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1-3

 チヨダ・ブロックから、リニアレール・山手ライン沿いを走って、アキハバラ・ステイションへ。二人は自動運転のクルマに揺られて進んだ。

 外注の警察組織、それも特にムシ相手の武装組織となると、その仕事内容は絞られてくる。ムシの被害にあった者を割り出し、現在どこに潜伏しているのかを把握するのだ。ネットワーク上から飛び込んで、スタンドアロンなマシンに逃げるムシは、この世にごまんといる。特に人間の脳がネットとつながった現代では、人間にウィルスが潜伏。そしてヒトが何かマシンを使おうとする際、侵蝕していくというパターンが少なくない。特にそのような被害は、産業用機械が使われる場や、機械の見本市、また問屋や卸売り店などでも頻発している。一般家庭でもそうだ。いまや人間と機械との境界線は非常に曖昧になり、ゆえに人間にコンピュータの病までも潜伏するようになり始めた。それはまさしく、病原菌のように。

 恭介とエレンは、そのようなムシの目撃例があったという電気店にきていた。

 アキハバラ・ブロック。百年以上前から続く市場は、いまや電脳の蚤の市と化している。巨大な浮遊看板を持つ総合電気店が見下ろす先には、駅を取り囲むように個人商店が建ち並んでいる。それらすべてが、電脳・義脳関係のパーツショップだった。

 報告があったのはそのような個人商店の一つだった。細い路地裏を行ったところにある、春日電子という煤けた看板。シャッターが半分までおろしてあり、「諸事情により休業します」と張り紙が出されていた。

 エレンはその店先に駆け寄ると、何回かシャッターをたたいた。

「警察でーす、調査にきました」

 しばらく叩いてから待っていると、シャッターは静かに開いた。現れたのは、白髪が目立つ老人だった。

「待ってたよ。早く調べてくれ。こっちだ」


 老人は二人を店の奥に案内した。ガラスケースには、電脳の外殻や、義体ボディの調整パーツ。または外装義体クグツ用の高性能モーターなどが並べられている。

 老人はそのような商品は無視して、店奥の金庫から何かを取り出した。

「二日前のことだ。この、外装義体クグツ義脳(コンピュータ)が突然エラーを起こした。幸い、誰にも売ってなかったからよかったが、もし誰かの手に渡っていたら大変なことになっていた。感染源になってたかもしれん」

 クグツ。それは、人間の身体機能を拡張エンハンスする汎用パワードスーツ、通称『外装義体』の俗称である。本来警察用語であったのだが、それが一般にも知れ渡るようになった。クグツ用の義脳とは、すなわちそのようなパワードスーツの補助コンピュータのことだ。人間の電脳のバックアップとして働くことで、人間よりも巨大なカラダを動かすことを可能とする。

 もし義脳にムシが潜んだ商品を売ったとなれば、ムシはクグツからヒトの電脳に侵入。電脳を乗っ取り、クグツはおろか人間ごと意に反した動きをさせることになるだろう。

 クグツは、主に産業機械として、工事現場などの重労働。また昨今では高齢者介護の場でも簡易的なものが利用されている。そのようなクグツが暴走すれば……事件は避けられなかったろう。

「ちょっと見せてくれます?」

 エレンはそういって、手を差し出した。

「ああ、構わんよ。むしろよく調べてほしい。この界隈で悪性ウィルスが現れたなんて久しぶりなんだ。どの店も高い駆除プログラムを買ってるってのに……」

「とんでもないムシだったか、あるいは……」

 エレンはそういうと、長方形のメタルケースに納められた義脳を受け取った。

 そして、エレンは革ジャンのポケットからコネクタを取り出し、その一方の彼女のこめかみに張り付けた。コネクタのもう一方からはコードが伸びて、義脳に接続。エレンの電脳は、感染済み義脳に接続した。

「おい嬢ちゃん、そいつは感染して……!」

「問題ない。こっちはプロだから」

 言って、エレンは意識を脳内に集中。

 電脳通信。自分の意識を、他者の電脳へトレース。と同時、彼女はほかの義脳コンピュータを使って出力を増幅していた。


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