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ご やってきました!

 (はいっ!やってきました!深夜の花畑!)


 すでに月が出ている。三日月なので、少し薄暗いが見えないわけではない。ぶちぶちと花をちぎって、ビンに入れていく。綺麗な青い花は月の明かりにきらきらと光をこぼしている。

 ユリのような形の花。あまり大きくないビンにはすでに半分以上の花が入っている。

 黙々と花をちぎっては入れ、ちぎっては入れを繰り返す。これはなかなか面倒だな~。


 (なんでこんなにいっぱい育ててるの?…なんだか想いが重いわ!!)


 文句を言いそうになるのを我慢して、黙々と黙々と花を千切る。


 (…そして、なんなの?文句あるなら、最初から見てないで言えばいいのに!見てるだけ?)



「…何か用か?」



 (う~!気になり過ぎてついに声をかけてしまった…)



 そう…そうなんです!ここに来た時から気配をずっと感じていたのだよ。中庭の入り口の柱の後ろ。


「…気付いていらっしゃったのですか?」


 そこから執事のリレイが出てくる。が、振り返ることはしない。ブチブチと花をちぎる。


「…それだけ気配をさせていて気付かないと?」


 そう言うと、苦笑するような気配がする。


「何をしていらっしゃるのですか?その花はセレナが大切に育てている…」


「…お前には関係ない」


「関係はあります。何か御不快な点があったのなら、それを改善するのが私の務めです」


 (まぁ、なんだか執事っぽい!!あ、リアル執事だった!)


 最後の花をちぎり、ビンに入れて、ぐいっとリレイに差し出す。リレイは意味が分からないのか首を傾げる。


「…その花の花言葉が分かったら、答えてやる」


 こいつはフィアレインの味方じゃない。父上の忠実な僕だ。何が起こっても手も口も出さない、出せない日和見な父上にフィアレインの行動を報告するだけの…。『不快な点』だらけのフィアレインの生活を知っておきながら、一度だって改善させるために動いたこともそれを父上に報告したこともない。だから、こんなものを渡しても、何かを言っても無駄なことは分かっている。


 それに、恐らく何が起こっても…この家にいる人間は絶対に誰一人フィアレインの味方になることはない。


 それは、何もこんな性格のフィアレインのせいばっかりじゃない。わずか6歳だったフィアレインにたった一人で生きるように仕向けたのは…。


 (この家で父上に進言できる立場の人間だって何人もいるのに(こいつもだけど、昔から仕えてる父上の幼なじみの従者も乳母も)、誰もフィアレインを庇わない…。いや、でも、それはフィアレインのせいかな~?いやいや!子どもを放置はどんな理由があってもダメ!ぜったい!!)


 それと、と付け足す。


「…明日からは、新人に食事を作らせろ。従者の仕事だ」


 それだけ言うと、何かを言いたそうな執事を残して、さっさと地下の入り口に向かった。


 (だって、これ以上相手してたら、私怒っちゃいそうなんだもん)






 階段を下りながら、ふと考える。フィアレインは私、それは間違いない。だったら、私は元からこういう所を持っていたのだろうか?

 いくらなんでも、それはないかな…?


 前世ではそんなこと考えもしなかったけど…。人間は誰しもが残酷な面を持っているって言ったのは誰だったかな?


 フィアレインが危険な思考を持ち始めたのは、母親のお葬式以後だ。それが、5歳の時。


 それから、6歳の時、ある貴族の娘と父が再婚し、フィアレインを持て余し始めた父親は彼をしばらく郊外の屋敷に押し込めた。


 (って言うか、母上存命時からの愛人じゃねーか!!母上が急に亡くなったのも、怪しすぎるわ!!)


 そして…その後、ひと月後に次男、一年後に三男が誕生。フィアレインはますます、孤立していく。傍から見れば、継母に追いやられたかわいそうな跡取り息子だろう。


 (いやいや、なんで再婚した直後、ひと月で次男生まれてんの!明らかにおかしい計算じゃない!!それとも何か?この世界は、赤ちゃんはコウノトリが運んでくるとでも言うの?!)


 こほん…!話がそれた。記憶によれば…ここからだ。


 地下の部屋に着くと、すぐに本を扉の前に重ねる。こちらの世界の本は、大体重厚感に溢れまくってて、一冊一冊が重たすぎる。重ねるのにも一苦労だ。ドアノブまで積み重ねて、ノブが回らないようにする。これで扉は開かない。


 (本人が意識していなかっただけで、これにはちゃんと意味があったんだな~)


 幼いフィアレインに感心する。この地下には、窓もない、天井裏もない、入り口は目の前の扉1つ。他には拳くらいの大きさの換気穴はあるが、小さすぎるため誰も出入りはできないし、魔法を活用した換気孔のため、ここに届くまでに空気は浄化される。つまり、毒を流しても、浄化されるということ…。


 つまり、これは…殺されるのを防ぐための策…。


 だけど、フィアレインは、ただのかわいそうな子供じゃない。


 フィアレインが8歳の時、三男は原因不明の病で死んでいる。


 

 そのお葬式で…継母に、お前が殺したのか?と責められたフィアレインは笑いながら、こう答えた。



「あなたが差し向けてくださった幾人かの暗殺者の、ほんのお返しだ」



 と…。



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