第108話 規模拡大
自分で作るには割りと手間だなぁと思っていたジルベルトに提灯の手配を頼んだところ結構大事になってしまった。
まず提灯に使う和紙。
ジルベルト曰く、紙は高級品ながらあるものの、和紙は無い。
ならば作ってみるかという話になった。
和紙の原料はクワ科の植物の楮という低木の植物で、その中でも繊維が細かく短く艶のある和紙を漉けるのは大子那須楮と呼ばれる種だ。
原料さえ見つかればその後は簡単。
竜王国の技術者達が張り切ってくれたことで提灯は量産される手はずが簡単に整った。
試作品を見せてもらったが、蛍光灯のように真っ白に光っていたので淡く暖色に光るように注文をつけておく。
「明るい方が良いんじゃないのかい?」
と、ジルベルトに首を傾げられたので、祭りの画像を見せることにした。
「……なるほど」
この世界で住んでいた彼は、俺の世界の情緒を理解してくれたらしい。
持つべきものは理解のある知り合いか。
「友人じゃないの?」
「……気恥ずかしいんですよ」
ジルベルトに突っ込まれた上ににんまりと笑われた。
歳を取ると簡単に友達って言えなくなる……これって俺だけじゃないよね?
さらに盆踊りの話を聞きつけた高橋氏が参加希望の旨を書面で伝えてきた。
似たことをしたいと常々思っていたのだが、音楽の才能がないのであきらめていたらしい。
俺は二つ返事でOKした。
氏の世界とはマルチバースだから細かい部分は違うかも知れないが、懐かしさなんかを感じてくれたら幸いだ。
……と感慨に耽っていたら、『静岡音頭』を流して欲しいとの要望が来た。
色々面倒になったので高橋氏を呼びつけた。
「触ってください」
賢者の杖を高橋氏に突き出したところ凄い勢いで後退りされた。
「な、なんで?」
「いや、高橋氏の世界の唄とおれの世界の唄が同じとは限らないでしょう?」
「大丈夫だ!
静岡音頭はしぞーかっ子の魂だからッ!!」
根拠無く言い切ったよ高橋氏……。
「とりあえずそれも含めて調べますので、触ってください」
「こ、断るッ!!
あれだろう、俺とハニーとの夫婦生活を覗くつもりだろうッ?!」
「どんな変態プレイしたんですか……」
これ以上は怖い笑顔の奥さんに責められてしまいそうなので、仕方なく俺の世界の静岡音頭で我慢してもらうことにした。
「ちょっと佐藤君。
初めから君の世界の唄を聞かせてくれればこんなことせずに済んだんじゃないのかなッ?!」
「……高橋氏の世界の風景を見てみたかったもので」
「いや、俺だって見たいけどね?
その杖を俺に触らせるのだけはダメッ!!
色々あるからダメッ!!」
仕方ないのであきらめよう……。
「君、なんというか腹黒になってない?」
ちょっと知的好奇心が暴走しただけです。
まぁ……いきなり竜王国の王様も来るからと事後承諾させられた事をちょっとだけ根には持っていますけどね。
そんなこんなでこじんまりと始まった盆踊りの準備は、俺の知らないところで竜王国の王様すら来るイベントへと姿を変えてしまった。
これも異世界人補正と言うやつなのだろうか……?




