第112話 僕を(精神的に)殺す気なの(ジルベルト談)?
翌日の早朝。
ヴェルさんとお互い頭痛に悩まされながら外に出てみると、皆片づけをせずに昨夜訪れた珍客を前に動かなくなっていた。
「……ッ!
久しぶりねヴェルフール!!」
昨日の精霊がヴェルさんを見つけて手を振っている。
「……?
あぁ……森の上級精霊か、久しいな」
「お知り合い?」
「我輩にヒト族の言葉を教えてくれた森の精霊だ。
スズキがコダマと呼ぶ精霊達はアレの分体にあたる」
なるほど?
「分体とは?」
「簡単に言えば奴の子供だ」
なるほど。
って事は、だ。
「もしかして昨日の真夜中の訪問って……嫌がらせ?」
「ち、違うわよ!?」
上級精霊のおばさんが寄ってきて否定する。
「子供達だけで遊びに行って自分だけ除け者だった……みたいな?」
「だから違うったら!!」
「そうだぞ、スズキ。
こいつはヒト族が嫌いだからな」
「そうよ。
ヒト族なんかと関わりたいわけないじゃないのよッ!」
「いやいやヴェルさん。
ヒト……じゃないか。
知的生命体はそんなに単純な生き物じゃないよ。
嫌っている相手にいつも自分の周りにいるはずの子達が追随してしまったらさぁ大変。
混ざりたいけど混ざりたくないと心の中で愛憎渦巻いてへそを曲げるなんて簡単に想像できちゃうよ」
世に言う除け者フレンズ現象である。
孤独耐性を持っていないと心が死ぬ。
「そうなのか?」
「違うわよッ!」
「まぁまぁ御三方。
子供のいる前で喧嘩なんかやめないかい?」
高橋氏が仲裁に来てくれた。
ありがたい。
「いや、ほっとしているところ悪いけど佐藤君を止めにきたんだからね。
心の中心にダイレクトアタックかましてこの精霊さん涙眼じゃないか」
……解せぬ。
「解しなさい。
とりあえずは後片付けと朝食が先かな?
えーっと、君お名前は?」
高橋氏は自然と目線を子供に合わせて微笑みながら聞いた。
こういう事を自然に出来るとは……子持ちのなせる技なのだろうか。
「よ、余は魔王、である」
「……佐藤君」
「マオさんってことにしておきましょう」
「OK。
ずるい大人シフトって事で。
じゃあマオくん、うちの娘と顔を洗っておいで。
朝食が出来たら呼びにいくからね」
「えっ……」
精霊と手をつないでいるマオくんの手に力が入る。
離れたくないのだろうなぁ……。
「また遊んであげるから行きなさい」
精霊はつっけんどんな言葉を吐きながらしゃがんでマオくんをぎゅっとした。
それで安心したのか高橋氏にミウちゃんを紹介してもらったあとは2人と高橋氏の奥さんで顔を洗いに行った。
精霊がその姿を見ながら切なそうに手を振っている。
……子供達は見ていないのに。
「……ショタコンではないですよね?」
「ち が う わ よ !」
そいつは重畳。
俺はうずくまりながらうめいているドラゴン達を尻目に朝食の準備に取り掛かることにした。
睨まないでくれジルベルト、俺のせいじゃないんだから。




