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図書室のお茶会  作者: ゆきづきせいな
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第4章

集会が始まる。学園長がはじめ軽く挨拶をする。


そう、軽く20分くらい。


全然軽いと思わないのは俺だけだろうか?軽く挨拶するって言って20分なら、普通に挨拶したら40分くらいは余裕で話し続けるんじゃないか?


その後、「では、司書の先生を紹介します。」と紹介され、ステージ脇の控室からスーツ姿の女性が出てくる。


「おお」と男子生徒の声がちらほら聞こえる。


「おいっ!!」


俺は思わず叫んでしまった。


昨日のクレーマー女じゃねーか!!


一同が俺を見つめた為、クレーマー女もその視線に乗る。


「あ~!!あんた昨日の!!」


クレーマー女が俺を指差しながら格好に似つかない声で叫ぶ。しかも丁寧にマイクまで使って。


「お、おほん!」


学園長が咳払いすると、クレーマー女は我にかえった。一同も俺から視線をステージへ戻す。


「あ、し、失礼しました。この学園の司書として配属されました湊奈々(みなと ななせ)といいます。よろしくお願いします。」


ペコリと挨拶するが、明らかに俺を睨んでいる。


俺は花音がいる列を見る。


チラッ。


花音が俺と目を合わせた瞬間、そらした。


くそ、他人のふりか。


湊…先生(とつけるのは不本意ではあるが学園なので一応そう呼ぶ)は花音に気付いているだろうか。放課後…きっと委員会なんだろうな~。


俺は波乱な委員会の幕開けを覚悟し、憂鬱になるのだった。


不意に視線を再び花音に移そうとしたらアンジェリカと目が合ってしまった。


アンジェリカは俺に気付くと軽く笑みを見せ礼をする。アンジェリカは口パクで何かを俺に伝えようとしていた。


「??」


なんだろうか?一句一句ゆっくり口を開き、解読できるようにしてくれている。


「お・し・り・あ・い・で・す・か・?」


お知り合いですかという意味らしい。


「ち・が・う」


とすぐさま返す。勝手にいちゃもん付けた女だしな。こっちは被害者だ。


こうして臨時学園集会は赴任紹介だけなのに30分以上もかけて終了した。


放課後。予想通り、委員会の招集連絡が入る。


「あっちゃん、委員会行こ~。」


ちこがいつものように机まで迎えに来る。


「悪い、ちょっと寄るところがあるから先に行っててくれ。」


そんな場所は無い。正直行きたくないんだよな。


「分かったよ。遅れないようにね。」


そう言うと、ちこはそのまま図書室へ向かった。


俺は今日は委員会に行くと面倒そうなので屋上へ行くことにした。



―――――――――



屋上の扉を開ける。重圧感のある開き方をする扉は「ギギギ~」と音をたてる。


心地いい風が吹き抜ける。空は雲ひとつない快晴。夕方までは雨も降らないだろう。


ん?誰か先客がいるようだった。


空というよりは街の遠くを眺めているようだ。


「あれ?アンジェリカじゃないか。」


「坂上さん。ごきげんよう。」


「おう。」


アンジェリカの隣に立ち、フェンスを握る。アンジェリカもそうしてるから何となく。


「今日はもうお帰りなのですか?」


「いいや。委員会があるんだけど面倒くさくてな。」


「あら。サボリですか?いけませんね。」


「たまには良いんだよ。元々入りたくて入った委員会じゃないんだよ。」


「そうなのですか?ではなぜ委員会に?」


「幼馴染に誘われたんだよ。ただそれだけ。」


「一度は入った委員会です。途中で投げ出すのはいけないと思いますが。」


「それはそうなんだけどな。アンジェリカはどうしてここに?」


「私はいつも放課後はここにいます。景色を見るのが好きなんです。」


「……。」


しばしの無言。俺はまたあの言葉を思い出していた。



『妹がいたんです。』



その言葉のせいだろうか。なぜだかアンジェリカが寂しそうに見えた。


「アンジェリカ。」


「…はい。なんでしょうか。」


「瞳の色について聞いていいか?無理にとは言わないけどさ。」


「……。」


アンジェリカは掴んだフェンスを離すと俺のほうをまっすぐ向いた。


「坂上さん。どうして知りたいと思うのですか?」


どうしてと言われると理由はないんだけど。俺は答えを探していると、アンジェリカが瞳を閉じ話を続ける。


「坂上さん。私はこの学園で友達を作るつもりはありません。ですので理解を求めるようなことをするつもりもありません。」


「え?でも、昨日は親友に出会ってみたいって言ってたじゃないか?」


「出会ってみたいと言っただけです。ほしいとは言っていません。」


「そうか。」


アンジェリカは瞳を開く。赤い瞳。その瞳を見続けると何か吸い込まれそうな錯覚に陥る。


「坂上さん。」


「何だ?」


「私にあまり関わらないでください。」


「……。」


はっきりとした拒否。昨日の会話がまるで嘘のように距離を置かれている。


「失礼します。」


アンジェリカは一礼すると俺に背を向けた。


「アンジェリカ!」


「何ですか?」


アンジェリカは振り返らず、そのまま立ち止まり返事を返した。


「…妹。」


なぜ呼び止めたのか。


それは、ここで聞かないともう話ができない。そんな気がしていたからだと思う。


「妹が…どうかしましたか?」


振り返らない。でもその背中は少し震えているようにも見える。


「今、どうしてるんだ?」


「…坂上さんには関係のないことです。」


アンジェリカは再び歩き始め、屋上を出て行った。


出入り口の扉が重い音とともに閉じられる。


それはまるでアンジェリカの心の扉でもあるかのように感じた。


俺も屋上を出て今日はもうサボって帰ろうと扉へ向かって歩き出した。


「まさか、帰ろうとか思ってないでしょうね。」


「うおっ!」


植木が一列に置かれた側に設置されているベンチから急に声を掛けられた。クラスメイトの(あおい)だった。


「お前、いつからいたんだよ。」


「あたし?坂上君がここに来る前から居たわ。こういう日は外で小説を読むのが好きなのよ。」


相変わらず、左目に緑、右目に茶色のカラコン(カラーコンタクトレンズ)を付けている。


「お前さ、そのカラコンいいのかよ?風紀委員なんだろ?」


すると葵は小説にしおりを挟むとページを閉じる。


「女の子に振られた腹いせ?」


「何だよ?それ…。」


「今あの留学生に振られてたじゃない。」


「そういう話をしてたんじゃないぞ。」


「そう。」


「そうだ。」


帰ろうと葵の横を通り過ぎた時。


「坂上君。」


「ん~?」


「この国で生まれた人間は皆瞳が黒い人ばかりだからと言って、それが標準だと思わない事ね。」


「どういう意味だよ。」


「瞳が黒じゃないからおかしいなんて思うほがおかしいって事よ。」


「…アンジェリカとの話、聞いてたのか?」


「聞こえたのよ。」


「私だって左目は緑だし、右目は茶色よ。」


「それはカラコンだからだろ?」


「…もしそうじゃないって言ったら?」


「え?」


「もし私の瞳がカラコンじゃなかったら坂上君はどうするっていうの?」


「…それが事実なら驚くけど、何かするって事はないぞ。」


!!


