第97話 懐柔
「まぁ貴方達の閨事情なんてどうでもい……いえちょっと待って」
アルさんがなにやら考え込んでしまった。
何故だろう、凄く嫌な予感がする……。
しばしお互い無言になった後、たじろいでいる俺に向かってアルさんは悪魔のささやきをしてきた。
「ねぇ豚、ヴェルフールの浴衣姿……見たくない?」
「見たいです!!」
間髪居れずに答える。
そりゃ見たい。
髪を結ってうなじを見せつつ浴衣を着てはにかむヴェルさんとか超見たいッ!!
が、が!!
「が、無理はさせたくないッス……」
奥歯を噛みながら顔を背ける。
ヴェルさんはご立派様……いやこの際はっきりと言うがかなりの爆乳をお持ちだ。
その爆乳たるや、グラビアアイドルの爆乳表記が詐欺に見えるほどの綺麗で大きなお山である。
さらにはそのお山の頂上は少々恥ずかしが……いや、ここはどうでもいいな。
とにかくかなりのプロポーションの持ち主である彼女に浴衣は少々窮屈すぎるのだ。
元来、着物は胸の大きな人にとってそのまま着てしまうと、きれいに着こなせず、すぐに着崩れてしまうという欠点がある。
それは浴衣も同じであり、綺麗に起用とするとどうしても胸を潰す必要があるのだ。
「それは知っているわ。
これでも私、一度調べたことは絶対に忘れないのよ?」
ちなみに服飾、裁縫関連に関してのみの彼女の特殊技能である。
「昔の知り合いがおしゃれは我慢だと言っていました。
その我慢を強いてしまうのは間違いじゃないかと……」
さらに言えば浴衣や和服を嫌いにならないで欲しいという気持ちもあったりする。
「……あんた、前から思ってたけど変なところで詰まる人間なのねぇ。
あんまり変に細かい神経してると身動き取れなくなるわよ?」
「と言われましても……」
「それに、私だってヴェルフールに無茶をさせるつもりは無いわ。
せっかく人化の魔法を覚えて獣人になれたわけだし、色んな服、というかおしゃれを楽しんで欲しいの。
それが“女性”って物よッ!!」
そうなのだろうか、なんだか違う気がするんだけど、俺自身女性ではないので良く分からない。
「それに何も、私だって無策でこんな提案しているわけじゃないわ。
前に見たときに杖にあるものが映っていたのを思い出したのよ」
そういって、言われるがまま俺は杖で検索してみた。
何だろう……色々丸め込まれてほだされている気がしないでもない。
そしてアルさんが見つけた画像を見て俺は気が動転した。
「あばばばばばばばば……ッ」
「大丈夫よ、豚。
私も元人間だもの、大人のもてない男性がこういうのを見ていても仕方がないと思っているわ。
それにしても……」
アルさんは再度その画像に顔を向けると冷笑を浮かべながらもどこか感心した声色でこう言った。
「貴方の世界って色々……ぶっ飛んでるわねぇ」
何も言い返せず、俺は恥ずかしさのあまりその場でうずくまって悶え苦しみまくってしまった。




