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蜉蝣の巣  作者: 春日向楓
友達の怪談
12/37

桜と煮込みハンバーグ

北星中学に、授業を終了させる金が鳴り出した。

「明日から夏休みです。休みだからってダラダラしてると、後で苦労するぞ!宿題も早目に済ませちゃいましょう。

後、事故の無い様気を引き締めて生活して下さい。それでは、次の登校日にも元気に会いましょう。以上!」

一斉に歓喜の声が上がった。


「翔太!」

桜がやって来て、翔太の前の席に後ろ向きに座った。

「あ、嫌な予感!」

帰り支度をしながら、目を細め迷惑そうに桜を睨む翔太。

「何?それ!」

翔太の態度にムッとしながら、

「まぁいいわ。ちょっと聞いて、うちの常連さんに、昔児相に関わってた人が居るんだけど……で、知ってたの文也さんの事」

「あんたの情報網は果てしないね。そんなに口が軽くて大丈夫なのかな……」

「大丈夫よ!もう亡くなってるから」

「え⁈」

「守秘義務って……亡くなっても有るのかしら?」

桜は頬づえを付きながら、独り言の様に言った。

「どう言う事⁈」

「常連さんの遺骨をね、うちでお預かりして、供養してるの」

「余計に不味いんじゃないの?勝手にそんな事して……って、今迄もそんな感じだった訳?」

「まぁね!でね、明日…」

「あの…この間はありがとう。来栖川さん、藤城君。日曜日また、お世話になります。よろしくお願いします」

紀代美が申し訳無さそうに、話しに割り込み頭を下げた。

「えっ!ああ、ああ」

桜は返事にならない返事をした。

「ごめんなさい。母が体調悪くて、これから母の代わりに、姉に付き添わなくてはならなくて」

「お母さん体調悪いの?」

「大した事は無いんだけど、疲れも有るのかな?……ごめんね。じゃ、日曜日!」

「あ、うん!お大事に」

そう言って桜は紀代美に手を振った。


紀代美の姿が見えなくなると、

「でね、明日…」

翔太を振り返り、話を続けた。

「えっ!無理無理!宿題有るし」

翔太はぼんやり紀代美を見送っていたが、慌てて桜の声に反応した。

「そんなのあたしだって有るわよ。だから、今日から翔太の家に泊まる事にしたから。一緒に宿題しましょ!」

「はー!無理無理、無理無理、無理無理」

「無理無理煩いなぁ!茜さんや志穂子さんにはメールして、OK貰ってるし」

桜はニヤニヤしながら、メールの内容を翔太の顔の前にかざした。

はしゃいだ茜や志穂子のメールに翔太は愕然とした。

「どうして僕の周りの女達は、僕の静寂を奪うんだ!」

翔太は頭を抱え、呻いた。

「うだうだしない男の子でしょ!帰るよ!」

「うーー、もうっ!」

鞄を抱え、やけくそになって桜に付いて教室を出た。


「スーツケース、駅のロッカーに取りに行くから付き合って」

「え?何?昨日から決まってた訳?家に泊まる事」

「え?もっと前だけど」

「母さんも志穂子さんも、何も言ってなかったけど⁈」

「ああ、翔太が煩いから黙っててって、言っといたの」

「はーっ!だいたいスーツケースって、何日泊まるつもりなのさ!」

「もう煩い!行くわよ!」




「こんにちは。お久しぶりです」

「いらっしゃい!待ってたのよ、桜ちゃん。本当久しぶりだわ。もっとちょくちょく遊びに来てくれたらいいのに」

志穂子が満面の笑顔で桜を迎え入れる。

「ありがとうございます。わたしも志穂子さんや茜さんにもっと会いたいんですけど、なんせ防波堤が…」

と言いながら、翔太に目線を向ける。


千切れんばかりに尻尾を振るチョコとマシュ。

飼い主を忘れて、盛大な歓迎ぶりに不満の翔太。

「ああ、いらっしゃい桜ちゃん」

ダイニングからコーヒーカップ片手に、顔色の冴えない茜が現れた。

「お邪魔します。茜さん、徹夜ですか⁈」

「あーうん、ちょっと煮詰まっちゃてね。ま、ゆっくりしてって」

「慎太郎さんが居なくなって以来のスランプらしいよ」

「まーねー…」

キッチンへ向かう志穂子が、茜を気遣い。

「少し寝た方が…スッキリして何か良い案が浮かぶんじゃないかしら」

「ああ、うん!一寝入りするわ。夕飯出来たら起こして」

そう言って2階へ上がって行く茜の足元に、サバトラ猫が絡まっている。

「慎太郎!茜ちゃん疲れてるんだから辞めなさい!」

驚いた様に、サバトラ猫が階段を駆け上がって行った。

「まーだやってるんだ、慎太郎さん。デレデレね」

「まーね。あれで結構揉めてるんだよ。慎太郎さんが抜ける度に、猫が野生に戻っちゃって、ノミ付けて帰って来るって志穂子さんカンカンだし、我が息子ながら嘆かわしいって、ガンコツ先生も嘆いてる」