ふと気付かされる。そうか。そういう事か。


「気付いたかしら?少年。」


「少年じゃねーよ。」


「例え瞳の色が違っても、アンジェリカさんはアンジェリカさんなのよ。瞳を黒く変えたとしても、アンジェリカさんが変わるわけじゃない。」


「ああ。そうだな。」


「ちなみにこれはカラコンよ。」


「だろうな。よほど無垢なやつじゃないと信じないかもな。」


神杜(かみもり)さんなら信じてくれるかしらね。」


「どうだろうな。あいつは意外とあっさり信じるかもな。」


「だったら、坂上君はちゃんと委員会に行って神杜さんのその信頼を裏切らないようにするべきね。」


「お前ストーカーかよ。」


「失礼ね。これでも風紀委員よ。あなたは問題児なのよ。自覚なかった?」


自覚があるほうがすごいよ…。


(みなと)司書と問題を起こさないようにね。」


葵はそう言うと再びページを開いた。


「問題を起こすなというなら俺は委員会に行かないほうがいいな。あっちから仕掛けてきそうだからな。」


「何かしたの?坂上君。」


続きを読みながら答える葵。器用なやつだ。


軽く昨日の出来事を説明する。


「…坂上君も災難だったわね。」


「ああ。」


「意外にそういう人って、仲良くなると一番頼りになる存在になるものよ。」


「そうか~?そうは思えん。」


「いいえ。これはあたしの経験上のアドバイスよ。きっとなにかあった時は全力で力になってくれるタイプだわ。」


「へ~。」


「だから、委員会に行きなさいよ。行かないと風紀委員として対処するわよ。」


今は風紀委員として接していないわよと恩着せがましく語る葵。


「分かったよ。ったく、今から行くよ。」


「また明日ね。坂上君。」


「ああ。また明日な。」


こうしてさぼれる雰囲気でもなく、仕方なく図書室へ向かうのだった。


少し躊躇いつつ図書室にはいる。


「あっちゃん、こっちこっち。」


今日は司書室ではなく図書室のテーブルに集まっていた。


「坂上君がようやく来たから始めるわよ。」


橘先輩が委員会の開会を宣言する。


俺はいつも通りちこの隣に座る。


湊先生改め湊司書はの軽い自己紹介と、今後のデータベース化の概要が説明された。


湊司書は不思議とからんでこない。花音がいるからだろうか?


ん?ふと足をつつかれる。


足元を見ると、ちこがなぜか足を絡ませてくる。


えへへと笑顔。


「最近はこうして隣に座ることなかったから。」


と小声でささやいた。


確かに最近はちこと一緒にいる時間が減ったような気がする。


そんな事を考えていて、結局委員会の内容をあんまり聞いていなかった。



――――――――



「坂上君…。」


湊司書に声をかけられた。


またからまれるのだろうか…。


「昨日は悪かったわね。嫌な事があってむしゃくしゃしててさ。更にあなたたちのカップルを見たらイラッとしたの。」


謝ってんのか、それともケンカ売ってんのかこの人。


でも、謝ってきた以上許してやるのが俺の主義だ。


俺っていいやつだろ?


「気にするな。」


「何か微妙にムカつくわね。まぁいいわ。これからよろしくね。」


何だか拍子抜けだ。ま、穏やかに済ませるにこしたことはないけど。


「あっちゃん、一緒に帰ろ!」


「そうだな。」


「ほんと久しぶりだね。」


こうしてちこと帰ることになった。


図書室を見渡すと、花音の姿はなかった。


ちこと二人で昇降口に向かうと、朝にはなかった風紀委員会からの張り紙が目に入った。


「女性誘拐事件多発中につき、女生徒は注意?」


誘拐事件?


「あっちゃん知らないの?昨日だけで二人行方不明になってるみたいだよ。」


「行方不明なのになんで誘拐って分かるんだよ?」


「居なくなったと思われる場所に、その人のバックとかが残ってたらしいよ。」


「ちこも気を付けろよ。」


「あっちゃんがいるから私は大丈夫だよ。」


えへへと微笑む。


「ちこ、実は俺が誘拐犯だったんだ。」


「やっぱり!」


「やっぱりってなんだよ!」


「あっちゃん最近色んな女の子のお尻を追いかけてるしね。」


「いつ誰を追いかけてるんだよ?」


「水無月ちゃんとか…。あとアンジェリカちゃん。」


「追いかけてないし。」


「そういえば今日は花音を見なかったなぁ。」


ぎゅっ。


「痛っ!」


ちこに腕をちぎられた。


「女の子と歩いてるのに違う女の子の話はダメだよ、あっちゃん。」


何年も一緒なのに今さらじゃねーか。


「あっちゃん。」


「ん?」


「私…そんなに魅力ない?」


腕を絡めてくる。さりげなく胸が当たってるし。ちこはあんまり目立たないのに少し大きいんだよな。


「あっちゃん顔赤いよ?」


「うっせーな。離れろよ。」


こうしていつも通りのやり取りをしながら帰ったが、さっきの感触に少しドキドキしていた。


でも、身体的接触のせいだろうけどな。


「あっちゃん、私の部屋寄ってく?」


「おう。久々にお邪魔するよ。」


こうしてそのままちこの部屋に寄る事にしたんだが、俺は部屋に入るなり驚愕する。


リビングに巨大な抱きまくらが…。


しかも美少女ナース。これってまさか。


「ちこ、これ…薬局か?」


「うん。置き場に困ってるんだよね。」


お互いなぜかしばしの沈黙。


「…使わないのか?」


「さすがにこれは使えないよ…。」


女の子だしと付け加える。それはあんまり関係ないと思う…。


「それにしても、もう薬局の懸賞の域を超えてるよな。」


「うん。だよね。」


「これ、持って帰ってくるのはずかしくなかったか?」


「…はずかしかった。」


だろうな。俺だったら棄権して持ち帰ってすらいないだろう。


「でも、あっちゃんはこういうセクシーなの好きでしょ?」


「ばっ!なわけあるか!」


はい。大好きです。


「本当に?見えそうで見えないよ?」


「ああ。断じて!」


はい。大好きです!


心は自由っていいな~。


「嘘でしょ?」


ちこが顔を寄せてくる。


「本当は好き…だよね?」


「くどいな。」


はい。大好きです。


「この抱きまくらが水無月ちゃんだったとしても?」


それはそれでありだな。


「あ、躊躇した。」


「してないしてない!」


「嘘。今一瞬それもありかなって顔してた!」


どんな顔だよ。それ。


「むむう。」


「どうしたんだよ?ちこ?」


「え?いや、ただ何か悔しいだけ。」


「セクシーじゃなくてか?」


「違うよ~。何か水無月ちゃんに負けたかなって…ね。」


「……。」


「あっちゃん。」


「何だ?」


ちこはどんどん接近してくる。


「水無月ちゃんのどこが好きなの?」


「誰も花音が好きだなんて言ってないぞ。」


「なら、私のどこが好き?」


「え?」


なんなんだよ、この空気。


「もう長い付き合いでしょ?私のどこが好きなのかな~?」


「からかうなよ。もういいだろ?」


なんとか回避したい。このままでは今までの距離が崩れてしまう。ちこに言わせてはいけない。


俺はちこの気持ちを知っているから。


「私、本気で聞いてるよ?」


頼む。このままじゃいけないのか?


