第101話 ところ変われば新技術
「はいはい、ごちそうさま。
胸焼けするほどのところ悪いけどヴェルフール、着心地はどう?」
いつまでもにやにや手をつないで揺れていた俺達に嫌気がさしたのかアルさんが話しかけてきた。
「特に問題ないな。
胸の部分もきつくないし着心地も良い」
少し手を伸ばしたり上体を動かしたりしてみるも着崩れている様子はどこにもない。
だからといって服が鎧のように硬いわけでもなくやわらかそうに袖が揺れ、胸も揺れている。
……いかんいかん、告白が成功したせいでちょっと理性が緩んでしまった。
がっついていると思われたくないし、恐らくヴェルさんにそっちの知識もないと思うので焦らないようにしなければ。
「型崩れもなしね、我ながら良い出来だわ。
私特製の魔力糸を要所に編みこんであるからそこそこの防御性能も付与されているはずよ」
「防御性能って……何ですかね?」
「防刃機能よ、ちょっとやそっとの事では破れたりしないから遠慮なく普段使いして頂戴」
なんで浴衣にそんなもの……と思ったら今回使った魔力糸というのは弾力性があり、形状記憶できるという特性があるらしく、今回の浴衣にうってつけだったそうな。
そしてそれを編みこんでみたら防御力が上がったと……魔力って不思議。
「それは良いなッ!
あッ……でもそれだとすぐ汚れてしまいそうなのだ……」
「まっ、そこはあんたの旦那に頑張ってもらいましょ。
良いわよね、ヘタレ?」
アルさんが俺を見ながら言ってきた。
「ヘタレって俺のことですかね?」
「そうよ、やっと豚から新たな呼び方に進化してくれて助かったわ。
最近のあんたを豚と呼ぶのはどうにもしっくりこなくてね」
「でも俺は自他共に認めるデブですよ?」
「いつの話をしてるのよ、ここで暮らし始めてからあなた相当に痩せたわよ?
まぁ、鏡もないここじゃあ自分の体型が分からないのも仕方ないけど」
そうなのかっ!?
「まぁ、そこまで痩せてるーってわけでもなく貴族並みにぽっちゃりしてはいるんだけどね。
オークや豚に例えるのはどうなのよって結構前から思っていたのよ」
と、そう呼び始めた当の本人がバツの悪そうに告白した。
なら名前で呼んでくれれればと思わなくも無いものの最愛の人の行動を思い出して、ヴェルさんを抱き寄せた。
「ス、スズキッ?」
「ヴェルさんのためにありがとう、アルさん」
言われて驚いたのかアルさんが顔を背ける。
こちらに向けられた、髪に隠れ気味の耳は赤く染まっていた。
「別に、う、馬に蹴られたくなかっただけよ」
「……我輩からも礼を言おう。
だが、これからも風呂に一緒に入るのか?」
「それはあれよ!
そっちじゃ楽しく話してるのに、1人でお風呂とかさびしいじゃないッ!!」
「それで俺に裸を見せるのはどうかと……」
「うるさいッ!!
大体あんたは元から私の恋愛対象どころか男として見ていないのよッ!」
「スズキは男だぞ」
あっちょっとヴェルさんが悪い笑みを浮かべている。
気づいたアルさんの口がひくついた。
「あんたら……。
良いわ、ちょっと仕返ししてあげる。
私ね、最近賢者の杖と仲良くなったのよ」
「へぇ、イルカと仲良くなったんですか」
「……ヘタレが調子に乗るとどうなるか思い知らせてあげるわ」
アルさんの尻から糸が伸びていき、家の中にあった賢者の杖が彼女の手に収まる。
何をするつもりなんだ?
アルさんは今も文字の読み書きに不安があって、彼女だけでは杖は使えないはずなのに……。
「イルカさんッ、音声入力ッ!!」
あっ、やばい。
「乳袋ッ!!」
「はいなー」
イルカの間の抜けた声とともに多重表示されていく空間ディスプレイ。
さらには二次元でお馴染みの乳袋&スケベな画像の数々がこれでもかとディスプレイに表示されていく。
そう、ヴェルさんの浴衣に使われた新技術とは『乳袋』だった。
詳細な採寸とアルさんの驚異的な技術、さらには魔力糸を使い、編み出された“変態技術”の結晶こそがヴェルさんの浴衣である。
「……これはスズキの世界の画像だな?
カラオケのときの映像でも似たようなものを見たことがある」
「……はい」
「ほとんどの画像が女の半裸なのはどうしてだ?」
「……」
黙っていたらめっちゃほっぺを抓られる。
「ほ、ほういうほは、みはいほきほ、はりはふ」
「なんだろうなぁ、なんだか我輩の綺麗な白い毛が黒く染まりそうなのだ。
どうすればいいと思う? アルケニー」
「心の赴くままに行動してみたら?
死ななきゃ大丈夫でしょ」
悪魔の羽が見えるかと思うほど黒い笑みを浮かべるアルさんに微笑み返しながら俺はヴェルさんに引きずられて家の中へと吸い込まれていった。
「楽しんできなさい、このヘタレ♪」
初めて彼女ができたと浮かれて調子に乗ってゴメンナサイ。
尚、トロトロのあまあまで濃厚な時間だったものの最後まではいかなかった模様。




