1.転移した時点ですでに瀕死
流行に乗って異世界ファンタジー始めました。
ふつつか者ですがよろしくお願いします。
底の深いマンホールを抜けるとーー異世界でした。
「って納得出来るかー!」
俺は平野総也。三十歳独身のフリーターだ。
やっとのことで就職した三流企業をリーマンショックの煽りでリストラ。
自宅警備員にジョブチェンジして数年、アルバイト警備員にクラスアップした矢先の出来事だった。
工事現場の交通整理中、どっかのドジッ子が蓋を閉め忘れてくれたおかげで、マンホールに落っこちた。その際、後頭部を強打して気絶。
気がついたら湿っぽい鍾乳洞の中にいた。
朽ちた石舞台の上で、仰向けになって倒れている。
すぐに異世界だと分かったのは、宙を漂うクラゲのせいだ。
そいつらは傘をぼんやり光らせながら、ふよふよとそこかしこを浮遊していた。地球には重力に逆らう刺胞動物なんていない。まごうことなきファンタジーだった。
「いっつ......」
呻きながら身体を起こす。
二日酔いみたいにガンガン頭痛がする。
それなりに時間が経っているのか、後頭部から流れた血は、髪にへばり付いて固まっていた。触れるとグチグチしてちょっと気持ち悪い。幸いにも出血自体は止まっているようだった。
ふらつきながら立ち上がり、地面に転がっていたヘルメットと誘導棒を拾い上げる。誘導棒とは警備員がよく振り回しているアレのことだ。暗黒卿のライトセイバーみたいな奴。スイッチを入れてみると、ピカピカと赤く点滅した。壊れてなかったらしい。
誘導棒を握り締めながら、改めて周囲を見回す。
クラゲと地面を覆う苔が微弱に発光しているので、光源には困らなかった。
洞窟は楕円形に広がっており、壁際にはいくつもの穴が覗いて、複雑に枝分かれしていた。天井と床からのびる鍾乳石は、乱杙歯のように並んでいて、自分が魔物の口の中にいるように錯覚させられた。
「異世界って.....やっぱ魔物とかいたりすんのか?」
いたら最悪だ。こんなところで遭遇したら、十中八九美味しく食べられる自信がある。研修で習った護身術なんてこれっぽっちも覚えちゃいないのだ。
今更ながらに冷や汗が流れる。
神経を尖らせ、警戒心を強めーーふと違和感を抱いた。
「何だこりゃ?」
よくよく注意してみると、視界の片隅に小さな星マークが見える。
初めは洞窟内に転がる石か何かだと思ったけど、目の焦点をずらしてもそいつは追尾するように付いてきた。つまり、この星マークは実在するものではなく、俺の網膜だけに映されたものだということだ。飛蚊症のようなものだろう。
「......」
じっと星マークに意識を向けていると、
フォンッ
突然、星マークの輪郭が広がって、パソコンのウインドウっぽいものが表示された。
【人族 Lv1 名前:ソーヤ
能力
力 :9
素早さ :11
身の守り :10
賢さ :8
HP:3/15
MP:ーー/ーー
称号:ーー】
「うわあ、ドラクエみてえ」
ステータス画面と言うのだろうか。視界に半透明の窓が広がり、諸々のステータスが羅列される。かなりというか、まんまゲームチックな世界のようだ。
基準がわからないが、決して高い数値ではないと思う。
初期能力値が低いのはご愛嬌だろう。すべてが十前後で、HPも似たようなもん。MPは多分、まだゼロという意味だと思う。
......うん?
そこまで考えたところで、首をひねった。
「嘘だろ!? おい、HP真っ赤じゃねえか!」