ちこにそのまま押し倒される。女に押し倒されるのは何か情けないが、今はそれよりも言わせてはいけない言葉をどう回避するかを考えていた。


ちこの髪が顔にかかる。


「ちこ、俺は素直なところが好きだ。」


俺の好きはお前の感じている好きとは違う。


でも、それは口にできなかった。


「わ、私、素直かな~。」


「ああ。」


「ちこ、そろそろどいてくれないか?」


「…。」


「ちこ?」


「…嫌。」


「ちこ、どうしたんだよ。」


「私、あっちゃんとずっと一緒にいたい。」


「本当にどうしたんだよ?」


「最近ね、不安なの。私、あっちゃんと離れ離れになりそうで。」


「…あっちゃん、約束してほしいことがあるの。」


「何だ?」


「あっちゃんに好きな子ができてもかまわない。でも、私から離れていかないでほしいの。ずっとこの関係で一緒にいさせてほしいの。」


ちこの気持ちが伝わってくる。俺以上にちこのほうが今の俺の気持ちを理解しているのかもしれない。


だから、俺も誠意をみせる。


「ああ。何かあったら俺が守ってやる。心配するな。」


「ありがとう。」


ちこの涙が、俺の顔を濡らしていた。俺はそのままそっと頭を撫でてやるのだった。


恐れていた一言は無事に回避できたらしい。俺はまだ、誰が本当に好きなのかなんて分かっていなかった。


言わば卑怯者だ。


不意に着信音が部屋に鳴り響く。


「あ、私だ。」


ようやくちこが起き上がり、俺は解放された。


「もしもし…。」


ちこが誰と話しているのかは分からない。電話先の音声も漏れていない。


「え?今から?うん。分かったよ。」


電話を切るちこ。


「どうした?」


「あっちゃん、ちょっと私出かける用事ができたから今日はごめんね。」


「ああ。別に構わないよ。誰かと会うのか?」


「うん。アンジェリカさん。」


「アンジェリカ?お前仲よかったっけ?」


「図書当番の時によく借りに来てたから、そこで仲良くなったんだよ。」


妙だ。確かアンジェリカはこの学園で友達を作るつもりはないと俺に話していたはずだけど。


「あっちゃん?」


「あ、何でもない。気をつけてな。」


「うん。」


こうして、俺はちこの部屋を後にした。



―――――――――



自分の部屋に戻った俺は、今だにアンジェリカの矛盾がひっかかっていた。


携帯電話を開く。


16時34分。


ここで俺は思ってしまう。花音や橘先輩、今まで関わってきた人たちの電話番号が俺のアドレス帳には登録されていない。


友達だといってもこういうときに誰とも連絡が取れないのは無性に俺を不安にさせていた。


アドレス帳を50音順に意味もなく眺めてゆく。



『夏目百合』



夏目先輩のアドレス帳で指が止まる。


「…俺、夏目先輩と電話番号を交換した覚えがないぞ。」


ドクン。


心臓が一度大きな鼓動を打つ。何だろう。何か俺は忘れていないだろうか?


そんなよく分からない思いに襲われる。


俺は夏目先輩に電話をかけてみる。


しばらくすると呼び出し音が鳴る。現在も通じている。


まさか夏目先輩が出る…という事はないはずだ。


「もしもし?」


応答あり。


「あ、あのすみません。夏目百合さんの携帯電話でしょうか?」


「そうですが。」


待て待て、本当に夏目先輩なのか?


すると電話口から笑い声。


「分かりませんか?秋伸先輩。」


「もしかして、花音?」


「はい。これは百合ちゃんのご両親からいただいた百合ちゃんの形見の電話です。」


「今は花音が使っているのか?」


「はい。そのまま私が使わせてもらっています。」


「そうだったのか~。一瞬夏目先輩が生きてるのかと思って焦ったぞ。」


「秋伸先輩はいつも私と話をするのに気付かないなんて意外です。」


「電話口の声って、実際の声と違って聞こえるからかな。」


「…先輩は薄情者ですね。」


「何だよ、それ。」


「私の声、忘れないでくださいね。」


そして花音が意味深な言葉を放つ。


「せめて声だけでも。」


「どういう意味だよ?」


「さあ。何となくそう思っただけです。」


「またいつもの予感か?」


「そのようなものかもしれません。」


「そうか。忠告ありがとう。」


「先輩?」


「ん?」


「もしかして、何か覚えていますか?」


「何をだ?」


「…いえ。なんでもありません。」


花音の声が少し寂しそうに聞こえたのは、きっと気のせいなんかじゃない。


俺は何かを忘れているのか?さっきの鼓動も。忘れていたなにかを思い出す為の合図だったのだろうか。


「先輩はなぜ百合ちゃんの番号を知っているのですか?」


「え?何でかな。携帯になぜか入ってたんだよ。俺も不思議なんだけどさ。」


「…先輩。」


「ん~?」


「今から会えませんか?」


「今からか?俺は大丈夫だけど。」


「でしたら、高台公園で会いませんか?お話があります。」


「分かった。」


わざわざ会って話すとはどんな内容なんだろう。


いまだに晴れない心のもやを感じながら、軽く身支度を整え約束の場所へ向かった。


【視点変更:傍観者】


アンジェリカは高台公園へ再び訪れ、街を見下ろしていた。


彼女は何を思い、この街並を眺めているのだろうか。ずっと、ただひたすらに眺めている。


「この街がそんなに好きなのかい?」


アンジェリカは振り返らない。彼女に声を掛けてくるのはたったひとりしかいないからだ。


「天地様。」


天地はアンジェリカの隣まで歩み寄ると、同じように街を眺める。


「答えは出たのかい?」


「はい。私は妹を救いたい。」


「…そうか。」


天地は街を眺めながら言葉を続ける。


「でも、もう少し穏やかにやるべきだと僕は思うな。」


「これでも私は穏やかにやっています。」


「いいや。この街は誘拐事件が多発している。」


「…だから、どうだというのですか?」


「アンジェリカ。君は僕に何かを隠している…違うかい?」


「何も隠していません。」


『本当に?お姉さま?』


「!!」


アンジェリカは天地のほうを勢いよく振り向く。


「あはは。どうだい。似てるかい?」


天地が彼女の妹フランチェスカの声をそのまま発した。彼はそういう能力を持っている。


「アンジェリカ。君にもこの能力がある。使い方は自由だが、間違えたときの覚悟はできているのかい?」


「…。」


「君はこの声をそのまま再現できる能力を悪用している。」


「…。」


アンジェリカは顔を背ける。その行為は彼女がその事実を肯定しているいい証拠でもあった。


「ひとつ忠告してあげるよ。」


天地はアンジェリカの反応を気にも留めていない様子で続ける。


「創造主の能力は僕の能力の一部でもある。その能力を悪用するのは僕に対する冒涜でもある。」


ここでアンジェリカはようやく口を開く。


「天地様は、神にでもなるおつもりですか?」


「まさか。僕は本来の力を取り戻したいんだよ。」


「フランチェスカを取り戻したいとはっきり言ったらどうですか?」


「それは君の望みだろう?」


「…。」


「妹の魂は僕が持っている。君は妹を救うという答えを選んだ。これは君が自分で導き出したシナリオではないのかい?」


「そうです。しかし、その始まりを作ったのは天地様です。私は天地様のシナリオを歩んでいる。それはまるで私のシナリオであるかのように装う、あなたの計略でもあります。」


