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蝶は、暁を知らない。  作者: 白露 彩風
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肆 蝉は晩夏を告げる


ー相変わらず、紫は意地悪だな。ー


そう言えば彼もそんな事を私に言った事があった。


紫はすやすやと自分の膝の上で眠る紅白の巫女の肩を規則正しいリズムで軽く叩く。彼女がまだこちらに来てすぐの頃は、毎日泊まり込んで一緒に暮らしていたのを思い出す。

「貴女の口から聴けるなんて、驚きでしたわ」

まだ妖怪と人間の違いなんて分からない幼子だった霊夢が、こんなに大きく成長した。近頃は全く顔も合わす事なく、お互いの一日をただ過ごしていた...はずだったのに。

「貴女はもう気づいていますのよ。妖怪(わたしたち)人間(あなたたち)の違いに...。ただそれを、己の中で認められないだけ。貴女は、妖怪と共に過ごし過ぎたから。だから、必死にそうならない結末を、決して見つからない解決策を探しているだけ」

本当にそうなのか?という疑問符が一瞬脳裏をよぎる。この子(霊夢)なら、見つからないはずの解決策を見つけてしまうのではないか。そうなれば、

「...私は、どちら側につきましょうかね」

よほど心地のよい夢を見ているのか、霊夢は酒で紅に染まった頬を緩め、小さい声で唸る。紫は顔を上げた。

「良い月ね…」

今夜初めて眺めた月は、そこはかとなく落ち着いていた。



----


翌日、霊夢は布団の中で目を覚ました。昨日は偉く酒の回りが早く、三杯ほど呑んだ所ですでに身体の芯が熱を帯びていた。紫に、「妖怪は妖怪のままでしかいられないのか」と問い、それに紫が「自分でその答えを見つけなさい」と言ったところまでは覚えている。今の大体の時刻を考えると、かなり眠りが深かった事が理解出来た。

「後で、紫にお礼言っておこう…」

霊夢は、のそのそと布団から出て、朝餉の支度をした。作ったのは塩むすびと味噌汁だけだったが、まともな食事を取ったのはちょうど1日ぶりだった。米の甘さが塩でより増して、味噌汁の温かさが体に染みてあっという間に完食してしまった。

(そう言えば、ちょっと朝と夜が冷えてきたな…。もうすぐ秋か…)

開きっぱなしの障子越しに見る木々が、まだまだ青々としているのを見ながら、霊夢は、皿に残っていた米粒を口に入れる。

「今年の残暑は短いと良いのだけれど」

もう蝉の音が聞けるのもあと僅か。そう思うと何故か、この夏の一日が、とても愛おしく思えた。


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