壱 暁は紅を求める
博麗の巫女の素質として挙げられるものに、
・強い霊力
・孤児
・性格
がある。まず、強い霊力。これは言わずもがな最重要事項で、強い霊力を持っているものでなければ、巫女は務まらない。歴代の博麗の巫女達はその強い霊力の中でも強弱はあったものの、博麗大結界を守る為には、それなりの才能がなければ意味がない。
そして、孤児。これは、まぁ、そうであれば尚良いと言ったくらいである。博麗の巫女は孤高を極める。良くも悪くも。もし、その巫女が人恋しさに務めを放棄するなどと知られたら、その権威は地に落ちる。未練がない方が良いのだ。だから、紫は大概の巫女に、物心つく前の娘を選んでいた。そして、物心つく前から博麗の巫女としての自覚を持たせていた。
最後の性格。これはさほど気にしない。だが、極端に優し過ぎるのは、これまた厄介である。巫女は妖怪を退治ー殺害ーする。それに耐えなければならない。割り切らなければいけない。いちいち自己嫌悪に浸っていては埒が明かないのだ。
そうして、博麗の巫女は190年の月日をかけて、人妖からその存在を認められて来たのだ。
「あら?捨て子かしら…」
外の世界を訪れた紫は、日傘からちらりと見えた子供の足に目を向けた。近づいて見てみると、まだ3、4歳の女の子がくんくん泣いていた。
「あなた、だぁれ?」
少女は紫に問う。この世界で、紫の姿が見えるのは異能者と一部の神職に携わる者だけ。後者は有り得ない。つまり、この少女には、【能力】がある。
「妖怪ですわ。こことは違う世界から来ましたの。そうですわ...貴女、私の住む世界へいらっしゃい...。貴女に丁度いい世界がそこにありますわ」
紫は確信した。彼女が次の博麗の巫女だと。これまでの経験から言っても、間違いない。紫は優しく少女に微笑む。
「ほんとう...?」
疑い深い少女の瞳は、朱がかかった澄んだ瞳だった。
(そう言えば...そう...なのかしらね)
紫の心に一瞬迷いが生じた。しかし、それを即座に振り払う。
「本当ですわ...。妖怪は嘘をつきませんもの...」
【妖怪は嘘をつかない】それは間違いではない。しかし、それはその文面通りの意味では無い事を、この幼子は知るはずもない。でも、今はそれでいい。
「分かった...いく」
ーさぁ、どうしましょうかね。ー
胸の中の誰かが、そう問いかける。顔は見えなくともその顔には笑みが浮かび、それでいて、切なげで...。
紫の頬が微かに紅く染まった。