「さすがはアンジェリカ。」


天地はアンジェリカの首筋に触れる。アンジェリカは抵抗しない。


「でも、目的は一緒だろう?早く器を探す事だね。」


「…。」


天地はそのまま背を向け、高台公園を後にした。


アンジェリカは再び街を見下ろす。


「私は、私の意志で妹を救う。」


誰にでもなく放った彼女のその言葉は、一筋の風とともに消えた。


【視点変更:水無月花音】


秋伸先輩よりも早く行って待っておこうと思い、約束の時間よりも早めに高台公園へ向かう。


私はなぜ秋伸先輩の携帯電話に百合ちゃんの電話番号が入っているのかが知りたかった。


百合ちゃんが秋伸先輩に電話番号を教える事ができた場所は本当の過去でしかない。どうして先輩の電話がそのまま過去から戻ってきているのか。百合ちゃんの何らかのメッセージの可能性がある。


「あれ?アンジェ?」


高台公園にはアンジェがいた。


「あら?カノン。ごきげんよう。」


「どうしたのこんなところで?」


「私は街を見下ろすのが好きなんです。カノンこそどうしたのですか?」


「ちょっと待ち合わせをね。」


「デートですか?」


「そんなんじゃないよ。」


「坂上さんですか?」


「待ち合わせの相手はそうだけど、デートじゃないよ。秋伸先輩には神杜(かみもり)先輩がいるみたいだし。」


「カノンは、坂上さんが好きですか?」


「え?いや、それはどうだろう。わかんない。」


「大切な人が側にいるという事は幸せなことです。」


「アンジェ?」


「カノン、ユリに会いたいですか?」


「え?それは会いたいけど、それは叶わない願いだよ。」


「もし、坂上さんとユリ。どちらかを選んでそのどちらかと再会できるとしたら、どうしますか?」


「は?」


急に何を言い出すのだろうか。


「坂上さんとユリ、カノンはどちらを選びますか?」


「…アンジェ。私はどっちも選べないよ。」


「どうしてですか?」


「どっちも大切だから。その言い方だと、選ばなかった方は二度と会えないって感じに聞こえたんだけど?」


「カノンは鋭いですね。」


「カノン、選ばないという選択肢はそれを放棄することと同じです。」


「…いいの。私はどちらかを切り捨てたくないの。私がどちらも選ばなければ二人は存在できる。例え会えなくてもこの世界のどこかで幸せに暮らしているのならそれで私は満足。」


