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夢現奇譚  銀鬼と黒翼シリーズ

敵わぬ彼

作者: 結城星乃

 


 震える手をどうにか押さえたくて、咲蘭さくらんは自身の胸の辺りの着衣を、ぎゅっと握りしめた。

 答えを求めてしまったのは自分だというのに、何と惨めなことだろう。


「……私は……お前以外では嫌ですね」


 そう言いながら、彼が咲蘭の手を取る。

 震えを抑え込むかのように、そっと両手で包み込んだ。


「あなたがつれないのは、今に始まったことじゃありませんし、寂しくないと言えば嘘になりますが……でも私は知っているんですよ。実はあなたが私のこと、大好きだって」

「……」

「あなたのその綺麗な黒謳の瞳は、今も雄弁に私に語りかけてきます」



 好きだって。

 たまらなく好きだって。



「そんな……こと」

「当てて、差し上げましょうか? あなたが今何を思って、考えているか」


 手遅れだというのに、目を見られたくない気持ちの表れか、彼の言葉に思わず視線を外し、顔を反らす。

 そんな様子に、彼がくすりと笑う気配がした。


「本当は私のことが好きでたまらないのに、素直になれない」

「……ご冗談を」

「そうやって……」


 手の甲に感じる柔らかな感触に、たまらず彼の方へ視線を戻す。


「つれない態度を取った後に、落ち込んでいることも、後悔していることも、寂しく思っていることも」


 みんな、知っているんですよ。



 指に舌を這わせながら、視線だけ向けてきた彼に。

 ああ、敵わないのだと、ただ純粋にそう思った。


                          


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