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黒田恭介がこんな目に遭っているのには理由がある。その原因を遡れば、彼の出自にまでつながるのだが、しかし彼が命運を決したのは、ここ数日のことだった。
ことは、一週間ほど前に遡る。
警察庁警備部警備第一課庶務。つまるところ資料整理という仕事を任されていた黒田恭介は、ある朝、部長直々に指名を受けて出頭した。そして、警備部長・尾形賢治に言われたのは、突拍子もない一言だった。
「君、来週からここを出て行ってもらうから」
「……出て行ってもらう……?」
「そう、警察庁から出てってもらうのよ」
「そ、それは……クビということでしょうか?」
「クビじゃないよ。出向だよ。しゅっこう。君には、公安委員会指定の私設警察組織に行ってもらう。そのために、いったんウチから出てってもらうことになった。出向先については追って連絡するから。よろしく!」
「ま、待ってください! いきなり過ぎませんか?」
「いきなりとは言うがねぇ。これでも一応しっかり協議して、やっとこさ結論を出したのよ。黒田部長――間違えた。今は退職なさってるから、黒田さん。あんたのおじいさん説得するの大変だったんだから。そりゃ、俺も黒田さんには世話になったさ。でもね、それとこれとじゃ話は別。あのね、これ以上ウチじゃ君の尻拭いは出来ないの。わかったら、さっさと荷物揃えて。出て行く準備してね。以上」
警備部長からの言葉は、それで終わった。
そして恭介は、警察庁を追い出された。
国家公安委員会指定私設警察組織制度――。長ったらしいこの名前が、ある意味で恭介の助けになったし、首を絞めもした。
電脳技術と義体技術。そして義脳技術の発展が、この国に利益をもたらし、また新たな犯罪ももたらした。ネットという広大な海。その片隅で、ひそかに増殖と成長を繰り返していたコンピュータ・ウィルス。それらはいつしか独りでに動き始め、やがてネットと密接になり始めた現実世界に侵蝕。人間の生活を蝕み始めた。人間ではない、第二の知性体による犯罪の始まりである。警察組織は、そのような第二の犯罪者を『ムシ』と呼んだ。
ムシが現れ始めた当時、「小さな政府」へ移行していた日本政府は、指定管理組織制度による警察権力の拡大。ひいては、私設組織によって電脳犯罪の取り締まり強化をはかった。警察新法第四十七条、指定管理私設警察組織の設置――である。
黒田恭介の出向先である一之瀬警備保障は、そのような指定組織。すなわち、『警察の下請け』であった。