「カノンは強いですね。」


「ううん。弱いよ、私は。」


「それでは私もこれから待ち合わせがあるので失礼します。」


「うん。また明日。」


アンジェは公園を去っていった。


さっきの質問の意図が気にかかった。どうして秋伸先輩と百合ちゃんが比べられたんだろう。


赤い瞳。


もしかしたら、アンジェは雪月さんと何か関係があるんじゃないだろうか。そんな気がした。


もしアンジェがシナリオを書き換える力を持っていたのなら、もう一度百合ちゃんに会えるのだろうか。


でも、それは人ならざる力。それは私が一番よく知っている。


ぼんやりと考え事をしていると、秋伸先輩が公園にやってきた。



『大切な人が側にいるという事は幸せなことです。』



さっきのアンジェの言葉が再び思い出される。


「どうしたんだ?急に?」


「一つ聞きたいことがります。」


そこで電話番号をいつ知ったか聞こうとすると、再び急激な眩暈に襲われる。


これもあの見えない抑止力のせいだろう。


やっぱりこれも過去に関係ある何かだから、事実を知らない人には話せないようになっているみたいだ。


「おい、大丈夫か!?」


立っていられなくなったところで、秋伸先輩に抱きとめられる。


「どうした?気分でも悪いのか?」


「すみません、大丈夫です。」


どうやら今回はこの質問ができないということは、雪月さんに関係しているということだと思うので、百合ちゃんの携帯番号を秋伸先輩の携帯に登録したのは雪月さんだ。


「今日は話はいいからもう帰ろう。送っていくから。」


「いいえ、平気です。ひとりで帰れますから。」


「一人は危ないだろ?今は誘拐事件も多発してるらしいから。」


「…迎えを頼みますので平気です。」


「なら、迎えが来るまで一緒に待っててやるよ。」


「すみません。」


「調子が悪いのにわざわざ待ち合わせまでして、何を聞きたかったんだ?」


「…百合ちゃんのことです。」


「夏目先輩の?」


ここでまた急激な眩暈。でも、続けないと。聞かないと。まだ抱きとめられているのでそのまま眩暈を堪え続けようとする。


「おい花音!?大丈夫か!?」


「先輩はゆ…」


「ゆ…」


眩暈がひどくて言葉が発せない。ひどい眩暈だ。


「ゆ?」


「おい!どうした!?」


意識が遠くなり、先輩の声が遠く聞こえる。それでも心は必死に一言を発しようと頑張る。



――先輩は、百合ちゃんの電話番号をどこで知ったんですか。



どうしても言葉にできず、そのまま意識は途絶えた。



―――――――――



目を開けると見知らぬ部屋の天井。


私はそのままゆっくりと起き上がる。どこかのリビングのソファに横になっていたようだ。


「気付いたか?」


「秋伸先輩?」


「花音が意識をなくしたから、とりあえず家に連れてきたんだ。俺の家のほうが近かったし。」


「…普通は救急車ではないのですか?」


「え?ああ、思いつかなかった。」


「体目的ですか?」


「ばっ、違う!!」


相変わらず反応が面白い。


「冗談です、すみません。」


「もう平気か?」


「はい。神杜(かみもり)先輩はいないんですか?」


「ちこは何かアンジェリカと会うって言って出掛けたままだぞ。」


「アンジェに?」


「ああ。図書室で仲良くなったそうだ。」


「神杜先輩は一人で?」


「ああ。」


ここで私と秋伸先輩が「はっ」とした顔で見合わせる。


「一人!!」


「ちこに電話する!」


秋伸先輩が電話を掛け始める。


「…。」


「だめだ。出ない。」


「私、高台公園でアンジェに会いましたよ。」


「え?じゃあ誰がちこを呼び出したんだ?」


「アンジェは待ち合わせがあると言っていました。」


「待ち合わせ場所は聞いてないか?」


「聞いていません。」


大丈夫だろうか。


「先輩、一緒に探しに行きませんか?」


「俺だけでやるよ。今日はもう帰って休め。」


「いいえ。平気です。」


「無理だったらすぐ帰るんだぞ?」


「はい。」


こうして先輩と神杜先輩を探す為に家を出た。


【視点変更:神杜ちこ】


アンジェリカちゃんとの待ち合わせの場所に着いた。待ち合わせ時間10分前。


辺りを見渡すけど、アンジェリカちゃんの姿はなかった。


街中で行きかうひとたちを眺めながら時間を潰す。


20分以上待っても、アンジェリカちゃんは現れない。


「どうしたんだろう?」


電話を掛けようとすると背後から声を掛けられた。


「遅くなって申し訳ありません。」


「アンジェリカちゃん。よかった~。何かあったのかと思ったよ~。」


「ごめんなさい。」


「無事ならよかったよ。」


「神杜さん、少し高台公園までお付き合いしていただけませんか?」


「うん。いいよ。」


今は夕方。高台公園はこの時間あたりから人気がなくなりはじめる頃だから、あんまり気乗りはしなかったけど仕方ない。


高台公園はここから歩いて30分くらいかかる。


市営バスの通過点になっているので、丁度いい発車時間の市営バスに二人で乗り込む。


アンジェリカちゃんは無言だった。


でも、すごく寂しそうな顔をしていたので、声をかけられなかった。



―――――――――



高台公園に到着。予想通り誰も居ない。


「アンジェリカちゃん、用件は?」


「神杜さんは今大事な人はいますか?」


「え?急にどうしたの?」


「私には妹がいます。でも、今は離れ離れです。」


「どうして?」


「それは話せません。どうですか?」


「…いるよ。」


「坂上さんですか?」


「…うん。」


どうしたんだろう。アンジェリカちゃんもあっちゃんのことが好きなのだろうか。


「大切な人が側にいるというのは、とても幸せなことですよね。」


「う、うん。」


アンジェリカちゃんになぜか恐怖心が沸いてくる。なんだろう。周囲が薄暗いからかな。


「最期に、坂上さんに言いたいことはありますか?」


「え?最後?最後ってどういうこと?」


「最期…人生の最後という意味です。」


するとアンジェリカちゃんに思い切り投げ飛ばされる。


「!!」


とりあえず起き上がって逃げる。でもすぐに追いつかれて、腕を引かれる。


「アンジェリカちゃん!?どういう事!?意味が分からないよ!」


ベンチに押し倒され、アンジェリカちゃんが上に覆いかぶさる。黒く染めたきれいな髪がベンチに垂れる。


「神杜さん、私には妹がいます。」


「…。」


恐怖で言葉がでない。あっちゃん、助けて…。


「でも私の側には妹はいません。」


恐怖心を必死に押さえ、会話に付き合う。そしないと何かされそうで不安だった。


「どうし…て?」


アンジェリカはバスの中で見せた悲しい表情になる。


「妹は捕らわれています。私は、妹を救いたい。」


不意に携帯電話が振動する。


「ア、アンジェリカちゃん。電話…出ていいかな?」


「ダメです。」


「!!」


アンジェリカちゃんはスカートの中から刃物を取り出す。太ももの辺りに小さなポーチを隠しもっていたようだ。映画とかだと、銃をしまってるホルスターという感じ。


「電話に出ると死にますよ、神杜さん。」


「どうして?こんな…事を?」


「…妹を、救いたいからです。」


「私は、妹さんとは何も関係はないよね?」


「…はい。ですが、器にはなれるかもしれません。」


「器?」


「ここから先の話は神杜さんには関係ありません。」


「アンジェリカちゃん。」


「何ですか?」


「私、手伝おうか?妹さんを助けたいなら。」


「…でしたら、ここで死んでください。それが神杜さんにとって一番の手伝いになります。」


「ど、どうして!!」


死にたくない。助けて、あっちゃん。


「魂の器には、別の魂が必要です。妹に見合う魂を、あなたは持っている。」


アンジェリカは涙をこぼし始めた。


「神杜さん…。大事な人と側にいて、その気持ちが溢れている魂こそが妹を救うにふさわしい魂なのです。」


「…。」


「アンジェリカ…ちゃん。どうして泣いているの?」


「あなたには関係…ありません。」


アンジェリカはそれでも刃物は離さない。


「間違ってるよ…。」


「間違っている…とは?」


「アンジェリカちゃん、泣いてるじゃない。それは本心からの行動じゃ…ないんでしょ?」


「!!」


「アンジェリカちゃん、相談に乗るよ?だ、だから、刃物…終おう?」


お願い。


「私は、あなたがうらやましい。」


「アンジェリカちゃん?」


「あなたは普通の女の子だから。」


「アンジェリカちゃんだって、普通の女の子でしょ?」


「違います。」


「普通の女の子だよ。」


「違う!!」


アンジェリカちゃんが大きな声でさえぎる。


「私はこの世界の住人じゃない!だから、あなたたちとは違う!!」


「…世界の住人じゃないって何?」


「最期だから教えますが、私はこの世界の創造主です。」


「…。」


これは現実なのかな?私は少し混乱し始めていた。


「創造…主?」


「はい。妹もそうです。」


