はち カラがっ?? ~シャルド~
あ!ブックマーク登録数が200件に!
嬉しくて1人にやにやしてました!
「…料理ができなくとも、昼はお前が作れ!いいな?」
なんたる無茶…。正直、怒りで声も出せませんでした。
なぜ、作れないと言っているのに、作らせようとするんでしょうか?嫌がらせ?
それなら分かります。丹精込めて育てていた花壇を台無しにするような方です。そんな嫌がらせをしてもおかしくありません。
「あら?厨房で何しているの?」
「おっ!セレナの嬢ちゃん!いやな、この坊主が、坊ちゃんから昼食を作るように命令されたんだとよ」
僕が厨房のおやっさん(そう呼べと言われました)に相談していると、ひょっこりと厨房の入り口から顔を出したセレナさんにおやっさんはそう伝えます。
「あらあら。大変ね…」
セレナさんは困ったように笑いながら、僕の頭を撫でてくれます。セレナさんはお母さんみたいな方です。ふんわりと笑って、いつも僕に優しいです。頭を撫でてくれる、褒めてくれるんです。
「今朝もそう言われてたけれど、私がご用意したのよ。お召し上がりにならなかった?」
「あ、いいえ。受け取ってくださいました」
「そう、よかったわ」
ほっとしたようにセレナさんは息を吐きます。セレナさんは本当に優しい方です。花畑のことなんか忘れたように、フィアレインさまを気にかけています。
なぜフィアレインさまは、こんなにも優しい人たちに囲まれているのに、あんな風なのでしょう?僕が欲しいもの全部持っているのに!!
「では、シャルドくん!坊っちゃんに食べていただく物をいっしょに作りましょう?私が教えてあげるわ」
「はい!ありがとうございます!!」
優しくほほ笑んで、袖を捲くりあげるセレナさんに僕は笑顔で答えました。
「…これを…お前が?」
フィアレインさまは不機嫌そうに僕が作ったお盆の上の食事を見ています。
「は…い!あの、セレナさんに手伝っていただいて…」
「…」
まだご自分の持っているお盆の上の食事を見ています。確かに、いつもの食事と比べたら、スクランブルエッグは真っ黒に焦げているし、スープの具も歪だし大きすぎて半生だし…だから、無茶だと言ったのに…!!
なんだか、泣きたい気分になって俯いていると、かちゃっと音がします。
え?
顔を上げると、フィアレインさまがフォークを手にして、スクランブルエッグを片手で器用に切ります。
そして、ぱくっと口に入れました。
「あ…!」
真っ黒いスクランブルエッグ…何個か作って、それでも上手くいかなくて、セレナさんが手伝いを申し出てくれたけど、スープは味付けとかしてもらったし、これぐらいはと思って、頑張ったけれど失敗しながら…ただ焼いただけのものでした。本当は、こんなもの食べられないと言われた時用に、ちゃんとセレナさんが用意してくれた食事も準備していました。
ごり!ばり!
はっとしました!殻?!カラがっ??
どんな嫌なことを言われるだろうと、唇を引き結んで、覚悟をしました。
「…まずい」
当たり前だ!自分で作っておいてだが、そんなものが美味しいわけがない!そう思いましたが、口にはできませんでした。悔しい…ぎゅっと拳を握りしめていました。
「…悪くはない」
「え…??」
フィアレインさまはにっと笑います。
「これなら悪くない。夕食も頼んだぞ」
僕は驚いて、思わずフィアレインさまをじっと見つめてしまいました。フィアレインさまは、そんな僕を見て、くすくす笑います。
そして僕をおいて、さっさと扉を閉めてしまいました。
僕は、厨房に向かって歩いていました。
何なのでしょう?
下げて上げる…。何を考えているのでしょう?
意味がわからない!
不信感しか湧かない。そう思ったのに、僕は少し喜んでいました。
あんなに不愛想な方が、笑顔を見せてくれたことに…。
「受け取っていただけたの?よかったわね!」
セレナさんは自分のことのように喜んでくれます。
「はい!それで…夕食も、と言われたのですが…」
「任せておいて!!いっしょにがんばりましょう!!」
「はいっ!ありがとうございます!」
やっぱりセレナさんは優しい人です。ふつうは貴族のお屋敷に仕えている使用人ならば、僕みたいなどこの者とも知れないような孤児にこんなに声をかけてくれないと思います。
孤児院に寄付に来ていた貴族の方も、子どもたちには絶対に触れようとはしませんでした。怖い護衛を周りに侍らせて、汚らしいものを見るような眼で見ていました。
娯楽…?いや、あれは見栄?他のヒトへの宣伝?
自分が如何に下の者に施しをくれてやっているかを周りにアピールしていたのでしょう。
きっと…フィアレインさまは僕が何者かは知らないから、笑いかけてくれたのでしょう。
あれ?…どうしてだろう?どうして、僕は胸にずんと重たいものを感じるのだろう?
そんなことを考えている時、セレナさんに声をかけられました。
「そうだわ、シャルドくん。片付けは後でいいからいっしょに来てくれるかしら?奥様がお呼びよ」




