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蜉蝣の巣  作者: 春日向楓
友達の怪談
10/37

不安と憂鬱

「あの……文也さんも……」

翔太が言いかけると、

「この人は関係無い!」

早苗がヒステリックに遮る。

「お母さん‼︎」

それを、静かだが威圧感の有る紀代美の声が遮る。早苗は思わず口籠もった。

「お母さんは口挟まないで!」

早苗は不満そうだったが、それ以上何も言わなかった。

紀代美は翔太に向かって頷いた。

翔太も照れ臭そうに頷く。


「ここはちょっと、他の方の迷惑になりそうだし、休憩所行きましょうか?」

そう言って案内する様に、紀代美は先を歩き出した。その後を翔太と桜が付いて行く。

早苗と文也はいつも利用しているのだろう、さっさと先を歩いて行った。


「おい、桜!」

翔太が遅れて気味に歩き、小さい声で桜を呼んだ。

「何?……」

桜が振り返ると、紀代美にも聞こえたのか、紀代美も一緒に振り返った。

翔太と目が合うと気まずそうに、

「あ、ごめんなさい。そこ曲がった所だから、わたし先に行ってますね」

「あ、あの……花園さん!」

慌てて紀代美を呼び止める。

「は…い?」

申し訳無さそうに返事をする紀代美。

「何っ?どうしたのよ!」

何の戸惑いも無く、ぶっきら棒に問いかける桜。

対照的な2人に、『同い年の同じ女の子なのに……』と、そんな思いが、思わず翔太の脳裏をよぎった。


「花園さんは、どう考えてるの?お姉さんの事?」

翔太はどうしたものか悩んだが、紀代美に話して見ようと考えた。


「霊?……とか、信じる?」

「はい!」

「それは……お母さんも一緒?」

「えっ?ええ……多分、何と無くは……」

「何よ翔太!何が言いたいのよ」

桜が焦ったそうに口を挟む。


「ああ、うん。『お姉さんに霊が憑いてますよ!』なんて話、いきなりお母さんにして大丈夫かな……って、いつも付き添って面倒見ているのお母さんでしょ?」

「そうですけど…やっぱり霊なんですね」


紀代美の顔が、一瞬明るくなった気がした。原因が分かってほっとしたのか?自分の考えが当たった優越感だったのか?

次の時には、紀代美の表情は元の神妙な顔に戻っていた。


「それは、うん!それが分かったからってお姉さんが良くなる訳じゃ無いから。今の状態はまだ続くし、もしかしたらずっと……そうなると、下手に怖がらせて、お姉さんの面倒が見れなくなってしまったら……不味いでしょ?」

紀代美が期待し過ぎ無い様、リスクの大きさを説明した。


「そうね……何故そんな事になってるのか、まだ何も分からないし。怖がらせるだけ、怖がらせてって事になり兼ねないわよね。でも、だからって、今更お母さん抜きって訳には……行か無いでしょう。

そう言えば、ガンコツ先生の様子は?」

「何故かずっと黙ってる」

「そうなんだ」


「大丈夫です‼︎母は強い人だから。それに、こんなに早く原因が分かって、本当に来栖川さんや藤城君に相談して良かった。ありがとう」


「……いや、いや全然未だだし、これからどうなるか分から無いし」


翔太の必死な説明は、紀代美には届いてい無いらしい。

期待に満ちた紀代美の眼差しに、翔太は不安しか無かった。


ガンコツ先生も、どうしちゃったんだろう。いつも話し掛けて来るのに……。


『休憩所』と書かれた扉を開けると、学校の教室位のスペースに、テーブルが10個程並んでいた。1つのテーブルには5.6脚の椅子が、壁側にはジュースやアイスの自動販売機が並んでいる。

先に着いた早苗と文也は、其々違うテーブルに座り、3人が到着するのを待っていた。

紀代美は真っ直ぐ早苗の待つテーブルに向かい、翔太と桜もそれに続いた。

想像していたより、広いスペースに翔太は安堵した。


病院で霊がどうのと話をするには、些か気がひけていた。


もし、入院患者やその関係者に聞かれたら、とても非常識に聞こえるだろう。


他に2人程いたが、離れたテーブルに座る事が出来た。


紀代美と早苗が、自動販売機でお茶やジュースを数本購入すると、それを机に並べた。

「お好きなのをどうぞ!」

と、紀代美が差し出した。


桜はお茶を1本取ると、丁寧にお礼を言った。

翔太はオレンジジュースを取り、お礼を言って軽くお辞儀をした。

紀代美が黙って、文也のテーブルにお茶を置く。

文也は軽く頭を下げた。

早苗と紀代美が席につくと、紀代美はペットボトルのジュースを一口飲んだ。

一息つくと、

「お母さん!」

早苗は、お茶を飲もうとした手を止めた。

「何?」

「万が一、霊とかって話になっても大丈夫?怖くない?」

早苗の表情を見ながら、紀代美はゆっくり問い掛けた。


「霊⁈大丈夫よ。わたしそう言うの信じてないから」

早苗は、軽く笑い飛ばす感じで答えた。


「えっ⁈」

思わず紀代美が声を発した。

「えっ⁈」

早苗は、紀代美の声に反応した。

2人は顔を見合せた。


「今更何言ってるの!前から言ってたじゃない。お姉ちゃんには、分からないけど何かが憑いてるって!」


「そうそう、そうよ!わたしはね、狐とか、狸の類じゃないかって思ってるの」


「……じゃ無くて!」


文也は、桜の隣の空いた椅子に座ると、馬鹿にした様に鼻で笑った。


「大丈夫よ!わたしは何があっても怯まないわよ」

早苗はガッツポーズした。

「あれだけ話したのに……すいません。少し時間下さい。後で説明して置きます」

紀代美は肩を落とした。


翔太は凄い不安になった。


紀代美は力無く『どうぞ!』と、翔太に向かって手を翳した。


翔太は帰りたかったが、仕方無く話始めた。


「えっと、佐登美さんの病気?…あー、病気じゃ無くて、えーと、ああなってしまった原因?は……支配されているんです……霊に!要するに取り憑かれちゃってるって言うか」


なんの準備も無く始まった独演会。人前で話をする事も大の苦手。なんでこんな事になってしまったのか?朝の段階では思ってもいなかった。つくづく来なきゃ良かったと、後悔している。

