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ファリア王国シリーズ

雨は飴のように降り注ぐ

作者: 高瀬めぐみ

ファリア王国シリーズの中では、甘さが少なすぎる作品です。

いちゃいちゃが足りないというか・・・

砂吐きが足りないというか・・・


「むぅぅぅ~~~~」


 窓の外を睨みつけるように唸るのは、まだ幼さが残る顔立ちの少女。


 その愛らしい見た目から【ファリア王家の天使】と呼ばれている16歳の第二王女シェリアナ・ファンベルグ・ファリアである。


 そんな彼女がいるのは、彼女の兄である王太子の執務室であった。




「何を唸ってるんだ?」


 そうシェリアナに声を掛けた部屋の主でありファリアの兄であるランデルはシェリアナに目を向けることもなく、机に積まれた書類に目を通して確認のサインをしている。


 その隣で同じように机に積まれた書類にサインをしている王太子補佐官のジルオンもまた、シェリアナに目を向けることなく次々と書類の束を確認している。



「雨が降っていますわ!」


「そうだな。」



 窓から部屋へと視線を移しシェリアナがそう叫ぶように言うが、ランデルは【だからどうした】とばかりにそっけない対応である。



「今日は遠乗りの予定でしたのよ!


 雨が降っていては行けないではありませんか!!」



「だったら部屋で大人しく読書なり、刺繍なり、ダンスの練習なりすればよかろうが?」



 シェリアナは地団駄を踏まんばかりの勢いで言うが、やはりランデルは気にすることもなく簡単にそう言ってのける。



「せっかくのデートでしたのに、あんまりですわ!!


 お兄様のいじわる!!」



「ちょっと待て!なんで俺のせいになる!!」



 そういってランデルが顔を上げた時には、シェリアナは部屋を飛び出して行った後だった。



「おい、ジルオン!!なんで今のは俺のせいになった??」



「さて・・・殿下が意地悪だったからではないですか?」



「どこが意地悪だよ・・・そもそも、デートとはどういうことだ?


 お前、あいつと今日は約束でもしてたのか?」



 ランデルの言葉に一切表情を崩すことなく、ジルオンは淡々と書類を片付けながら答える。



「今日の午後から遠乗りの約束はしておりますよ。


 まぁあいにくの雨ではありますがね。」



「だったらなんでお前はここにいるんだ?」



「それはもちろん、私が休みを半分つぶしてまで処理を急がないといけない書類を、これでもかと溜め込んで積み上げてくれたどこぞの王太子殿下のせいでしょうね。」



 笑顔なのに室温を氷点下まで下げそうな雰囲気でそう答えるジルオンに、ランデルは血の気が引く思いがした。



「あぁ・・・うん・・・それは・・・悪かった。


 でもまぁ・・・あれだ・・・雨だし?」



「雨だからなんです?


 私と愛しい姫のデートが中止になると?」



 さらに室温を下げながら笑みを深めるジルオンに、冷汗が止まらないランデルである。



「あ・雨なら・・・遠乗りは中止だろう!?」



「遠乗りは中止でも、デートプランは他にもありますが?


 それでも私の休みを潰して、殿下の尻ぬぐいをしろと??


 殿下が度々勝手に抜け出して婚約中のご令嬢とデートしていたせいで、私が殿下が溜め込んだ急を要する書類を処理するために、久方ぶりにもぎ取った休みを殿下のせいで潰して、姫とのデートを殿下のせいで中止して、その上溜まっている殿下の仕事をしろと?」



「すまなかったっ!!!今すぐ休んでいいから!!


 俺が悪かったから!!!全部俺がちゃんと処理するから!!」



 笑顔を張り付けたまま言い募るジルオンに、ランデルは土下座せんばかりの勢いで謝り倒した。



「それでは、これで失礼します。


 姫の機嫌を直してこなくてはいけませんのでね。」



 ニッコリと笑ってそう告げて、ジルオンはランデルの執務室を後にした。


 残されたランデルは、ぐったりと机に突っ伏し



「本気で殺されるかと思った・・・」



 と呟いていたのだった。





********************************************





「あんまりですわ・・・楽しみにしていましたのに・・・ジルオンのバカ・・・」



「バカは聞き捨てなりませんね。」



 自室で窓の外を眺めながら呟いたシェリアナは、ジルオンの声に驚いて振り向いた。



「なんでいますの??」



「それはもちろん、私の愛しい姫とデートするためですが?」



「お兄様のお仕事は?」



「殿下の仕事ですから、きっちり殿下に処理していただくようにしてきましたよ。


 泣いていましたか?申し訳ありません。


 あなたを悲しませるのは私の本意ではないのに、殿下のせいで泣かせてしまいましたね。」



 シェリアナの頬を優しく撫でながら、ジルオンはまだ濡れている瞳を覗き込み、目尻に口づけを落とす。



「お兄様に対してそんなことができるのは、ジルオンだけね。」



「それはもう、生まれた時からの付き合いですし、陛下よりきつく言い含めてもしっかり王太子としての公務を行えるように補佐して欲しいといわれておりますので、それはもうきっちりと務めさせていただきますよ。


 未来の義兄上でもありますし、義弟としても義兄にはしっかりしてほしいですからね?」



 片目を瞑って意地悪そうにそういうジルオンに、シェリアナはクスクスと笑って「そうね」と答える。



「では、愛しい我が姫。


 雨の中でよければ、私と出掛けていただけますか?」



 恭しくシェリアナの左手を取り、手の甲に口づけを落としてからジルオンはそう問いかける。



「雨でも出掛けられますの?」



「雨ならではの楽しみ方というものもございますよ。


 ただ、もう少し動きやすいドレスに着替えていただくことになりますが。」



「ジルオンと出掛けられるなら、すぐに着替えるわ!


 リリー!リリー!!着替えをするから準備をお願い。」



 壁際に控えていた侍女を呼び、シェリアナは早速着替えるために衣装部屋へと向かった。


 しばらくして衣装部屋から出てきたシェリアナが着ていたのは、普段よりも少しだけ丈が短くボリュームの抑えられたドレスだった。



「これでいいかしら?


 動きやすいように靴も踵の低いものにしたのだけど。」



「相変わらず私の愛しい姫は、何を着ても天使に見えますね。


 天に攫われないように目が離せなくて困りますよ。」



 着替えを済ませたシェリアナの手を取り、ジルオンは愛おしそうに口づけを落としてそう言った。



「それでは参りましょうか?


 お手をどうぞ、天使の姫君。」



「どこへ行くのか楽しみですわ。」



 そして二人は雨の日のデートを存分に楽しんだのでした。




読んでいただきありがとうございました。

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