンパって多少嫌みったらしくなってしまったことを後悔する。
本当にあの1週間は、食べるものどころか水場すら見つからない地獄以外の何者でもなかったのだがここで言うべきではなかった。
「そんな、貴方が落ち込まないでください。
そして謝罪を受け入れてくれてありがとうございます」
「そ、それより!
穴を“開けられた”と言うことは開けた犯人がいるんですか?」
「えぇ。
とある異世界で生まれた……そうですね、佐藤さんにわかりやすい例えで言うと『根源的破滅招来体』ですね」
「えっ、怪獣ッ?!」
「通常サイズの人型ですから安心してください」
「あのそれ、結構安心できないんですが……」
「大丈夫ですよ、その人物は異世界を渡り歩いて偶発的に世界規模の破滅をもたらしていた結果、現在は逃亡生活を余儀なくされていますから。
予測だと、あと1ヶ月もしないうちに捕まるでしょう」
そんな存在がいたことにも驚きだが、それを追う側の存在もいるのかよ。
「あと、私に出来ることはその存在が生まれた世界へクレームを入れることでしたが、ゴミ箱でしたので諦めました」
ご、ゴミ箱?
「どういうことなのだ?」
「色んな世界の色んな神様が自分の世界で生まれた危ないものを投げ込んでいるんですよ。
その世界を作った創造神も元々そのつもりでゴミ箱を作ったようで、因果の面から見ても酷いことになっていますね。
関わったら負けってくらい」
「あのそれ……ゴミ箱ゴミ箱言ってますけど普通に異世界の一種ですか?」
「もちろん。
人も住んでいるようです」
「さっきポンコツさんは神様について語っていましたが……」
「そうですね、案外作ったまま放置する神様って多いんですよ。
佐藤さんの世界を作るまで色んな世界を見て歩きましたが、ほとんどのものが擬似管理者を置いたり、作るだけ作って放置したり……その中で手間暇かけている同類に会うと自然と心が弾んでしまうものでした」
ポンコツさんが懐かしむように目を閉じる。
「今の話だと……擬似管理者っていうのがゴウさんみたいな人たちってことですか?」
「ついにこいつ、人たちって言いやがった……」
「まぁまぁ、ゴウさん。だいたい合ってますよ」
「創造神様にそう言われちまうと……これでも俺ら頑張ってんだけどなぁ」
「確かにここまで世界を立て直したんですからそこは誇って良いと思いますよ?」
「あいつと2人走り回りまわったからな、ヌマもこいつのおかげで……あっ」
ゴウさんが話の途中で止まる。
何だろう、ポンコツさんが『あらあら』という感じでちょっと困っているが……この神様、何か変なこと言ったか?
逡巡していると唐突にヴェルさんの手が俺の手に重ねられた。
彼女の手から不安が伝わってくる。
俺は何もわからず、ただただ安心させるために手を握り返した。
「……我輩の父は既にいないのか?」
「…………」
「……ゴウさん」
「わかってます、俺の失言です。
ヴェルフール、お前の親父だけじゃない。
この世界の神様は俺を含めてもう、4人しか残っていない」