そのままアンジェリカちゃんは話を続ける。


「妹は…水無月花音と夏目百合に出会ってから変わってしまいました。」


「水無月ちゃんと百合先輩?」


「ふたりの想い、心の絆に心奪われたあまり、この世界に干渉してしまった。」


「妹は、とても絆を大切にする子でした。だから、ツーイーの事故で水無月花音が死んでしまうというシナリオを受け止められなかった。」


「そればかりか、未来までも勝手に書き換えてしまったんです。」


「ツーイーは、プロジェクト中止になったんじゃなかった?」


「妹がシナリオを変えたせいです。」


信じられない。


「だったら、書き換えられる前の過去を見せてあげます。」


アンジェリカちゃんが額を私の額に合わせる。


瞬間、まるで映画のスクリーンのように映像が流れる。


ツーイーが横転している。


あっちゃんも水無月ちゃんも大怪我をしている。それに私も。


映像はどんどん入ってくる。


そして実波ちゃんの別荘の地下での映像で現実に戻る。


「何…これ?」


「そこで妹は時間を戻してしまった。水無月花音の願いによって。そして現在が今ということです。」


「アンジェリカちゃん…。」


「…はい。」


「私は急にこんな話を聞かされて、頭が混乱して何も考えられないけど…。」


私は、信じたい。


「アンジェリカちゃんは、本気で私を殺す…つもりなの?」


「……。」


私はアンジェリカちゃんを信じる。自らこんな事をしていないという事を。


「…はい。」


アンジェリカちゃんは少し何かを考えたような表情を見せ返事を返した。


「私は妹の為にあなたを殺します。」


「間違ってる。」


そんなの間違ってるよ!私は恐怖心を必死に堪えながら訴える。


「間違ってるよアンジェリカちゃん!」


「アンジェリカちゃん、私はあっちゃんがずっと好きだった。」


「小さい頃から。」


そう、私は絶対忘れない。


あっちゃんと出会ったこと。


やさしくしてもらったこと。


一緒に笑いあったこと。


喧嘩したこと。


これまで共有した日々のこと。


そこから生まれたこの気持ちのこと。


「でも、私がもしあっちゃんに会えなくなっても。アンジェリカちゃんの今のように、誰かを殺さないとあっちゃんに会えないという状況になっても!」


これだけは言える。


「私は、誰も殺さない!」


「…神杜さんは、二度と坂上さんに会えなくてもいいというのですか?」


「…誰かを殺して、本当に好きな人と今まで通りに向き合えるの?」


「!!」


アンジェリカは目を見開いた。そして、そこからどんどん涙が溢れてくる。


「アンジェリカちゃん。」


「……さい。」


「え?」


「うるさい!!私はもうこうしないといけないの!!あとには引けないの!!あなたたちとは違うの!!」


「何が違うの!!」


私も叫ぶ。


「…私は妹しかいないの。だから、私はこの孤独に耐えられないの…。耐えられないの。」


「…アンジェリカちゃん。」


「私も、普通の女の子としてこの世界に生まれたかった…。妹と一緒にあなたたちみたいに毎日学園に通って、笑いあって、放課後に寄り道して、一緒に帰って…。」


「…なればいいと思うよ。」


「!!」


「もしアンジェリカちゃんが創造主だとしても、今は妹さんを思ういいお姉さんにしか見えないよ。普通の女の子だよ。」


「でも、妹はいない。いないの…。」


「いつまで甘えてるの!!」


私は一喝する。


「水無月ちゃんだってもう百合先輩に会えないんだよ!!でも力強く生きてるんだよ!」


「あなたの妹さんが守った絆は、今でも水無月ちゃんの心の中で生き続けてるんだよ!」


さっきの頭の中に流れた映像にあった。百合先輩が必死に水無月ちゃんを救おうとしている姿が。


「だからアンジェリカちゃんは百合先輩に力を貸したんじゃないの?」


ぽつぽつと雨が降り始める。


「アンジェリカちゃん。私は言いたいことはもう言った。」


「…。」


「…殺していいよ。アンジェリカちゃん。」


「…神杜さん。」


私はアンジェリカちゃんの瞳を見つめる。


赤い綺麗な瞳。


どうか、心まで失わないで。


この雨がいつか上がるように、きっと解決方法は見つかるはずだから。


赤い瞳は、ずっと私を見つめ続けて何も語らなかった。


あっちゃん…。


どうしてこうなったんだろう。私だって普通の女の子じゃなくなってる。


こんな現実世界あるわけない。


もうみんな、普通の世界には生きていないんだと思う。


あの事故があったという過去の時間から…。


【視点変更:坂上秋伸】


街中を探しているけど、ちこは見つからなかった。


途中雨が振ってきたので、ふたりでコンビニで傘を買いちこを探していた。


「秋伸先輩、電話はまだ出ないのですか?」


「ああ、通じるんだけど出ないんだ。」


すると花音は何かを思い出したかのように手をぽんと叩いた。


「神杜先輩の携帯って、GPSは付いていますか?」


「GPS?」


「GPSが付いていれば、衛星から神杜先輩の位置が確認できます。」


「確か付いてるはずだ。この携帯会社の機種は標準装備なのが売りだって前に聞いたことがある。」


「電話番号を教えてください。」


花音が携帯電話を操作し始める。


「一度だけ、違法操作をします。緊急事態かもしれませんので。」


「違法操作?」


「はい。本来この機能は受信側の許可がないと位置情報はこちらに送信できませんが、一度だけ非常事態という事で強制的に位置情報を入手します。」


「おい、そんなことして花音は大丈夫なのか?」


「はい。」


しばらくすると位置情報が入ってきた。


「この位置は、高台公園です。」


「よし!行こう花音!」


無意識に花音の手を引き、公園へ走る。ここからだと10分くらいで着けると思う。



――――――――――



高台公園に着いた頃には雨は本降りになっていた。


「ちこ!!」


ちこはベンチにぐったりと横たわっていた。その横にはアンジェリカが立ち尽くしている。


「どうした!?しっかりしろ!!」


ちこを抱きかかえると、腹部にどろっとした生暖かい感触。


「…血?」


「…あ、あっちゃん?」


「どうしたんだよ!?大丈夫か!?」


「…うん。だ、大丈夫…。」


弱々しい返事。俺は必死に腹部を強く抑える。


「あっちゃん。」


ちこは手を差し出してきたので、そっと握ってやる。


「…わ、私、あっちゃんと出会えてよかった。」


「おい!しっかりしろ!」


「こ、これから…も、一緒…にいられるかな?」


「…ああ。これからも一緒だ。だから、しっかりしろ…。頼む。」


ちこと俺はほぼ同時に涙を流す。


「よ、よかった…。」


「ちこ…、しっかりしろよ。」


それしか言えない。誰か、ちこを助けてくれよ。


「あっちゃん…。」


「何だ?」


「わたし…し、死んじゃう…のかな?」


「ばか!そんなわけあるか!」


そんな事、あるわけないんだ!


「帰って、ご飯作ってくれよ。今日も何か作ってくれるんだろ?」


「…う…ん。そう…だね。」


「抱きまくら、あれもどうにかしないとな。」


「…うん。」


ちこがどんどん冷たくなっていく。


「ちこ!しっかりしろ!俺をおいて…いかないでくれよ。」


「…だ、だいじょうぶだよ…。いつも、いっしょだよ?」


「…。」


ちこを強く抱きしめる。


「あっちゃん…だい…すき。」


「ああ。俺も…大好きだ。」


「あっちゃん…なんだか…眠くなってきちゃった。」


「!!」


「少し…眠ったら…そうしたら…。」


「……ち…こ?」


握り締めたその手は、俺の手をすり抜けて地面に落ちた。


「ちこ!おい!ちこ!」


何寝てんだよ!起きろよ!


起きろよ!!!


必死にちこをさする。起きろよ!!


「…秋伸先輩。」


後ろから、涙声の花音に肩を触られる。


「ちこ、こんなとこで寝るなよ。寝るなよ!!」


またさする。


「先輩っ!!お願い!もう…やめて…ください。」


花音が後ろから抱きしめる。もう誰も傘など差していない。


「アンジェリカ…。」


俺はそこに今も立ち尽くすアンジェリカを睨み付ける。


「お前…なのか?」


「……はい。」


瞬間、俺はアンジェリカに掴みかかる。その勢いで地面に倒れ、アンジェリカを押し倒す形になった。


「ちこが、何をしたっていうんだよ!!アンジェリカああああ!!」


殴ろうとして、右手を大きく上に上げた。


でも、その右手は振り下ろす前に花音に掴まれた。


「やめてくださいっ!!神杜先輩の前ですよっ!!」


そう言われ、意気消沈する。


「アンジェリカ…なぜだよ?」


雨は勢いを増す。まるでみんなの涙のように。


「…ごめんなさい。」


そして、俺は信じられない言葉を耳にする。



「妹の為です…。」



「妹の為…?」


「坂上さんには関係ありません。」


アンジェリカはそのまま起き上がり、展望台へ歩いてゆく。


「どこ行くんだよ!」


展望台より先に道は無い。そこは崖。まさか、飛び降りるつもりなのか?


