第126話 フユノオトズレとシャボン玉
花冠に使われていたシロツメクサに酷似している花だが、杖で調べたところ、『フユノオトズレ』という花だった。
その名前の通り、冬の訪れを伝える季節の花で花弁が枯れ始める頃から徐々に肌寒さを感じ始めた。
「また冬が来るのか……」
どこか陰鬱めいた口調でヴェルさんが呟いた。
「ヴェルさんは冬は嫌い?」
俺は収穫期に入ったジャガイモを掘りながら質問してみた。
「むしろ好きな奴がいるのかと問いたいな。
食べるものが減る上に寒い」
「俺は好きだけどねぇ」
「なん……だとッ?」
ヴェルさんのあごが外れている。
そこまで衝撃的だっただろうか?
「ほら、暑さってエアコンでもないとどうにもならないけど寒さって着込めばどうにでもなるじゃん」
「そ、そういうものなのか?
あ、あぁっ解ったぞ。
スズキは暖かい地方の出身なんだろう。
うんうん、なら納得だ」
「いやいや、確かに転移する前に住んでいたところはさほど寒くなる地方じゃなかったけど。
これでも北国出身だよ」
「北国……とはいえ、そこまで寒くないんだろう?」
「濡れた布を外で振り回すとカチコチになる程度には寒いよ?」
「……いやそこまで寒くてどうして冬が好きになる?」
「空気が澄んでいる気がするんだよね。
肺に冷たい空気を取り込むと気持ちよかったり。
あとはそうだなぁ……面白かったからかな」
「面白い?」
たぶん言葉じゃ伝わらないなと思ったので、農作業を一時中断して杖を持ってき。
「ちょっと待ってね」
「あぁ……スンスン、ちょっと汗臭いな」
「そりゃあ、さっきまで収穫してたからね。
ほら出たよ」
空間ディスプレイに表示されたのは一面雪景色の中でシャボン玉をする俺だ。
この時はたしか……理科の授業でバナナの話とかタオルの話とかを聞いた直後の土日だっただろうか。
氷点下3℃程度のお昼時に試しに残っていたシャボン玉を外でやってみたのだ。
シャボン玉は膨らんで少し飛ぶとゆっくりと高度を下げながら地面に落ちるのだ。
その際の光景が奇妙で面白くて何度もやった。
「これはシャボン玉って言って石鹸水を使った遊び道具だね。
あれ、正確には違うんだっけ?」
「泡自体は解るが、これは……溶けてないか?」
そう、冬にシャボン玉をやると表面が少しずつ凍りつき、その様はシャボン玉が溶けていくように見えるのだ。
「面白いでしょ?
あ、こっちが冬以外のときのシャボン玉ね」
そういって別ウィンドウでシャボン玉で遊んでいた光景を映し出す。
鉄網状の何かを振り回しながらたくさんのシャボン玉が飛んでいく光景にヴェルさんは釘付けになった。
よく周りを見てみると、コダマ達も集まっておりその光景を飛び跳ねながら見ている。
「これが同じものなのか……な、なぁスズキ……」
ヴェルさんがゴロゴロ言い出した。
洗濯のりはないけど砂糖はあるし、なんとかいけるかな……?
「上手くいかないかも知れないけど、やってみる?」
「ッ?! お、おうっ!!」
その後はコダマ達も含めて皆で砂糖と魔法で粉末にした石鹸でシャボン液を作ってたくさんのシャボン玉を作りながら遊んだ。
自作石鹸だから……と心配だったが上手くいってよかった。
後日そのことを知ったらしいトウマ君にも作り方をせがまれ、作り方を教えた。
今ではそこら中シャボン玉だらけになり、フウラとアルさんにお説教されている。
はい、先にシャボン玉に触れると服が汚れることを伝えておくべきでした……すみません。




