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さんじゅうろく 感心はしないな

 一人で夜の町を歩きながら、家に置いてきたシャルドのことを考える。


 (大丈夫かな~)


 あの家の掃除を命じた時、絶望的な表情をしたけど…。ストーカー女といっしょに、と言った時は、嫌悪を顕わにしたけど…。


 しかし…。


 (本当に『リューナ・アブヒラドール』だった…)


 ショックはショックだ。なにがショックかと言われると、うまく説明できない。


 もしもゲームの筋書きを辿る未来があるとしたら、この世界の『リューナ・アブヒラドール』は、フィアレインの信者という『裏』がある。そして、この世界の『シャルド・デュレ』はフィアレインの従者。さらに、『アランティス・ティ・グランドラ』までフィアレインの知り合い、という可能性がある。だとすると、他の攻略対象は?他のライバルキャラは?他のモブは?


 本当に・・・フィアレインの『駒』ではないと言い切れる?


 全てがフィアレインの策略ではないと、本当に断定できる?


 (いつからだろう)


 いったい、いつから、フィアレインは考えていたのだろう?


 『私』と言う前世を取り戻してから?シャルドに出会ってから?いや、それよりももっと以前から…?



 恋愛に重きを置いて、謎もなにも明らかにならなかったファーストとセカンド。もしも、サードがあれば、それが明らかになったのだろうか?ネットでも噂されていた、『フィアレインがサードの攻略対象』という可能性はあるのだろうか?


 そうすれば、ヒロインが『彼』を…たった1人、孤独を孤独とも感じられず、ただ狂気に心を支配されて、破滅の道を進む『彼』を…



 母親のような慈愛で、救ってくれたのだろうか?


 

 (それなら、納得だ)



 発売される予定もなくなったサード。その内容が、少しネットに流れたのは、初めから『そう』と決まっていたから。


 ファーストもセカンドも、ただサードに向けての布石だったのかもしれない。


 (そうか。だから…。噂は所詮、噂だけど。



  立ち消えてしまったサードの主人公は教会に所属している黒髪の『姫』だった…)




 『姫』という存在がゲーム上で出てきたのは、本当に少しだった。会話の流れで、『教会に行って『姫』に治療してもらおう』とか『いくら『姫』でも死者は治療できない』とか。最初に会話に出てきたときは、『姫』?という感じだった。妙に説明臭く、サポートキャラがたらたらと話してくれたのを覚えている。


 『知っているよね?『姫』っていうのは、教会に所属している治癒ができる女性でね…』


 いきなり始まった『姫』の説明。知ってるよね?とかいいながら、妙に細かく説明された。それに、ファンブックでも、本作に出てきもしない『姫』という役職の説明文は、明らかに異質だった。


 正直、その設定、いる?という疑問しか沸かなかった。


 (確かに、犯人に切りつけられた攻略対象が、『姫』に治療してもらって、帰ってきたら怪我がなくなっていた、ということはあるにはあった)


 だけど、それは別に治癒魔法がある世界という設定にしておけばいい話だ。


 (あとは、ヒロインが持っている!というよくある設定とかね)


 全てがサードに繋がるための話だとしたら…?


 (あれ?私はどうして、ここがゲームの世界として考えているの?)


 フィアレインは一度、ここがゲームに似た世界と結論を出した。なのに、どうして、私はゲームの世界と思っているの?


 (思考が…誘導されている?)


 そう言えば。



 どうして、私は疑問にも思わない?


 どうして、私は前世での『死』を考えなかった?


 どうして、フィアレインらしくいることにした?


 どうして…?



 冷静なフィアレインが思考を変化させていると気が付いていたのに…。何も思わなかった。


 どこからどこまでが、私の意思だった?


 シャルドを飼いならすことにしたのも、本当に私の意思だった?


 リューナを利用しようとしたのも?


 アランと面識を得ようとしたのは?



 これは、本当に『私』の考えだった?






 (混乱する。冷静なフィアレイン。そう思っていた。実際、そうなんだろうけど。


  何もかもをまるで、他人事のように捉えて、どんなことが起こっても、パニックさえも起こさない。だけど、『私』という前世を、ただ傍観しているわけがない。


  自分の中に生まれた、異物を、そのままにしておくわけがない。



  では、これは、本当に…)




 止まってしまった足を再び前に進める。こつこつと靴音が響く。



「熟考することが悪いとは言わないが、感心はしないな」



 にぃと口端が上がる。楽しそうな口調とは裏腹に、眼は少しも笑っていない。



「思い出させはしない。お前はただ、おもしろい物語を描くためだけの存在だから」



 建物の前で、ふっと気付く。



 (あれ?私は何を…?




  今、私は何を考えていたっけ?)

 



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