敵わぬ彼
震える手をどうにか押さえたくて、咲蘭は自身の胸の辺りの着衣を、ぎゅっと握りしめた。
答えを求めてしまったのは自分だというのに、何と惨めなことだろう。
「……私は……お前以外では嫌ですね」
そう言いながら、彼が咲蘭の手を取る。
震えを抑え込むかのように、そっと両手で包み込んだ。
「あなたがつれないのは、今に始まったことじゃありませんし、寂しくないと言えば嘘になりますが……でも私は知っているんですよ。実はあなたが私のこと、大好きだって」
「……」
「あなたのその綺麗な黒謳の瞳は、今も雄弁に私に語りかけてきます」
好きだって。
たまらなく好きだって。
「そんな……こと」
「当てて、差し上げましょうか? あなたが今何を思って、考えているか」
手遅れだというのに、目を見られたくない気持ちの表れか、彼の言葉に思わず視線を外し、顔を反らす。
そんな様子に、彼がくすりと笑う気配がした。
「本当は私のことが好きでたまらないのに、素直になれない」
「……ご冗談を」
「そうやって……」
手の甲に感じる柔らかな感触に、たまらず彼の方へ視線を戻す。
「つれない態度を取った後に、落ち込んでいることも、後悔していることも、寂しく思っていることも」
みんな、知っているんですよ。
指に舌を這わせながら、視線だけ向けてきた彼に。
ああ、敵わないのだと、ただ純粋にそう思った。