表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蜉蝣の巣  作者: 春日向楓
友達の怪談
6/37

囚われの姉

その後、姉は体調を崩し暫く入院した。

見舞いに行く度、姉は私達にあの家で起こった事を話した。

それをあちらのお母さんは、気がふれたとか、躾がなって無いとか、疫病神‼︎とまで……

態々私達がお見舞いに行く時間帯を狙って、汚い言葉を使って姉を罵ってた。

今思えば、あの家で起きた事を姉が話すのを嫌って、監視に来ていた気がする。全ては姉を病気にして誤魔化そうとしていたんじゃないかと……。

それなのに罵られる姉に対して母は、みっともない!恥ずかしい!ただの我儘!ちゃんとしなさい!って、一切聞く耳を持とうとしなかった。

あの時ちゃんと姉を守ってあげてたら……

退院する時も、家に帰る事を異常に嫌がる姉を、文也さんが強引に連れて帰ってしまった。

母もその時は、肩の荷が下りてほっとしているみたいに見えた。

それが最後、まともな姉とあったのは……

それから1年以上連絡も無くて、『便りの無いのは、上手くやってる証』何て言いながら、母も内心では不安で仕方無かったと思う。

そして、久しぶりにあった姉は……心が無くなっていた。

1人ふらふらになって歩く姉を、通りすがりの人が不審に思い警察に、そして病院に運ばれたらしいんだけど。連絡を受けて迎えに行った時は、もう何も分からない状態で、いつからこんな状態になっていたのか?ずっと放ったらかしだったのか?

警察は最初、あちらの家に連絡したらしいけど拒否されたって、それで家に連絡が来たんだけど。

文也さん以外の家族は厄介払いしたみたいに、1度も顔を出さない。もう姉は何も話せないから……監視の必要も無くなったしね。


「んー……凄い話ね」

桜は腕組みしながら唸った。

「お姉さんの言ってる事が本当なら……それって、マジでやばいんじゃないの⁈」



「遅くなっちゃったわね。取り敢えず今日はこの位で、また後で……その間に相談しとくわ。少し時間くれる?」

「あ、はい!勿論……相談したら、ちょっと肩の荷が……重荷なら……諦めるから……」

「諦めるって!お姉さんの事?」

「友達を……危険な目に合わせられないし」


なら何で最初に相談したんだよー!

聞いちゃったらモヤモヤするでしょうよ。

だいたい普通そんな大仕事同級生に頼むかー


「ま、取り敢えず……時間頂戴‼︎ここから、1人で大丈夫?送って行こうか?」

「えっ⁈ああすぐだから……来栖川さんこそ、遅くまでごめんね」

「大丈夫よ!じゃここで!