食い入る様に見詰めて来る3人の眼差しと、冷めた目で聞こえよがしに溜息をつく文也。

翔太の不安と緊張はマックスに到達していた。


「霊⁈」

早苗が思わず声に出した。


「なんか翔太、説明が下手過ぎ!」

桜は子供の発表会を見に来た、母親の気分を味わっていた。

翔太は、軽く咳払いして話しを続ける。

「その、霊って言うのが、文也さんの元奥さんの、仁絵さんのお婆ちゃんです」

「元奥さん⁈」

早苗と紀代美の声が揃った。

と、同時に文也を見た。

「えっ?えっ?どう言う事。文也さん!あなた佐登美とは、再婚って事?」

早苗は混乱した様子で文也に訪ねる。

文也が下を向いた。

「佐登美は知ってるの⁈」

文也は顔を上げなかった。

早苗は呆れてため息をついた。


「文也さんに何等かの関係が有るのは確か、その為に、文也さんには居て貰った方が良いかと……」

「ああ、ええそう言う事なら」

早苗は力無く答えた。


「藤城君達凄い。短い間に私達でさえ知らないそんな情報……」


紀代美は感心しきりに、尊敬の眼差しを2人に向けている。


翔太は、そんな紀代美の期待を意識すると、余計緊張した。


「その……えっと、何故あんな格好になっているのか」

「あんな格好?」

「ああ……はい」

「いったい、何がどうなってるって言うの?」

「えっと……聞いて見ないと」

「聞いて見る?……誰に?」

「本人にです」

「本人⁈」


翔太の『霊』発言に、微かに疑いを感じ始めた早苗は、畳み掛ける様に質問したが、今ひとつ要領が掴めない。


「ああ、この場合の本人は、お婆ちゃんの事です」

翔太は慌てて付け加えた。


「…………」

紀代美と早苗、文也は、翔太の言葉に混乱した。


「…………どうやって?」

頭の中で整理が付かない疑問が、同時に3人の口から漏れた。


「あ、あの!翔太は霊と会話が出来るんです‼︎」

痺れを切らし、桜が助け舟を出した。


「ふっ!胡散臭‼︎」

「文也さん‼︎辞め……」

紀代美が言い掛けると、桜が遮り

「あなたね。仲間に入れて欲しいの?欲しくないの?別に無理に居てくれなくて結構なんですけど!嫌なら、邪魔だからさっさと帰って貰えるかしら!」


文也の態度に、いい加減辟易してた桜が釘を刺した。

文也は黙って横を向いた。


桜の言葉に一瞬静まり返った時、休憩室の扉が開いた。年配の看護師が入って来た。小銭入れから小銭を出しながら、自動販売機の前に立った。迷い無くお茶を購入し、出口へ向かう。途中、こちらに視線を送ると、無表情に近づいて来た。

翔太はドキドキした。


「あのーあなた石上敏子さんの息子さん?」

看護師が文也に声をかけて来た。

「えっ?ああ……はい。石上敏子は母です」

「やっぱり!わたし以前敏子さんと同じ病院に勤めてたの。この間、石上佐登美さんの病室でチラッと見かけて……やっぱりねー。へー……」

文也の顔をしみじみ眺めると

「なーんだ。全然似てないじゃない!」

「えっ?」

文也が思わず聞き返すと、看護師は思わず出た言葉に本人も驚いた様子で、

「あ、ごめんなさい。話し込んじゃって。お邪魔しました」

看護師は逃げる様に、足早に出て行った。


その様子を緊張しながらじっと見つめる翔太。

怪しい相談してるとか?誰かにチクられた?

そんなに大きい声だったかな?

注意しに来たの?

不安が頭の中をずっと走り回って、気が気じゃなかった。が、違った様子に、今日1日で1番ホッとした。


文也は『何だ?』と、看護師の態度に不審を感じていたが、深くは考えなかった。

紀代美と早苗は丸で興味が無い様子。

桜だけは、看護師の言葉が引っかかっていた。


「わたし達は1度帰って、作戦考え無いと。ね、翔太!翔太には次回、対決して貰わなきゃならないし」

「対決⁈って」

桜の軽い感じの言葉に翔太はムッとした。

「そうね。そろそろ佐登美の所に戻らないと、なんか今日は疲れたわ」

「お母さん!」

早苗の配慮の無い物言いに、紀代美はイラっとした。

「次はいつ?」

「えっ?」

珍しくなんの皮肉も篭っていない、文也からの問いに、桜は思わず聞き返してしまった。

「あなた、また来るつもり?」

と、早苗は態とらしくため息をついた。

「俺が居た方がいいんじゃないの?」

「そうですね……明後日から夏休みに入るので……その前にちょっと気になる事があって……んー文也さんは日曜日が都合良いですか?」

「出来れば」

「じゃ、1週間後の日曜日に!皆さんは大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

紀代美が即答した。


また勝手に決める。僕はそんなに暇じゃ無いんだけど……と、何も予定の無い翔太だけが不満気だった。

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