第127話 冬篭り
本格的に寒くなってきたと思ったら、ついに雪がチラつきだした。
この地方でも降るんだなと感心しながら火起こし鍋で炭を焼く。
冬篭りということで衣類関係ではアルさんに頼りながらも一応色々と準備はしたつもりだ。
その中のひとつがこの陶器製の火鉢。
金属部分はヴェルさん製の共同作業で仕上げた一品だ。
何度が試しに使ってみたが、ひび割れることもなく特に問題なく使えている。
案外買わなくても上手くいくものだ。
とはいえ、鉄瓶はさすがに竜王国産だけど。
鉄瓶はジルベルトが一度様子を見に来た時にお願いした。
何故かこの火鉢を見て少し呆れていた。
「お金持ってるはずなのに作ったの?」
竜王国旅行の際に王様に言われたことだが、前に精油などの抽出方法やマヨネーズを教えた際にその売り上げを発案者である俺の名前で一部取り置きしてくれているとのこと。
なんとも律儀なと思ったが、その“一部”が結構な額になっているそうな。
……内需が回るのは良い事だと思うけど、あのモンスターに恨まれていませんように。
「そりゃあ無かったので作りましたよ?」
「……普通買わない?」
「作れそうなものは作る主義ですので」
「そういうものなの?
普通逆のような……」
唸りながら持ってきた鉄瓶は趣向を凝らしたなかなかの一品だった。
華美過ぎずシンプルなのに洗練されている。
ヴェルさんすらも唸らせたのであいつの審美眼もなかなかのものだ。
というわけで火鉢で暖を取りつつ朝食のメニューを考えているとヴェルさんが帰ってきた。
……と思ったら外に連れ出された。
肌が少しピリッとする寒さの中、ヴェルさんが狼の姿で岩の上に乗りこちらを見下ろして座る。
あぁ……はいはい。
「あの子を解き放て、あの子は人間だぞ!!」
「黙れ小僧!!」
怖い顔で叫んだ後、すっごいドヤ顔でヴェルさんはフフンと鼻を鳴らした。
「この岩作ったの?」
確か昨日はこんなの無かったはずだ。
「そうだッ!
1度やってみたかったのだ♪」
そう言うと、降りてきて獣人の姿に戻る。
昨日見た映画の影響だろうなぁ。
寒くなってからというもの、夕方くらいには家に引きこもるようになったのだが、何せ暇なもので暇つぶしとして、一緒に杖で映画を見始めたのだ。
その中でもヴェルさんのお気に入りはアニメ。
ニチアサタイムの魔法少女モノはもちろん、さっき真似していた大作アニメ映画にもドはまりしたらしく、最近はよく一緒にマネをして遊んでいる。
ちなみに昨日は目玉焼きトーストを作って台詞付きで再現したりした。
アニメの感染率ホントやばすぎ。
「へぷしッ」
「今日は寒いからね、火鉢着けたから暖かい格好して温まると良いよ」
「ズズ、うむッ!
それにしても服を着れるというのは本当に素晴らしいな!!」
「着るようになって結構経つと思うけど、実感してくれて何よりだよ」
「でもやはりスズキの傍が一番暖かい!
今日も特にやることはないのだろう?」
おねだりフェイスのヴェルさんを撫でながら何をオススメしようか考える。
女性ヒーローが活躍する特撮……いや、魔法使いものにしようか。
外したら忍者ものを見せることにしよう。




