陸 夕立は時を報せる
霊夢達が連れてきた少女の名前は、千夢といった。この名前は、霊夢が付けた名前で、意味は...特にないらしい。千夢は、大人しく賢い娘だった。霊夢の教える事を、次から次へとその小さな脳に吸収していく。一週間ほど経った時には神事は全て習得していたのだから、博麗神社を訪れた魔理沙は大変驚いた。
「千は覚えるのが早いな。霊夢に比べて真面目だし、弱音を吐くこともないし、まだ十もいってないだろう?凄いよ、千は」
「霊夢様が丁寧に教えて下さるので」
千夢はその名前から千と呼ばれていた。霊夢がそう呼んでいたのを魔理沙が聞いて、いつしか定着していた。隣では、霊夢がお茶を啜っている。
「にしてもびっくりしたぜ。まさか、霊夢が巫女を育てたいなんて言うとはなぁ。それに、それを紫が素直に認めた事もさらに驚いたぜ」
「前々から考えてたのよ。私で、この博麗の巫女は十数代目なんだけど、幻想郷が誕生して、まだ二百年しか経ってないのよね。つまり、20年くらいしか、歴代の巫女達はその仕事をしていないって訳。それで、私もちょうどその折り返し地点に来たわけだし、次の世代を考えなきゃなって思ったのよ。それに、私は博麗の事を紫から教わったけど、多分全ては教えきれなかったはずなのよ。だから、私は次の子にはしっかり教えてあげようと思ったのよ」
霊夢の言葉に魔理沙は感嘆の声を出した。
「霊夢様は、お優しいですね。私、霊夢様のような巫女になれるように頑張ります!」
「はいはい。でも、異変解決とかはスペルカードが主体だし、実践でコツを掴むしか無いわね。明日から、誰か誘って一緒に練習しましょ」
霊夢は千夢の頭を優しく撫でる。それは、まるで母親が娘にやるそれの様で、魔理沙はふと、飛び出してきた実家の両親が気になった。
「なんか霊夢と千を見てたら母さん達に会いたくなっちまったぜ。たまには顔出すかなぁ」
魔理沙は実家から勘当された。と一般に思われているが、それは間違いで、魔理沙の両親は魔理沙の夢を応援する為に、敢えて家を出したのだ。それを魔理沙もよく理解していて、霖之助を通じて受け渡しをする手紙には、互いの体を気遣う文章が書き連ねられている。
「そうしたら?きっと喜ぶわよ」
魔理沙の家の事情を知っている霊夢は、そっと背中を押した。
「あっ」
千夢が声を上げた。その声の向かった先を見ると、ぽつりぽつりと雨が降り始めていた。
「夕立ですね」
「これが来ると、いよいよ秋って感じよね」
「今年は、何が食べれるか楽しみだぜ」
3人は、その後何も口に出さず、滴る雨を眺めていた。
「そろそろ、夕餉にしましょうか。魔理沙、泊まってくでしょう?」
「そうだな」
「千、ご飯の支度手伝って」
「はい!」
激しい雨の匂いに混じって、米の炊けた匂いが混ざったのは、それからしばらくしてからだった。