1話 桜並木の下で
一万字程で完結予定です。
よろしくお願いします。
どこの高校にも学校独自で決めらたルール──校則がある。
ある高校では携帯電話を持ち込んで良いのに対し、その隣の高校では持ち込みは れ 許されないという具合に。
『隣の芝は青い』とはよく言ったもので他校の校則が羨ましいと感じるのは極々自然のな感情だと俺は思う。
「おい、翔。どうするよ、もう7時24分だ。このまま行けば遅刻確定だぜ」
「全く、誰のせいよ」
「あはは、寝坊した瑛香ちゃんが人の事言える立場じゃないと思うけど……」
「安心して、お兄ちゃんは穂理が守るから!!」
桜並木の下、俺の隣を走る仲間達が言う。
「…………よし!いつものでいくぞ!!全員で教室に入るんだ!!」
◇◇◇
俺達が通う滋賀彦倉高校には他校とは違う特殊な校則がある。
滋賀彦倉高校校則十五条、本校の生徒はいかなる場合においても始業時には着席すること。
これが滋賀彦倉の校則の一つ。
うちの校則は生徒らを絶対的に支配する。
生徒会と教師陣が手を組んで俺達を拘束してくる。
その支配を逃れる為には『力』が必要になる。
一言に『力』といっても色々な物が存在する。
勉強ができる人は進学率や全校偏差値の維持の為のいう理由で校則が一部免除される仕組みがある。
部活動で全国大会などの大きな大会に出てる奴もそうだ。
キーンコーンカーンコーン。
「もうチャイム鳴った」
7時25分を知らせるチャイムが響く。
俺達の高校は7時30分までに着席すれば遅刻にはならない。
本来なら走ると余裕で間に合うのだが、25分から正門で朝遅刻検査が行われる。
これを掻い潜って下足室に入ると俺達の勝ち。
正門で捕まると指導で30分には間に合わない、つまり俺達の負け。
「平凡な俺達が遅刻回避する方法は一つしかない」
俺は走りながら声を上げる。
「強行突破だ!!」
◇◇◇
滋賀彦倉高校の正門には怪物が出る。
こいつをくぐり抜けないと下足室には入れない。
しかも、今朝は複数いる。
強行突破と意気込んでいたのに、このせいで隠れるはめになった。
「はぁー、ッ、またいる。あいつも飽きねぇな」
俺の幼馴染みの一人──三島数斗は器用なことにため息を付きながら舌打ちをした。
「で、翔、今回の作戦は?」
綺麗な黒髪を弄りながら──同じく幼馴染みの永達瑛香が俺に尋ねる。
「これはいつものでは無理かもな」
俺は木の陰から怪物を覗く。
ブンッ、ブンッ。
そいつはいつも担いでいる得物で素振りをしている。
「ふわぁ、今日のゴーミンは気合入ってるね」
「そうだな勇太郎。こりゃ、いままでで最高状態かもしれないぞ」
俺の肩に手を置いたのはふわっとした喋り方をする俺の親友。
こいつは男なのにまるで女の子のような見た目をしている。
いわゆる、男の娘だ。
名前は山田・PE・勇太郎。
ふざけてるかと思うが本名なのだから仕方が無い。
後、いい匂いする。
「ねぇ、お兄ちゃん。そう言えばなんでゴーミンっていつも門番してるの?」
「入学したての穂理は知らないか。あいつは生徒指導担当なんだよ」
「すっごく怖い人だね」
「あのヤンキーじみた見た目で英語教師なんだ」
「授業で竹刀なんて使うの?」
「あれは指示棒だ、黒板をぺしぺしするやつ」
やたらとうるさいんだよな、あれ。
「穂理ちゃん、ゴーミンはこんなふうにやるんだよ」
勇太郎はゴーミンを真似て黒板を叩くジェスチャーをした。
そこら辺に落ちていた木の枝を使って校舎の壁を叩く。
流石は演劇部だ。
一挙一動を完璧にコピーしている。
黒板に英文を書いて、バシッ、そしてくるりと回転して……とてとて、こてん。
木の根に引っかかりコケた。
勇太郎は相変わらず天然だ。
「あはは、コケちゃっ……た……よ」
えへへと頭を掻いていた勇太郎の歯切れが悪くなる。
「どうした?勇太郎。怪我でもしたか?」
「……ごめんみんな。僕ゴーミンに見つかっちゃったかも」
マジか……
俺は恐る恐るゴーミンを見やると、あいつもこっちを見ていた。
ゴーミンは火を吐くような息をして竹刀を振り回す。
「ッ、まずいな、臨戦態勢だ」
「翔、どうする?」
「うぅ、ごめんね、みんな」
「穂理はお兄ちゃんに従うよ」
「……最初の予定通り正面突破する」
俺達は覚悟を決めて木の陰から躍り出た。
そしてゴーミンの前に立つ。
その距離およそ25m。
「常国兄妹に三島、永達に山田。またお前らか」
馬鹿でかい声で怒鳴りつけられた。
しかし、その声には呆れも感じられる。
遅刻常習犯だからか。
「先生!!先に行かせてください」
「ダメだ」
「なんでですか!?」
「それが校則だからだ」
「んな、理不尽な」
「そんなの当たり前だ。どうしても抗いたいのなら『力』を示せ。この滋賀彦倉高校の校訓でもある『力』をな」
視界の端っこに見える大きな石碑。
そこには荒々しく『力』と書いてある。
「……分かりました。今日こそは勝って見せます」
「ふん、またグラウンド雑巾がけの刑にしてやる」
グラウンドを水拭きさせるこの罰は生徒間では拷問と称されている。
「受けて立つぜ!!」
「今日は昨日の私とは違う……はず」
ぱんぱんと腕を鳴らす数斗にぐぐっと伸びをする瑛香。
「僕もがんばるよ」
「お兄ちゃんの敵は穂理が全てころ……んぐッ」
穂理がとんでもない事を言い出したので慌てて口を塞いだ。
「ぷはっ、何するのお兄ちゃん!?」
「穂理、その過激思考治した方がいいと思うぞ。お兄ちゃんは心配だ」
「心配ご無用だよっ。穂理にはお兄ちゃんがいるから」
えへんと胸を張る我が妹の行く末が本気で不安になってきた。
でも、今はそれところではない。
ゴーミンが苛立ちげに竹刀を構えた。
「おい!もう話し合いはいいのか?お前達も武器を取れ」
彼は野太い声で続ける。
「お前らも異能者の端くれだろ。俺くらい倒せなくてどうする」
ゴーミンの露骨な煽りに喧嘩っ早い数斗が反応した。
「やってやろうじゃねぇーか」
数斗はブレザーの襟に付けている滋賀彦倉高校の校章を引きちぎる。
その瞬間、校章が瑠璃色に輝く粒子に分解された。
淡く輝く粒子は数斗の右手に収束し、一振りの剣を形作った。
「僕もやるよ」
勇太郎も校章を粒子化して武器を作る。
か細い勇太郎の腕には龍の顔を模した巨大なトンファーが握られていた。
「んっ」
「穂理もいくよー」
同じように瑛香は錫杖を、穂理は大鎌を構えた。
俺も自分の武器を作り出す。
俺の得物は2丁の小銃。
右は白銀で左は漆黒。
以前勇太郎に「天使と悪魔みたいだね」と言われたこれが俺の武器だ。
「各々の特技を生かした連携で攻めるぞ」
「「「「了解」」」」
こうしてゴーミンとのリベンジマッチが始まった。
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