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蜉蝣の巣  作者: 春日向楓
友達の怪談
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生徒会長花園紀代美の相談事

授業終了のベルが、北星中学校の校舎内に鳴り響く。


4、5人の生徒が教室を飛び出し、我れ先へと売店へ走る。

人気No.1の焼きそばパンの争奪戦が始まった。


教室では、気の合った者達がテーブルを合わせ、他愛も無い話に盛り上がりながら、弁当を開く女子達。


昼食取るのも煩わしくコンビニおにぎりをほうばり、ボールを持って外へ飛び出す男子。


皆、思い思いに過ごす昼休み。


その中に、机にうつ伏せたままの女子生徒が1人。

昨夜は夜更かししたのか居眠りを決め込んでる。


その女子生徒にそっと近づき、様子を伺う影。

生徒会長の花園紀代美だ。


「来栖川さん……」


紀代美は躊躇しながら、1度だけ小さな声で呼んで見た。


来栖川は熟睡してはい無い様子。

だるそうに声の方へ顔を向けた。

「……ああ……花園さん。おはよう」


「え?あ……おはよう」

紀代美はちょっと照れながら、来栖川に合わせて挨拶すると、

「お昼……食べないの?」

と、声を掛けた。


「?……ああ……」


来栖川は周りを見て今の状況を確認すると、欠伸をしながら鞄をゴソゴソし出した。


『……?』

非常に珍しく彼女が声を掛けて来た理由は、自分に弁当を食べさせたいが為なのか?生徒会長だから?


等と考えながら、弁当箱を机に乗せた。


「あの……来栖川さんに相談したい事が有るの……聞いて貰える?」


しっかり者で、生徒会長の仕事もそつなくこなし、誰にでも頼られる紀代美が……相談⁈


「相談って……わたしに?」


来栖川は突然の申し出に戸惑いつつ、自分を指差した。、


「わたしでお役に立てるなら……何なりと……」


何か裏があるのか?探る様に返事をした。


来栖川の返事を聞くと、紀代美は緊張が解けた様に笑顔を見せた。


「放課後、時間有るかな?」


「放課後?……うん!大丈夫了解!」


すっかり目覚めた来栖川は、返事をしながら両手を広げ伸びをした。


来栖川桜。昨年の夏休み、20年近く前に学校で起きた殺人事件に纏わる怪談話を、同級生の藤城翔太と共に解決した。詳しくは学校にある怪談で……。


「桜ー!先食べちゃうよ!」


「あぁ、うん」


桜は机を寄せ、女子達5人の輪の中に机を並べた。


「何、徹夜?」

「うん。昨日買った本読んでたら止まらなくなっちゃって、明け方近く迄」

そう言って桜はまた、大きな欠伸をした。

「ふーん。花園さん、珍しいね」

「ああ……だね」


普段あまり接点の無い2人の会話に、好奇心を向けて来た友人の言葉に、桜は曖昧な返事で交わした。


席に着いた桜が後ろを振り返ると、色どり良く見た目や栄養バランスを考えた、愛情のこもった弁当をほうばる藤城翔太が視界に入る。

このお弁当を作った人の料理を、桜は何度か食べた事が有る。味も保証付だ。

毎日幸せそうにお弁当を作る姿が、目に浮かぶ。


桜は翔太の机に椅子を寄せると肘を付く


「翔太。明日行くね」


突然視界に入って来た桜を横目に


「何処に?」

面倒そうに返事した。


「翔太ん家!茜さんや志穂子さんに会いたいし」

「おととい会ったじゃん」

「行くね」

「何で?」


桜は無視して、自分の机に戻り弁当を広げた。


「相変わらず仲良いね。あんた達」

「え?ああ、弟みたいなもんよ」


桜は、今朝自分で詰め込んだ色気の無い弁当を、義務の如くほうばった。




放課後、桜は1人教室に居た。

ぼんやり雑誌をめくりながら、紀代美を待っていた。


廊下をバタバタ走る足音が近付いて来る。

扉が開き、息を切らした紀代美が教室に入って来た。


「ごめんね!こっちからお願いしたのに、随分待たせてしまって。先生に片付け頼まれて、断れなくて本当にごめんなさい!」


申し訳無さそうに両手を顔の前で合わせ、必死に謝る紀代美。


「大丈夫だよ。気にしないで」


先生からも信頼の厚い紀代美は、良く先生に仕事を頼まれる。普段から忙しくしているのは知っている。


先生に頼まれたら断りづらいだろうし、誰が相手でも紀代美の性格上……断れ無い。

先生も分かっていて頼んでるからタチが悪い。

大変だなぁといつも思っていた。


同情はしても、紀代美に対しての苛々は少しも感じていない。


「帰る方向一緒だよね。歩きながら聞いてくれる?」

「OK!」


2人は手早く帰り支度をすると、速やかに教室を出た。



学校を出て暫く経つが…紀代美の口はまだ開かない。


桜は無言で横を歩く。


学校から、桜の自宅迄の距離を3分の1程歩いたかなぁ、等と考えていた。


「霊……って信じる?」


唐突に紀代美が発した言葉は、辛うじて聞き取れた。


「霊⁈……」


真面目で現実的な紀代美の印象からは、1番遠く感じられる言葉に、桜は思わず聞き返した。


考えて見れば、恋バナする程紀代美と親しい間柄では無いし、相談されるジャンルはたかが知れている。


ま!桜にとっては、これが1番の得意分野だ。

そんなもんだと、ちょっとがっかりした。


「家は代々霊に携わる仕事をしているから、信じないとは言わないけど……悪戯に関わるのは」


「やっぱり‼︎噂は色々、聞いていたから」


桜としては余り気乗りしない返事をしたつもりだったが、紀代美は違った捉え方をした様子で、少し元気になった気がした。


「噂?」


自分の居ない所でどんな噂をされているのか?桜にはそちらの方が気になった。


「来栖川さんの家は、お祓いとかする家系で、そう言った系にとても詳しくて、霊が見えたり会話したりするらしいと、みんなが噂してて」


何じゃそりゃ!わたしは一体何者だと思われてるのか?

