第99話 竜王国の春
アルさんは採寸が終わると早速マネキンと共に自宅に帰っていった。
おこもりして浴衣完成まで心血を注ぐそうな。
完成は大体1週間後とのこと。
しかも反物から作るそうな……杖には反物はあってもその作り方まで載ってなかったと思うんだが、長年の勘で布の作り方程度なら写真を見れば分かるらしい。
この人技術も変態だと口にしたらまたハリセンで叩かれた。
何はともあれ、アルさんの行動を見ていると俺も触発されてしまったので、浴衣に合う物を何か作ることにした。
巾着は材料の問題もあるが専門家のアルさんがいるのでかぶりそうだから除外して。
下駄、雪駄、草履……そういえばヴェルさんって靴は履かないんだった。
綺麗好きなんで家に入る前はしっかりと足裏を拭くので手ぬぐい……だから布物は材料が足りない。
それに浴衣に手ぬぐいはなんだか旅館チック過ぎる。
と色々考えた末、竹でかんざしを作ることにした。
何本も失敗しながら何とか形を作っていく。
かんざしの先にはデフォルメしたヴェルさんの顔のシルエットをかたどってみることにする。
なかなかに難しい……。
「やぁ、また何か作っているのかい?」
ふと声を掛けられて顔を上げる。
ジルベルトが興味深そうに俺の手元を見ていた。
「こんにちは、ちょっとかんざしを」
と軽く経緯を説明するとジルベルトの眉尻が下がった。
なんぞ?
「いやぁ、最近街でもかんざしが流行っていてね。
久々に僕も欲しくなったんだよ。
でも僕、髪が短いからね」
そう言って首筋を掻くジルベルトはイケメンだった。
「伸ばさないんですか?」
「手入れが面倒じゃないか」
それもそうか。
「ヴェルさんは毎日楽しんでお手入れしてますからね。
そういう人じゃないと向かないかもですね」
ちなみに俺も毎日何故か仕上げを手伝っている。
……ぶっちゃけ今のヴェルさんなら自分でやった方が綺麗になると思うんだけど、ヴェルさんの髪を梳いているときはとてつもなく幸せなので、このことは俺から口にしてはいない。
おじさんはずるいのだ。
「だね。
そういえばヴェルフール様は?」
「あっちで歩き方の練習をしています。
どうにも俺には見せたくないようで……」
「ククっ、乙女心だねぇ。
薮蛇しないようにね?」
「しませんって。
それで今日は何の用です?」
「なんだ、もっとからかわせてくれても良いのに。
そうそう、前に香油と精油の作り方見せてもらったろ?
あれが軌道に乗ってね、報酬を渡しに来たんだ」
教えてからそんなに時間が経っていない気がするんだが、もう確立できたんだ。
素直に凄い。
「おめでとうございます。
報酬は現物支給でお願いします。
石鹸に混ぜるんで」
「まぁそう言うと思って全部現物で持ってきたよ。
ついでに石鹸もシャンプーもリンスも作ってきた。
いやぁ楽しみを取っちゃって悪いね♪」
「えっマジでッ!?」
ついつい敬語を忘れてジルベルトの持ってきた荷物の中身を確認した。
「凄い食いつきだなぁ。
まぁ王国でもこの3つの神器は女性に大人気だから仕方ないか」
小躍りしている俺を尻目にジルベルトが呟いたが知るものかッ!
ヒャッハーッ!!
補足
竜王国には主に昔高橋が演説を行った関係で農民ドラゴンが多く畑もたくさんあります。
寿命の長いドラゴン達にとって作物の品種改良はその暇を潰し且つ、実利(満腹と満足)があるため大変人気です。
ちなみに、精油作りのためジルベルトから教えてもらったハーブを育てていたうちの1人の農民ドラゴンがそのハーブに狂化の魔法をかけてたくさんのドラゴンから怒られました。
あとでサイドストーリーでも書こうかと思ったんですが入れるタイミングが分からぬ……になったので、メモがてらここに書いておくことにしました。
これまで何度かサイドストーリーを書こうかなってタイミングがあったんですがわりと頓挫してたんで、今度から何か思いついたらこんな感じでお披露目していこうかと思います。




