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よん きた―――!!

 「さん」の裏側で、彼(?)はこんなことを考えていました。

 振り返った先にお盆を持って立っていた茶髪に茶色の瞳の少年の名前を聞いて、少年を見ながら、私は大絶叫を上げていました。


 もちろん、心の中でね!


 (攻略対象きた―――――――!!!ファーストの攻略対象、剣士科一年!!期待度ナンバーワン!!クーデレキャラ、シャルド・デュレ!!ミニチュア版だけど、そのもの!!かわいい~!!)


 うん…。さっきまで『フィアレイン』だけだったから、ここが乙女ゲームの中だってイマイチ実感なかったけど、こうして実際攻略キャラに出会うと、実感しちゃうなぁ。こんなところで、シャルドに出会うなんて!記憶を呼び覚ましてから、初日だよ!


 (これで、私がヒロインなら、運命感じちゃうところだけど…。残念!!私は『男』でした!)


 しっかし、この少年…声でかいな!!耳につく…。


「…うるさい」


 あ!声に出しちゃった…。


 (うわぉ!!…シャルドが固まっちゃったよ!!でも、フィアレインの口調だと、こんなものなんだよ―――!!ごめんよ――!あれ?テンションが…!私のテンションがおかしい!!シャルドに会ったせいか?これは何と言うか、アイドルに会えた時のような感じ?)


 謝るわけにはいかないけど、ちょっと申し訳ない気分になったので、頭を下げたまま固まったシャルドを放置して中庭に歩き出す。シャルド少年も戸惑いつつ付いてくる。 


 (なにか!なにか話をしたいけど!『フィアレイン』の会話力だと、話が普通にできない―――!!)


 私は全力で大混乱!頭の中でね!!でも、そんな心中もあっという間に冷めていく。


 (感情が生み出せないな~。これは厄介だ)




 中庭に入った瞬間、ふわっと香る匂いに気が付く。


 これは―――――!!


 『彼』の記憶の中にもある、月の光を浴びて開花する青い花。甘い甘い匂いを放ち、ユリに似た形をしている。

 

 (なるほど…やってくれる)


 花壇に近寄り、ぶちぶちっと花をむしり取って行った。


「…や!!やめてください!!」


 今まで黙っていたシャルド少年が急に声を荒げる。近くで大きい声出し過ぎ!!


 (ど・こ・が・クーデレだ?!これからクールになるとは思えないんですけど~!)


 だから~…


「…うるさい」


 むすっとした顔でそう言うと、シャルド少年はびくっと肩を揺らす。それでも、私を睨むように言い返す。


「その花は…セレナさんが丹精込めて育てているお花です!やめてください!!」


 (…これは、理由を教えても、理解されにくそうだな~)


 そんな思いで、じ~っと見てると、なんだか気圧されたようにシャルドは一歩後ろに下がる。


 (!!?お…脅えられた!!?)


 何もしていないのに?!あ、いや、花をむしったか…。他には…あ、「うるさい」って睨んだか…。しかも、フィアレインの目付きなら、睨まれたのはさぞ怖かっただろう。それこそ、「地獄の大魔王」としか言えない目付きだ。


(…あれ?ラスボス感が増したな)


 悪印象をそれ以上与えることが怖くなって、慌てて地下に逃げ帰りました。


 (な…泣いてなんかないんだから!!せっかく攻略キャラに会えたのに、いい関係を築けなさそうだけど…泣きそうになんてなってないから…!!)




 (くすん)





「シャルド・デュレ…かぁ」


 地下の部屋のソファに座り、さっき会ったシャルド少年の名前を呟く。


 シャルド・デュレ。


 ファーストの攻略対象であり、セカンドのサポートキャラの一人である頭のいい少年。その出生は全く不明ななぞ多き少年だ。


 どこか影を背負った彼は人気なキャラで、「すでに出ているキャラ説」のファンの中では有力な犯人フィアレイン候補だった。


 (さっきはスルーしちゃったけど、なぜフィアレインの従者?!)


 ファーストのエンディングで、犯人にされた捨て駒くんが名前を言った時も、シャルドはまったく反応しなかった。クールなままのシャルドだった。


 (恐ろしい…!!)


 もしかしてそんなところまで、計算の内?シャルドはフィアレインの言うとおりに動いていたとしたら?

 というか、シャルドとエンディングを迎えても、後日談だって、そんな空気を感じさせないのに…?!シャルドまでフィアレインに毒されている!!フィアレイン毒恐るべし!!


 (…はいっ!!だから、私でした―――!!)


 でも、ここで彼に会えてよかった。ゲーム上にフィアレインの年が出てこない以上、いつゲームが始まるのか不明だった。だけど、これで物語ゲーム開始までの時間が大体測れる。現在、シャルド少年も恐らく10歳前後だと思う。あと五年くらいかな。それまでに…私は何ができるだろう?稀代の…ごにょごにょにはなりたくない。


 しかし――…。


 手に持っていた花を見つめる。

 目の前でランプにかざして、自然に笑みが浮かぶ。


 くすと笑いが漏れる。


 あとで一つ残らずむしり取ってやる。花を丁寧に空いているビンに詰めていく。


 座っていたソファから立ち上がり、ソファに眼を向ける。


 (慣れって怖いわ~!眼が覚めた時は受け入れがたかったけど、今はフィアレインの性格が出てきたのか?)


 座っているソファも部屋の汚さも気にならないとか…。


 でも…。



「さすがに、この汚さは…人間の生活する場ではないな~」


 掃除を決心したが、1人では…。

 さっきの、声が異様に耳障りな少年シャルドに頼む?


 脅えられたし、これからのことを考えると嫌われるだろうけど。 


 (でも、仕事なら動いてくれるでしょ?)


 しかし、今までの従者はくじけるのが早かったけど、あの少年は大丈夫なのか?というか、父上はどこからあの子を連れてきたんだか…。


 時刻は深夜の時間帯になっている。


 さあ~て、花を摘みに行くかな!


 

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