「アンジェ!!やめて!!」


花音がアンジェリカに向かって叫ぶ。


「!!」


俺と花音は絶句する。


アンジェリカは展望台の一歩手前で明るい光を放ち姿を消した。


「…消えた?」


「き、消えました…ね。」


お互いずぶ濡れ。俺は再びちこを見つめる。


笑顔だった。安らか…というべきか。


「ちこ…。」


花音は俺の背中に顔を押し付け、静かに泣きはじめた。


どうしてこんな事になったんだろうか…。


ちこ…。


あれから数日が過ぎた。


今だに俺は立ち直れず街をぶらぶらしていた。


学園にも行っていない。


「……。」


ぼうっとしてふと曲がり角にさしかかる。


どんっ!


「きゃっ!」


「おっと!」


女の子とぶつかる。女の子は勢いよくしりもちをついた。


「…悪い。大丈夫か?」


いかにも年下といった容姿の子だった。


「だ、大丈夫です。ごめんなさい。」


俺はその目を見て驚く。


「目が赤い。」


でもアンジェリカではない。


「あ、これは生まれつきです。えへへ。」


どことなく、ちこに雰囲気が似ていた。


「お前、アンジェリカの妹か?」


「え?お姉さまを知っているんですか?」


「ああ。」


赤い瞳なんて、そう滅多にいるもんじゃない。


「実はお姉さまを探しているので、よろしければ場所を教えていただけませんか?」


この街のどこかにいるはずですと彼女は付け加えた。


「場所までは知らないんだ。」


「そうでしたか…。」


ぐるるる。


「ん?」


とたんに、アンジェリカ妹(仮)が顔を赤くした。


「一昨日から何も食べてなくて。えへへ。すみません。」


「一昨日から!?お前金持ってないのか?」


「持ってません。」


話せば話すほど、ちこと話しているような親近感をおぼえる。


どことなく顔も似てるような気もする。


「あの、私の顔に何か?」


不思議そうにキョトンとするアンジェリカ妹(仮)。


「ちょっと知り合いに似てるからつい。」


「そうでしたか。では、失礼します。」


「待てよ。ご飯、おごってやるよ。」


「いいんですか!?」


「何かお前とは初めて会ったけど、初めてじゃない感じがするし。」


「ありがとうございます。」


こうして、アンジェリカ妹(仮)とご飯を食べる為近くのファミレスへ向かう。


些細な仕草が妙にちこに似ているせいか、ほっとけなかった。


例え、憎んでいるやつの妹だとしても…。


「ところで、お前名前は?」


「フランチェスカ・レーニエと言います。あなたは?」


「坂上秋伸だ。」


「秋伸さんと呼んでいいですか?」


「構わない。」


「フランチェスカはいつからこの街に?」


「実は3日前までしか記憶がありません。」


「誰にお姉さんを探せって言われたんだよ?」


「男の人。天地さんって言ってました。」


「へぇ。よく知らない人の話を信じたのか?」


「お姉さまのことは覚えていましたから。」


「フランチェスカはどこから来たのかも分からないのか?」


「はい。気付いたらあの高台の公園のベンチに座っていました。天地さんに会ったのもその時です。」


「!!」


高台公園のベンチ…。何かフランチェスカはちこと関係ありそうな気がする。


雰囲気も似てるし。それとも、ちこを失ったせいでおかしくなってるんだろうか。


「秋伸さん♪どこで食べさせてくれるんですか♪」


フランチェスカはご機嫌だ。


「フランチェスカ。お前今はどこに住んでるんだ?」


「公園で寝泊まりしてます。それより質問のに答えてください。」


「女の子なんだから、それは危ないだろ。風呂とかは?」


「夜中に池で洗ってました…。」


フランチェスカは恥ずかしそうにうつむく。


「むむぅ。」


「何だよ?」


「質問に答えてません~。」


ホントにちこみたいなやつだな。


「ファミレスだ。何が食いたい?」


「私、サンドイッチ食べたいです。」


えへへと気持ちはもうサンドイッチをいただいているらしい。


「フランチェスカ、お姉さんが見つかるまで家に住むか?」


「いいんですか!?ありがとうございます。」


フランチェスカは腕に抱きついてきた。


「私、秋伸さんとは初めて会った気がしません。不思議です。」


確かに。俺たちのこの会話は初めて会った男女の会話じゃない。


この気持ちは何なのだろう。


そうこうして、目的地のファミレスに到着した。


「いらっしゃいませ。3名様ですか?」


店員が店に入るなり元気よく挨拶してくる。でも、3人ではない。


「いや、2人ですが…。」


「え?そちらの方はご一緒ではないのですか?」


「え?」


後ろを振り向く。


「か、花音!?」


こいついつの間に後ろにいたんだ。


「秋伸先輩…見損ないました。」


ジト目で俺とフランチェスカを捉えると、そうつぶやいた。


「誤解だ!こいつの目をよく見ろ!!」


フランチェスカを花音の前に差し出す。


「あ、雪月さん!?」


花音が驚きの声をあげた。


「花音、知り合いか?」


「雪月さん、どうしてここに?」


「??」


フランチェスカは頭の上に「?」を浮かべている…ように見えた。


「あの、私は記憶がないのであなたのことが分かりません。それに、名前はフランチェスカと言います。ごめんなさい。」


すると花音は、それをまるで知っているかのように答える。


「うん。知ってます。でも、私はあなたが記憶をなくす前からの友人なんです。」


「花音、フランチェスカを知ってるのか?」


「はい。詳しくは秘密です。」


「あの~、お客様?」


「あ、すみません、3名です。」


とりあえず店員に案内され、丸テーブルに腰掛ける。


「でも秋伸先輩、神杜先輩のあのあとのこれはちょっと最低だと思います。」


座るなり罵倒。


「待て待て!違う!こいつはな、アンジェリカの妹なんだよ!」


「妹だから何ですか?」


「アンジェリカを探してるっていうから付き合ってやってんだよ。俺もアンジェリカに会いたいからな。」


「で、ファミレスですか?」


「一昨日から何も食べてないらしいからな。」


「そうでしたか。実は私も学園は休んでいるのでアンジェがどうなったのか分かりません。」


「俺もそうだ。」


「秋伸さん、私これ注文していいですか~?」


シリアスな場面で横からちょいちょいつつくフランチェスカ。


「ん?どれだ。」


「いちごサンドイッチにします。」


「!!」


俺と花音は顔を見合わせる。


「フランチェスカ、お前これもしかして好物か?」


「え?何で知ってるんですか?」


「…秋伸先輩。」


「ああ。」


こいつ、もしかしてちこか?


