第111話 フラグクラッシャー
言葉とは裏腹に『ハイかイエスで答えなさい』といった雰囲気を醸し出している彼女に逆らわず、ヴェルさんを寝床に運んで、雑魚寝している人たちに布をかけて回る。
予想外だったのは妖艶な女性がそれを魔法で手伝ってくれたことだ。
案外……悪い人ではないかもしれない。
用事が済んだあと、冷水を頭からかぶり、何とか酔いを醒ましながら彼女と対面する。
「あらあら、ふらふらしているわよ?」
……まぁそんな簡単に酔いが醒めるなら苦労はない。
「座っても?」
「えぇ、どうぞ」
女性と子供は対面においてある丸太の椅子に腰をかける。
「さて、正直酔いも眠気もつらいんで手短にお願いします。
まず貴方はコダマ達の関係者ということで良いですか?」
女性がギョッとした。
あたりか。
彼女の周囲には現在進行形でコダマ達がたくさん集まってきている。
さらに、良く見たら微量ながら彼女の髪辺りから緑色の粒子が光って風に流れていっていた。
ついでに言えば、彼女達は森から来たのにヴェルさんが全く警戒していなかった。
あそこまでグデングデンとはいえ、あれでも大森林の主である彼女は殺気だった対象が森へ入ることを許さないだろう。
……たぶん。
状況証拠だけだが、ここまで来たらもうコダマ達の上司辺りが相場だろう。
「……そうね。
面倒は省きましょう、異世界人。
私は上級精霊とヒト族の間で呼ばれている存在よ」
「はぁ。
俺のことは知って良そうなんで自己紹介は別に良いですよね。
正直明日出直してくれって言いたいんですけど」
「そういうわけにはいかないわ。
理由は察しが良さそうなあなたなら分かるでしょ?」
「その子供ですか?」
「ええ。
森で迷子になっていたのよ。
だから保護を」
「嘘つくならやっぱり明日出直してくれません?」
「ッ?!」
「子供の足元が汚れてません。
一番近い人里からここまでどのくらい掛かると思ってるんですか?
ヴェルさんの脚で1時間ですよ?」
そういうと近く感じるが、実際は120km以上離れている。
……大体の体感で。
「……この子の身なりを見なさいな。
貴族が自分の足で歩くと思う?」
「苦しい言い訳ですね。
馬車で鬱蒼としている森の中なんか進めるわけないでしょう」
頭痛の鈍痛が痛い。
というか何この精霊面倒くさい。
ヴェルさんのぬくもりが恋しい。
「ま、魔法で飛んできたかもしれないじゃ」
「じゃあ飛んで帰れば良いでしょ?」
「……ック、単なる力もないヒト族にこうもあしらわれるなんてッ!」
「面倒なプライドをお抱えで。
夜も遅いんで子供には毛布と枕は貸しますからそこらで寝てください」
「そこは普通子供に寝床を貸すのではないの?」
「そこは普通この子供をつれてきた貴方が寝床を用意するんじゃないんですか?」
精霊の女性はグゥの根が出た後に押し黙ってしまった。
無言は肯定とみなして、船を漕ぎ出している子供にとりあえず話しかける。
歳のころはミウより小さい。
3、4才か?
「君、お名前は?」
「ふみゅ……よは……魔王……でしゅ」
OK聞き流そう。
この子の名前は暫定マオ。
そうしよう。
「マオ、お外で眠れる?」
「……うん」
精霊の女性の手をキュッとつかみながらそう答えるマオ。
「ということで、寝具用の布を二組貸しますので、添い寝よろしくおねがいします」
そう伝えてさっさと踵を返して寝具用の布を四枚と枕2つを持ってくる。
渡すと彼女はまた固まったが気にしない。
「じゃあマオ。
おやすみなさい」
「おやしゅみなしゃい……」
頭を撫でて俺も寝床に向かう。
なんだか精霊の女性がワタワタしていたような気がするが知らん。
ヴェルさんを優しく抱きしめながら夢の中へと落ちていく。
夢の中でヴェルさんと彼女との子供3人でピクニックをした。
凄く暖かくて幸せな夢だった。




