第132話 芽吹き
木々に新芽が芽吹き、春の訪れを感じるようになったある日の昼下がり。
ガーデンチェアに座っていると、いきなりゴウさんがやってきました。
「邪魔するぜ」
「あ、どうも」
「……まがりなりにも神に対してその気安さはどうなんだよ?
あと全く驚かなくなったな」
「ゴウさんは堅苦しいのは苦手だと思いまして。
それに知り合いが尋ねてきただけですから、驚くことも無いですよ。
今お茶入れますね」
「おう!
ヴェルフールは森か?」
「はい。
新芽も芽吹きだしたんで森を回ってくるって」
「あ~……なら結構時間かかんな」
「笹茶ですが、どうぞ。
……あ、あのゴウさん、それ……」
ゴウさんが手元で弄っているものを見て声が震えた。
「おぅ、スマホだ。
つってもチャット機能しかついてない試作品だがな」
マジか、作ったのか。
1年くらいで出来るもんなのか。
神ヤベェ。
「チャットって、普通電話機能を先につけません?」
「バッカおめぇ、チャット機能だけありゃ他いらねぇだろ。
あとで言った言わない話にもならねぇし」
なんとなくゴウさんの家庭事情が透けて見えた気がする。
「ま、まぁ良いですけど。
それで今日は何の御用で?」
「あぁ、お前を帰す準備が整った」
……一瞬言葉が詰まる。
「あ、そ、それは……」
「まあ落ち着け。
お、帰ってきたみたいだな」
「スズキッ!」
ヴェルさんが必死の形相で飛びついてくる。
「お帰り、どうしたの?」
「早く帰らないと取り返しのつかない事になるって言われたのだ!」
そう言ってヴェルさんの指差した先にはヌマさんに付いてやって来た何度か会ったことのある黒髪のポンコツさんがいた。
ゴウさんがため息をついて呟いた。
「何やってんすか」
「狼さんにとってはそうなので、そのまま伝えたのですが……ストレートすぎたようです」
肩をすくめながら苦笑するポンコツさんも席に座る。
「こんにちは、サトウスズキさん。
それとなんだかごめんなさいね?」
「あ、いえ……。
ヴェルさんも落ち着いてきたので」
「膝に乗せてずっと背中や頭を撫でていますけど……足、痺れませんか?」
「慣れましたね」
「そういうものですか」
感心しながらというかなんというか……ポンコツさんはなんとも生暖かい視線を向けてきた。
「あ、ポンコツさんにもお茶を……」
「ではせっかくですから、これを入れてもらえますか?」
そういって差し出された袋を見て、見て2度見した。
それは……あっちの世界で俺が愛飲していた水で溶くだけでお茶になる……お茶になる──
「私って結構貧乏舌なんですよ。
でもこれ、おいしいですよね?
私も大好きなんです♪」
邪気も何も感じない声が耳に届き、数多の疑問が頭を駆け巡る。
それでも俺は懐かしいお茶のパッケージから目を離す事が出来なかった。




