第10話 これからのこと
真面目回。
さてヴェルさんの願いも叶い、2人で今後の話をする。
俺はヴェルさんに元の世界に帰りたい旨を伝えた。
目を見開き悲しそうな顔をしたヴェルさんだが、何かをグッとこらえるように唾を飲み込んでいた。
……ズキリ、と胸が痛む。
「そうだな……帰る場所があるなら帰るべきだ」
「そのためにこの賢者の杖、借りていい?」
この杖はなんでも知っているかもしれない数少ない手がかりだ。
闇雲にこの世界を探し回るより絶対に見つかる可能性がある。
「別に良いぞ、言った通り吾輩は読み書きが出来ん……何なら今調べてみれば良いじゃないか」
そう言われて調べてみる。
単語は『異世界』『帰還』『魔法』『召喚』……
思いつく限りの方法で試してみた。
だが結果は出ない。
『異世界』『召喚魔法』で検索をかけてみたがそれでも出ない。
そもそも召喚魔法というのが存在しないのかもしれない。
気づいたら夜になっていた。
躍起になりすぎていたようだ……。
ヴェルさんが野草をくれる。
身体の慣らしがてら集めてくれたらしい。
感謝しかない。
簡単に食べるとヴェルさんが外套をレジャーシート代わりに敷いた。
ポンポンと外套を叩き、俺を呼ぶ。
まだ調べたい気持ちはあったが、正直成果が上がるかわからない。
それに……調べれば調べるほど帰る手段なんか無いのでは、という絶望感が頭の中に靄のように広がっていた。
近くに荷物を置き、腰ひもを解いて言われるがまま寝かされる。
ギュッと抱き着かれた。
俺もあまり力まずに抱き返すと、ヴェルさんがクゥンと鳴いた。
……甘えモフ尊い。
不思議とドギマギしなかったのはその余裕も無いほど追い詰めていたからかもしれない。
「……見つかるまで結構かかるかもしれないなぁ」
何の気なしにつぶやく。
見つからないとは言わない、言いたくない……。
ヴェルさんもうなずく。
「なら……吾輩と住処を探すのはどうだ?」
「うん……腰を落ち着けて考えたほうがいいかも……あとお肉と調理してちゃんと食べたい……」
「食べれば良いじゃないか。調理できそうなところを探そう」
「風呂も入りたい……」
「どんなものか知らないが入れば良いじゃないか」
「ふかふかの寝床も欲しい……」
「それは吾輩も欲しい。屋根がほしい……雨に打たれながら寝るのはな……何とも言えない気持ちになるんだぞ?」
ヴェルさんが俺を見つめる。
「冬とか大変そうだ」
「寒さで死ぬかと思うぞ。常時火の魔法を使っていた」
「え?」
「ずっと一定の火力を維持するのが難しいんだ」
「……乾燥した木とか燃やせば……」
「……それは考え付かなかった。やはりスズキは知恵が回るな。火も起こせないのに」
クスクス笑うヴェルさんを撫でる。
ヴェルさんは目を細めた。
「今は……ちょっとだけまだ屋根がなくても良いかと思える……な……寒くないから……」
ヴェルさんが身体を身じろぎ、こすり付けてくる。
「ヴェルさん眠いでしょ?」
「うん……」
「明日、これからの予定を立てようか」
「……うん」
ヴェルさんの瞼が落ちる。
俺はギュッと彼女の身体を抱き寄せた。
餓死の危険が減った。
孤独じゃなくなった。
しかし……。
……たぶん異世界に帰還する方法を見つけるのは時間がかかる。
ならば、まずは衣食住を揃えよう。
腰を落ち着けて考えればきっと突破口が見つかるはずだ。
困り果てたら怖いけど、龍族でも尋ねてみよう。
欠陥魔法から人化の魔法を生み出した種族だ。きっと優秀な人(?)たちが揃っているだろう。
コダマたちが寄ってきて俺の頭を撫でる。
ヴェルさんとコダマ達のお陰で少しだけこれから先の恐怖が和らいだ俺は、静かに夢の世界へと落ちていった。
ここまでの読了ありがとうございます。
一応、ここまでがプロローグという扱いです。
あくまでほのぼの日常にちょっとのギャグなノベルを目指しているので、あんまり真面目回は作りたくは無いのですけどもやはりストーリー上必須な真面目回というのは出来てしまいますね。
登場人物を一度まとめたあと1週間後あたりからまた投稿を再開します。
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