詳しい?ってのは百歩譲って、まぁ、同意はしても、後は全くデタラメだし。

嘘の情報で頼られても、信じる前に確認して欲しい。


「興味は有るけど、霊も見えないし、お祓いも出来ないよ。そういった相談じゃ、残念ながらわたしじゃお役に立てそうに無い見たい。

ちゃんとプロ?の人に相談した方がいいんじゃないかなー、わたしが言える事はそれだけ……ごめんね!」


桜はそう言って、軽く手を振りゆっくりと紀代美から離れた。


「どうしても駄目?……助けてもらえない?」


背後から、紀代美の声が小さく聞こえた。


紀代美の大袈裟な落胆ぶりに後ろ髪を引かれる。

必死に搔き消すが、身体が前に進まない。


「もう!」


耐え切れずに振り返ってしまった。


桜はその場にとどまった。


これで、帰る機会を無くした……気がする。


「だいたい、何でわたしなの?」


「去年、来栖川さんの力で、20年前から学校にある怪談話を解決したって!」



去年、北星中学の教師であった佐渡が、恋人滝川と無理心中した。滝川が新聞社に送った遺書によって、佐渡が過去に起こした2件の殺人事件が公になった。その時、官僚であった佐渡の父親は既に亡くなっていたが、生前に自分の保身の為、これらの隠蔽に画策した事が知れ大きな事件になった。

これらは暫く世間や、学校中でもかなりの話題に上った。


解決にあたっては、桜や翔太の力によるものだが、表面的には知られていない筈……



「代々霊に携わる仕事って来栖川さん言ってたし、仕事上とても詳しいんじゃないかなって…来栖川さんだってプロよね」


紀代美は今にも泣き出しそうだが、必死に耐えている。


人前で泣くのは、彼女のプライドが許さ無いんだろうなぁ……

紀代美を観察しながら、桜は自分が追い込まれて行くのを感じていた。


なんか必死だなぁ、

話聞くくらいなら……

でも、聞いてしまったら、最後まで関わるんだろうなぁ


桜は大きく深呼吸して、紀代美の正面に立った。


「話聞くわ!でもその前に、家の事説明しとかないとだよね。友達に話すと引かれちゃうから、今迄話した事無いんだけどなー……」


「誰にも言わない。絶対!」


紀代美は真っ直ぐ桜を見て、何度も頷いた。

必死な姿に、桜は少し気の毒になった。


「言わなかっただけで、別に秘密にしてた訳じゃ無いの。そんなに気にしないで」


紀代美はもう1度大きく頷いた。


「ここじゃ何だから……この先に公園があるの。公園で話ましょ」


2人が住宅街へ入って行くと、その中心部に少し大き目な公園が見えた。


薄暗くなり始めた公園から、小学生の男の子が3人、元気良く飛び出して来た。


大きな声で、

「じゃね!」

と言いながら、それぞれに散って行った。


そして公園には誰も居なくなった。


公園に入ると、右半分はブランコや滑り台、砂場や鉄棒等が並んでいて、昼間は近所の子供達で賑わっている。


反対側には池があり、大きな鯉が優雅に泳いでいる。日頃子供達からお菓子やパン屑等を貰っているせいか、人が池を覗くとあちこちから集まって来る。


公園の真ん中に小さな山が有り、山の上に東屋が立っている。2人はその東屋の椅子に腰を下ろした。


辺りの街灯が点き始める。


「難しい事は省いて、簡単に説明すると……わたしの家は先祖代々遺骨を使って死者を呼び出し、死者と遺族との架け橋を生業にして来たの。呼び出せる事が出来るのは、あくまで人生を真っ当し、成仏した人のみ。殺人や自殺等で亡くなった人は、気持ちをこの世に残してしまう事が多いの、そうなると呼び出すのは無理。でも偶に例外が有って……過去に、殺されたのに素直に成仏した人を呼び出し、成功した事はあったわ。まー、異常に人が良いって言うのが原因なんじゃないかって思ってるんだけど」


一気に捲し立て、最後にどう?……と、紀代美に手を翳した。


「…………何か?……凄い!のは分かるけど……って、どう言う事?」


簡潔過ぎたのか?紀代美にはピンと来ていない様子。


「要するに、霊は見えないし、お祓いも出来ない!って、事!」


「そうなんだ……それじゃ駄目?」


「しかーし、手が無い訳じゃ無い!わたしじゃ無理だけど、秘密兵器を使えば」


桜は得意顔でVサインした。


「秘密兵器⁈」


紀代美が不思議そうに尋ねる。


桜はにんまり笑った。


「ま、それは置いといて。お話を聞かせて」

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