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蝶は、暁を知らない。  作者: 白露 彩風
13/17

拾弐 日没は絶望を呼ぶ


日が暮れる頃、大きな地響きがした。

「な、なんだ!?これは!」

博麗神社にいる人間も妖怪も、混乱し始めた。

結界を張っていた千夢、早苗、早季も思わずその声に気を逸らしてしまった。

「な、なによ...あれ...」

女性が遠くを見て悲鳴を出した。一同がそちらに目を向けると、目の前にはこれまで見たことも無いような大きな妖怪が、夜の幻想郷に現れていた。


ーーー


「何なの...こいつ...」

「今までの比じゃないぜっ...」

「博麗大結界が...!」

「崩壊してるわ!」

霊夢達4人はそのあまりの大きさに、目を見開いた。禍々しいまでの赤黒い体は、大結界の壊れた部分から1歩、また1歩と近づいて来る。

「とにかく、全員で行くわよ!」

霊夢の一言で、4人は総攻撃を掛けた。


ーーー


紫は、目の前の状況が信じれなかった。

「どうして...こんな事が...」

「紫様、どうなさいますか...紫様っ!」

藍の言葉にも、紫は反応を示さなかった。

「これが...貴方が言っていた異変...なの?」

震える唇で、紫はそう呟いた。


ーーー

約210年前。

紫は、彼女を救ってくれた彼と共に暮らしていた。共に農作業もしたし、時に妖怪と人間について語り合った。

「なぁ、紫。私と2人で、妖怪と人間が共に暮らせる世界を創らないか?」

「妖怪と...人間が...?」

「そうだ。君となら、きっと出来る。君は妖怪の気持ちがよく分かるだろう。そして、君のように、人間から忘れられてしまった妖怪は大勢いるはずなんだ。私は、彼らと一緒に、彼らが安心して生きていける世界を作りたいんだ」

彼の真剣な眼差しに、紫は見とれていた。そして、垂れていた右の横髪を耳にかけ、こう言った。

「もちろんですわ。創りましょう...私達の世界を」

その顔には、あどけない少女のような笑みがあった。


それから10年ほど経ち、紫と彼は幾つもの血塗ろの闘いを繰り広げ、妖怪達が安全に暮らせる土地を創り上げた。季節は秋になっていた。高台に建てた神社から見た土地の景色には、黄金色に光る稲が風の動きに従って、自由気ままに動いていた。

「紫、君は言ったね。人間が妖怪を忘れてしまう理由を知りたいと」

「えぇ、確かに言いましたわね」

紫は、扇を少しだけ前後に揺らし、顔に風を送る。

「それはね...。人間が短命だから。というのが私の答えだよ。妖怪にとっての数10年は、私達人間にはとても長い時間なんだ。そして、人間は変わる。心も体も。そんな人間からすれば、妖怪は不変そのものなんだ。だけどね…」

彼は、小皺を深めて笑う。

「そんな不釣り合いな関係でも、私は君に出会えて良かったと思っているよ、紫」

夕日の逆光に照らされた彼の表情を、紫は知る事が出来なかった。


ーーー


新たな地響きと共に、紫は瞳孔を開く。

「もう一度、封印をしますわ。あの娘達に危害が及ぶ前に」

紫の目線の先には、妖怪と闘う霊夢達の姿があった。

紫は目の前で指を様々な形に交差させ、何かを唱えた。


ーーー


霊夢達4人は、背中に嫌な汗が伝うのを感じていた。

どんなスペルを発動しても、妖怪にびくともしない。それどころか、妖怪はどんどん東へ向かい、博麗神社の方へ向かっている。いつも冷静な咲夜が声を荒らげた。

「このままじゃ、皆が危ない!」

博麗神社には、レミリアやフラン、幽々子もいる。

「何とかしてあいつを止めないと!」

「でも、どうやって...」

魔理沙と妖夢もその顔に絶望も焦りを滲ませている。

「戻るわよ...」

小さくも確かに聞こえた声に、霊夢以外の3人は一斉に霊夢に目線を向けた。

「博麗神社に戻るわよ」

「で、でも...」

「魔理沙」

魔理沙が反論するのを遮り、霊夢は魔理沙の名を呼んだ。

「大丈夫」

それは、優しく、そして


強い意志の言葉だった。


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