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仕事

 「遅いぞ、ミカエル。」そう、俺の仕事は地獄で唯一の天使と一緒にするというものだ。

 「鬼川さんがはやすぎるんですよ~」間の抜けた声でミカエルが返事をした。

 「早くしないと、最初の人が来るぞ。」

 「はーい」


 チャイムが職場で鳴り響く。今日の仕事の始まりだ。

 

 俺の仕事は簡単に言えば地上で死んだ者が天国へ行くか地獄へ行くかの振り分けをすることだ。本来なら閻魔様がこの振り分けをするのだが、最近は閻魔様の仕事にこれ以外の雑務が増え、ひとりひとり振り分ける時間が取れないため、作られたのがこの振り分け代理だ。

 天国にいるカミサマと閻魔様が話し合いをした結果、それぞれが選任した天使と鬼を一人ずつこの振り分け代理にすることとなり、その話し合いが締結された時の地獄学校の首席であった俺に白羽の矢が立ったという事だ。この間の抜けた天使がどうして選ばれたかは知らない。

 

 

 「次、28番さん入ってきてくださーい」ミカエルが次の人間を呼んだ。

 「よろしくお願いします...」顔の青ざめている男性が入ってきた。(死んでいるから顔が蒼いのは当然だが)

彼の死亡履歴書に目を通す。この死亡履歴書とは地上で人間が死んだとき、その死去に立ち会った死神がその人間がどのようなことをしてきて、どのように死んだかを書いたものだ。これをもとに面接を行い、天国に送るか地獄に送るかを決めるのだ。


 名前は山田隆義。年齢は51。性別は男性。死因は自宅での自殺。起こした悪行として一番大きいのは自殺する一週間前に起こした殺人事件。


 「なぜ、殺人をしたんですか?あなたのそれまでの経歴からしてそんな事件は起こさないと思いますが。」俺は彼に尋ねた。殺人事件を起こすまでの彼はとても真面目で目立つタイプではなかったと死亡履歴書には書かれている。

 「息子が...息子が、刺されたです...」山田さんは涙を流しながら話し始めた。

 山田さんの話によると、息子が通り魔殺傷事件に巻き込まれそのお見舞いをした帰りにその通り魔の犯人像に似ている人間を見つけ、声をかけたところ切りかかられて、もみ合いになった挙句相手の持っていたナイフで刺してしまったという事だった。この一件で人を殺してしまった罪悪感に耐えきれなくなり、自殺したという事だった。


 「なるほど...」悪行をした者は地獄に行くルールだが、このように情をかける余地のある場合は目をつむるというのが最近のパターンだ。このパターンに従えば山田さんは地獄ではなく天国に行くことになるのだが...


「山田さん、その話本当ですよね?」俺は尋ねた。俺にはどうしても彼の涙がホンモノには見えなかったからだ。

 「え、えぇ、本当ですよ」山田さんは答えた。先程までの悲しみの目ではなく懇願するような眼をしながら。

 その瞬間、俺は彼が嘘をついていると悟った。

 「本当のことを言ってください。今ならまだ罰を増やさなくて済みます。」俺は山田さんの目をじっと見た。明らかに狼狽している。

 「な、なんのことだ。」山田さんの声の震えから心の動揺が感じられた。

 「これが最後です。本当のことを言ってください。」静かに言った。すると山田さんは観念したように話し始めた。

 山田さんは借金をしており、その取立てに来た金融業者を口論の末に刺してしまい、逃げている途中その組織につかまってしまい自殺を装って殺されたという事だ。

 

 結局、山田さんは地獄に送り、嘘をついたことは黙っておくことにした。

 

 「なんで嘘ついてることに気づいたんですかー?」ミカエルが聞いてきた。


 簡単なことだ。こんな仕事をしていると本当に悲しい思いをした人間とそうでない人間の眼ぐらい見分けることぐらい何でもない事なんだ。


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