「花音、ちょっといいか。」


花音の耳元で、フランチェスカが3日前からしか記憶が無いことと、気付いたら高台公園のあのベンチに座っていたことを説明する。


「…アンジェリカに会えば、何か分かるかもしれませんね。」


「俺もそう思う。でも、あいつの居場所が分からないんだ。」


「……。」


「アンジェリカは携帯とか持ってないのか?」


「分かりません。私はアンジェに電話したことはありませんから。」


「なあフランチェスカ。」


「はい?何でしょう?」


「お前お姉さんといつも連絡取るときはどうしてるんだ?」


「意思を伝心します。でも、私はその力がなぜか使えなくなっています。」


「伝心?」


「心で呼びかけるんです。」


記憶喪失なのにそういう事は知っているというのも妙におかしい感じもするが。


「でも、力が使えないってどういう事だ?」


「分かりません。」


「秋伸先輩。」


「ん?」


「明日はお互い学園に登校して、アンジェリカがどうなったか調べませんか?」


「そうだな。」


アンジェリカ・レーニエ。


いつも会っていた存在が、いまはとても遠い存在に思える。


結局みんなでいちごサンドイッチを注文した。


【視点変更:傍観者】


アンジェリカは今日も高台公園に来ていた。


神杜ちこを殺めたベンチで涙している。


「今日は気付けないんだね。」


アンジェリカは驚いたようにその声に振り返る。もちろん声は知っていたが、いつの間に現れたのかその気配に気付けなかった。


「天地様。」


「アンジェリカ、妹は蘇ったよ。この街のどこかにいるよ。」


「場所は教えてはくれないのですか?」


「この街にいるよ。」


「そうですか…。」


「泣いているのはなぜなんだい?」


「…私は、妹を取り戻したのと引き換えに、何か大切なものを失った気がします。」


「それは後悔かい?」


「…。」


アンジェリカは答えない。


「アンジェリカ、妹も蘇って僕は本来の力を取り戻した。そして…。」


天地はアンジェリカに歩み寄るとその華奢な首筋を触れる。


「僕は君たち姉妹の力をすべて手に居いれ、そして封じた。」


「!!」


抵抗しないアンジェリカはその代わりに動揺の表情を浮かべる。


「天地…様?」


「聞こえなかったのかい?力を封じたんだよ。君と妹の。」


「天地様。どうしてですか?」


「創造主はもうこの世界に必要ないという意味だよ。」


「なぜですか?」


「なぜ?僕はこの世界を手に入れたいからだよ。」


「!!」


「僕たちの能力のひとつ。この前の僕の言葉を覚えているかい?」


「私たちは、他人の声を再現することができる能力のことですよね。」


「ああ。悪用するならそれなりの覚悟でと言ったよね?」


「はい。」


「それは僕自身にも当てはまる言葉だったのさ。」


「…どういう意味ですか?」


「僕は、天地なんかじゃない。」


「えっ?」


「あははは。君はまんまと騙されていたんだよ。愉快だよね。」


「では、あなたは誰なのですか?」


「正体を明かす前に君に言っておくことがある。」


「神杜ちこの魂でフランチェスカは蘇った。つまり、フランチェスカは神杜ちこの記憶や感情とかも無意識に持ち合わせている。」


「…それがなんの意味があるのですか?」


「僕は試したいんだ。」


「試す?」


「創造主が、この世界の人間と結ばれることの本当の意味を。」


「…どういう意味か分かりません。」


「フランチェスカは神杜ちこの魂の記憶、感情で坂上秋伸という青年に恋をするはずなんだよ。特別な立場のフランチェスカとただの世界の住人にして人間。この二人の子供は、創造主だろうか?それともただの人間なんだろうか?」


「妹を利用するつもりですか!?」


「利用?そうじゃない。当人同士は幸せを感じるんだから、誰もそうは思わないよ。」


「あなたの正体は何なのですか?目的は?」


「僕は天地ではなく…。」


そして天地はアンジェリカの耳元へ近寄りつぶやく。


「新しい世界を造る者…ノアさ。」


「ノ、ノア…。」


「あれ?アンジェリカは僕の立場を知っているようだね。」


「あなたは…私の世界を無くし、今のこの状況に陥れた人物…。」


「でも、なぜ天地様の体を持っているのですか?」


「簡単だよ。天地はもうこの世界に存在しない。天地創造主はもういないんだ。」


「!!」


アンジェリカは絶望的な表情に変わる。


「僕は君のその絶望に満ちた顔を見るのがたまらなく好きなんだよ。」


「…ひどい。」


「神杜ちこを殺めた人物のセリフとは思えないね。」


その一声で、アンジェリカは力なく地面にひざを着く。ノアはそれを見つめ、満足そうな笑みを浮かべる。


「神杜さん…ごめんさい。ごめんなさい。」


「時間を戻してあげようか?」


「!?」


アンジェリカはそのままノアを見上げる。


「いつか君の妹が水無月花音にしたように、今僕が君のその心の痛みを救ってあげようか?」


「…私はあなたをもう信用していません。」


「よほど天地に忠誠していたようだね。」


ノアもしゃがみこみ、アンジェリカのあごを寄せあげる。まるで口づけをするように。


「でも君はイエスとは言えない。だってそうすると妹がこの世界から居なくなるからね。」


神杜ちこが生きている時間に戻るという事は妹フランチェスカは魂だけの存在に戻ることを意味していた。


「…僕はいつでもアンジェリカを見張っている。さあ、早く妹を探しにいくといいよ。」


「……ノア、あなたは一体何をしようというのですか?」


ノアはそっとアンジェリカを抱きしめる。アンジェリカは抵抗しない。中身はノアでも、外見は天地なので抵抗しないのだ。


「女の子は温かい。女の子を抱きしめると、僕はとても心地いいんだよ。」


ノアはアンジェリカの質問に答えることなく、そのまま公園を後にした。


「…神杜さん。フランチェスカ…。」


アンジェリカは再び涙する。


その涙は誰の為に流れた涙なのかは、アンジェリカ自身にしか分からない。


【視点変更:坂上秋伸】


しばらくすると、いちごサンドイッチが俺達のテーブルを彩る。


「いただきます~。」


フランチェスカは両手で十字を切った後、ぱくりと満足そうな笑みを浮かべて頬張る。


「フランチェスカはクリスチャンか?」


「??何ですか?クリスチャンって?」


「お前今食べる前にお祈りというか十字を切らなかったか?」


「クリスチャンとは何なのか分かりません。」


「そうか…ならいい。」


俺もいちごサンドイッチを頬張る。


生クリームといちごの相性がとてもいい。生クリームの甘さといちごの少し効いたすっぱさがちょうどいいのだ。


「花音、おいしいな。」


「はい。おいしいです。」


花音ははじめて俺達と行ったモックフーズのことを思い出したのか、少し目には涙が浮かんでいた。


俺はそれに気付かないように、涙を堪えていちごサンドイッチを最後まで残さず食べた。



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