「ずっと憑依してる訳じゃないの?」

「ずっと憑依したままだと、あの猫の元々の魂が、行き場を無くして消滅しちゃうらしい。そうなると、慎太郎さんの魂はあの猫の体から抜けられなくなる。

猫のまま死んで動物霊になって、もう人には戻れ無い……って、元々人?ってのも違う気がするけど、母さんの側にいられなくなったら、慎太郎さんにとっては一大事!…だからね」

「ふーん!わたしの前だったら説明、上手なのに…残念ね」

「…………煩いわ!」

翔太はムッとしながら、リビングのソファーにどっかりと座った。

桜は笑いながら、隣にゆっくり座る。


冷たいフルーツティーとお菓子を持って、志穂子がキッチンからリビングに戻って来た。

「桃とキウイをたっぷり入れてみたの。召し上がれ」

2人の目の前に並べると、向かいのソファーに座った。じっと2人を眺める眼差しが、幸せそうに微笑んでる。

「お夕飯は、煮込みハンバーグよ。楽しみにしててね」

「ヤッター‼︎志穂子さんの煮込みハンバーグ大好きです!」

煮込みハンバーグに興奮する桜を横目に、翔太はぼんやり考えた。

確かに志穂子さんの煮込みハンバーグは美味い。って言うか、志穂子さんが作る料理は何でも美味い!

なのに桜が来る日はいつも煮込みハンバーグ。その原因は、この以上に絶賛する桜のせい?

「何でいつも煮込みハンバーグ?桜が来る日は、いっつも煮込みハンバーグじゃない?」

翔太はちょっとふざけて、不満気に言って見た。志穂子の笑顔が、困った表情に変わった。

「翔太君は嫌だった?ごめんなさい。何か違う物作る?何が良い?」

オロオロとキッチンへ向かう志穂子。

翔太は焦って

「あ、違う!違うよ。何でかな〜って思っただけ。僕も好きだよ。煮込みハンバーグ」

「本当?大丈夫?…」

落ち着いたのか志穂子の笑顔が戻った。

「本当、嫌なら嫌って言ってね」

「あ、うん!」

翔太は反省した。


結局起きなかった茜以外で夕食を済ませ、翔太と桜は、宿題に手を付ける事にした。


「わたしが来る度煮込みハンバーグの理由はね。父が…出て行く前、わたしが小さかった頃。良く作ってくれてたの…思い出の味って話を、以前志穂子さんに話た事があって、それでなの……」

「ああ、そう言う事……お父さんの事は、恨んで無いの?」

「父が悪い訳じゃないから。あの家が、わたしが……そうさせたのよ。

あの頃が、わたしの1番幸せだった時間……でも、そう思ってたのはわたしだけだったんだけどね」

いつになく寂しそうに呟いた。


桜の母の家系は、特殊な力を持つ子供が、代々1人産まれて来ると言う。

兄や姉にはその力は備わらず、その力は桜に……母や祖母、その親族は力を持つ子供のみを認め、兄や姉に興味を持つ事は無く、一切の存在を無視しし続けた。

見兼ねた父が、兄と姉を連れ家を出て行った。


自分だけ連れ行ってもらえず、見送った桜の気持ちは計り知れない。

本当は桜も、あの家から助け出して欲しかったんだろうなぁ。しょっ中泊まりに来るのもそのせいか……翔太は、ぼんやり桜を眺めていた。


「志穂子さんの1番は、何があっても翔太だから。唯一無二の存在なんだから!」

「えっ?ああ…」

「あー……寝過ぎた!ご飯はー?」

寝ぼけた茜が、階段をフラ付きながら降りて来る。

「あっ!テーブルに茜さんの分取って有ります。志穂子さんお風呂入ってるんで、温めますね」

「ありがとう……悪いわねー桜ちゃん。やっぱり持つべきは娘よね〜。もう1人産んどきゃ良かったかな」

サバトラ猫が茜の足に飛びついた。茜はそのまま蹴り上げた。

サバトラ猫は、アーチを描いて飛んで行った。


「茜ちゃん起きたの。もっとゆっくり寝ていられないの?ありがとう桜ちゃん。後、わたしがやるわ」

風呂から上がった志穂子が、慌ただしくキッチンへ入って行った。

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