あ、そうだ携帯番号聞いといて良い?わたしのも教えとくね」

「あ、はい!よろしくお願いします」


2人は公園を出て、二手に分かれた。


桜は足を止め振り返った。小さくなる紀代美の後姿を見送ると、バス停に向かって歩き出した。


「図々しい奴だな!こんな時間に、普通男友達の家に泊まりに来るかー!」

玄関を開け、目の前の桜を見下ろす無表情な翔太。

藤城翔太。小説家でシングルマザーの母茜と、住込みの家政婦、志穂子と3人暮らし。実は志穂子は、翔太にとって血の繋がった祖母。

茜と結婚する前に亡くなった、父慎太郎の母にあたる。

2年生になって翔太も大分背が伸びた。今では桜を優に超えている。

声変わりが始まった様子が、少しくすぐったい。


「いらっしゃい桜ちゃん!嬉しいわ。桜ちゃんは翔太君に引き合わせてくれた恩人だもの、遠慮しないで……翔太君、いつ迄もそんな所に立って無いで、上がって頂いて」

志穂子が満面の笑顔で桜を迎え入れる。

「今晩は!」

桜が爽やかに挨拶する。

志穂子の後ろから、ピレネーズのマシューとバーニーズのチョコが顔をだし出迎える。

「お邪魔しまーす!チョコ、マシュー今晩は」


そう言って2匹の頭を交互に撫でると翔太を追い越し前を歩く。2匹は嬉しそうに尻尾を振りながら桜の後ろを付いて歩く。その尻尾が交互に翔太に当る……結構痛い。

「桜ちゃんお夕飯は?」

「大丈夫です。バスの中でコンビニの

おにぎり食べました」

「遠慮しないで……」

「あ、はい本当に……」


「さすがにそこまで厚かましかったら問題だよ。だいたいどうなの?年頃の男の家に上り込む女子中学生!それを歓迎してる大人達!良くないよー‼︎」

「あら、翔ちゃん!いやらしい!」

茜が年頃の息子を茶化した。足元にはサバトラの猫がじゃれ付いている。それを鬱陶しそうに足で軽く蹴る。


「えー翔太!あんたあたしをそんな目で見てるの‼︎」

桜は両手で胸を隠し、翔太を睨み付けた。

「な、んな訳あるか‼︎」

「じゃー問題無いじゃない」

「そうよね。翔太君はそんな子じゃないわよねー」

「な、何で僕次第みたいになってんのかなー?分かんないよー今時の女子中学生は……」

「んも!翔太ウザっ‼︎何期待してんのよ!大丈夫よ、わたしはあんたには微粉も興味無いわ。だいたいタイプじゃないし!」

「あらー残念ね翔太君!桜ちゃんが結婚してくれれば、とっても楽しい家族になれたのに……」

案外本気でがっかりしてる様子の志穂子。

「…………」

なんだろう……告白してもいないのに振られた感じ、プライドが激しくを傷付いた。そして、この家族に何を言っても無駄な事に……今やっと気付いた。


「あれ?猫?……飼い出したの?」

「あん⁈ああ慎太郎さんだよ」

「慎太郎さん⁈」

「何か母さんに振り向いて欲しいって……昨日から野良に憑依しだして母さんにべったり……こんな事出来るんだーって感動してるところ。時々、マシューとチョコに追い回されてる」

「茜さんは知ってるの?サバトラが慎太郎さんって事……」

「まーね……黙ってた方が良いのかなって思ったんだけど、時々寂しそうにしてる母さん見てると……」

茜の足の裏で転がされ、お腹を見せながらゴロゴロ喉を鳴らす猫……。

「切ないね……」


「明日じゃなかったの?来るって言ってたの……」

「そうなんだけど……ちょっとね。重い相談受けちゃって、話長くなりそうだし、早い方がいいと思って……ガンコツ先生は……いるの?」

「いるよ!霊に元気ってのも変だけど……取り敢えず元気にしてる」

翔太にしか見えないが、ガンコツ先生こと秋田川は、静かに翔太の後ろに立っていた。

秋田川は志穂子の夫、つまり翔太の実の祖父にあたる。

「そうなんだ……翔太を守ってくれてるんだものね……」

「重い相談?って、珍しく言いづらそうだね……また何かに首突っ込んでんだろう?僕を巻き込むなよ‼︎」

翔太は嫌な予感しかしない。

「ま、話だけでも聞いてよ‼︎」

「駄目駄目!絶対駄目‼︎聞いたら絶対巻き込まれるに決まってんじゃん!聞こえなーい」

耳を塞ぎながら部屋の中を逃げ回る翔太、それを追い掛け無理矢理ソファに座らせる桜。

「真剣に聞いて!」

そう言うと、紀代美から聞いた話を丁寧に話た。


「……で?」

話を聞いてやっぱり後悔する翔太。

「だから、協力してって言ってるの」

「…………無理でしょう。無理無理無理無理。無理だって、話だけって言ったじゃん‼︎」

「翔太の力が必要なの!」

「かいかぶるなよ。力力って言うけど僕のは力でも何でも無いし、君の……あの、例のあれ?そ、あれの足元にも及ばない。それに、それってマジな奴だよ。ヤバイよ!」

「何、何?何か小説のネタになりそうね〜」

茜が興味津々に話に割り込んで来た。

「お仕事のお手伝い?」

志穂子がお茶と、剥いた桃を乗せた皿を机に並べた。

何でこの家の人間は、『誰も危ない事は辞めなさい!』とか言わないの?

翔太は心の底からがっかりした。


「明日、花園さんにお姉さんの自宅の場所聞いて見るわ。自宅周辺のリサーチしてみようと思って」

「リサーチって……」

翔太は泣きそうだった……身体は成長しても中身は余り変わっていない。



次の日の朝。桜は花園紀代美に、電話で佐登美の自宅を聞いた。

「わたしも行った方が良い?」

「大丈夫よ。今日は周辺の住人に軽く聞き込みして来るだけだから。翔太……藤城君に付き合って貰うわ」

「藤城君?やっぱり来栖川さんと藤城君って、付き合ってるの?仲良いよね」

「付き合ってる?冗談!相棒?いやいや……弟みたいなもんよ」

「弟?……ふーん」

紀代美は疑う様に返事をした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