第131話 齟齬
「中古の銀のアクセサリー?」
穏やかな日差しながらも未だ寒さが頑張っている冬のある日。
俺はジルベルトがやってきたのでちょっとお願いしてみることにした。
「お金の方は特に問題ないと思うんですが」
「いや、そこじゃなくてね。
何で中古なのってところで引っかかってるんだよ。
新品じゃなくて良いの?」
「あぁなるほど。
結婚指輪とかそういうのが欲しいって訳じゃないんですよ。
というかこっちにもそういった風習あるんですね」
「異世界人が持ち込んだ文化だね。
身を固める頃合かと思ったけど、見誤ったかな?」
「いや、今でも気持ち的には身を固めているつもりではいるんですけどね。
ヴェルさんに指輪を送って良いものか考えておりまして」
「え、結婚指輪でしょ?」
「良く人化の魔法を解くので邪魔かな? と。
というか下手すると指が千切れたりとかしそうで怖くて」
「怖い想像してるなぁ……。
でもそうだよね……あ、そういえば姉は指輪してたな。
今度どうしてるのか聞いておくよ」
「ありがとうございます。
まぁ中古のシルバーアクセサリーが欲しいのはまた別件ですよ」
歯磨きをしている最中にふとイルカから預かっているアクセサリーを思い出したのと同時に、歯磨き粉が目に入ったのが今回のお願いの発端だ。
「研磨の練習をしたいなと思いまして」
「……」
多少照れながらやろうとしていることを伝えると、何故かジルベルトが黙って頭を抱えた。
「あぁ……うん。
なんていうか……この際、言っちゃうか?
そうだな、言った方がいいな」
何だろう……俺、責められるのかな?
一度気合を入れたジルベルトが俺に言った。
「サトウ君。
俺に頼んで竜王国でそのアクセサリーを研磨してもらえば良いとか考えなかったの?」
……。
「え、でもお金……」
「いや、それくらい簡単に出来る程度には君、お金持ってるからね?
というか前から感じてたんだけど、なんだか僕達の間に認識の齟齬があるような気がするんだ」
「齟齬?
いや、そんな事は」
「じゃあ質問。
僕は良く食料を運びに来ているけど、もしかして施しを受けていると思ってる?」
「ぜ、善意だとは思っていますけど」
「あぁ……確かに善意というか、好意から……だけど」
ジルベルトがちょっと視線をそらして咳払いした。
確かに面と向かって好意を伝えられると小恥ずかしい。
「ちゃんと竜王国から運送料は出てるから。
君のお金からね」
「えっ? そうなんですッ?!」
「そりゃあね、お金は回さないと。
あとまぁ僕がここに頻繁に来るのはお父様や女の子の追撃を逃れるためって言うのもあるけどね」
ジルベルト曰く、父親からは結婚せかされ、年若い雌のドラゴンからは求愛を受けているそうな……。
「じゃあ身を固めれば良いのでは?」
「簡単に言ってくれるね……。
話が反れた。
まぁ何が言いたかったかと言うと、あんまり何でも1人でやろうとしない方が良いよって事」
そうかな……そうかも……。
という感じであっさりとジルベルトに懐柔されてしまった俺は、イルカに断りを入れて預かっていた貴金属を彼に手渡した。
「遺品なのでくれぐれもお願いします」
「任せて。
何かしたら竜王国が滅ぶとでも言っておくよ」
「いや、そこまで大層な……」
「でも無いけどね。
ま、竜王国にいる職人は真面目だから大船に乗ったつもりでいてよ」
イケメンスマイルはこういうときズルイなぁと苦笑する。
「そういえば、やっぱり中古のアクセサリーは買いたいと思います」
「えッ?」
「好奇心の問題ですよ」
色々考えたが、なんだかんだでやってみたいっていう気持ちもあるのだ。
イルカの大事な物はしっかりとした職人さんにお願いするとして、挑戦できるならそうしたい。
「……フハハッ♪
わかった、適当に見繕ってくるよ」
肩を震わせながら優雅に笑うジルベルトを見て、年若い雌のドラゴンが熱を上げるのも仕方がないと思った。




