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さん 32にんめ?! ~シャルド~

 従者候補、シャルド登場です。

 僕の名前はシャルド・デュレと言います。


 3ヶ月前、孤児院にいた僕は貴族の旦那様に拾っていただきました。


 旦那様は、自分の変わり者すぎる息子の従者を捜されていたそうです。なぜ、孤児の僕なのかは旦那様からは教えていただけませんでした。ですが、理由は僕に教育をしてくれている執事のリレイさんの話と使用人さんたちの話しでなんとなくわかりました。


 僕が仕えることになる、フィアレインさまが原因のようです。


 フィアレインさまは、旦那様が手を焼くなんてものでは生易しいくらいの問題児だそうです。旦那様は会話も成立しないご自分の御子をどう扱えばいいのか分からないようなのです。


 従者に選ばれたのは最初は貴族の御子息に始まり、騎士の息子、商人の息子、平民の息子…僕でなんと32人目。


 …正直、その人数を聞いた時と「…お前、動物の死体は平気か?」と旦那様に聞かれた時…逃げたくなりました。


 普通の感性なら当然ですよね?


 どこの世界に、息子の従者になろうかという10歳の子どもに、「死体が平気か?」と聞く親がいるんでしょう?逃げるようなところもないくせに、思わず後退りました。現実にはリレイさんに後ろから肩を掴まれ、それ以上は逃げられませんでしたが…。


 それでも、僕は他に行くところがないので、ここにいるしかありません。恐らく、孤児の僕になった理由がそれなのだと思います。どんな者も3日と持たないのなら、孤児の中でも厳しい人生を送って来た者を拾い、試してみようということなのだと思います。孤児なら、他に行くところもないから、死ぬ気でなんとかするだろう、と…。


 最初の2ヶ月は従者になるための勉強をしていました。本当は一番最初のここに来たばかりの時、旦那様はフィアレインさまに会わせようとしたのですが、フィアレインさまは部屋から出てこられませんでした。


 地下のフィアレインさまの部屋には鍵がないのに、何故か扉が開かないのです。

 ノックしてもまったく反応なしです。生きているとは思う、と旦那様がおっしゃっていました。あいさつもできていません。


 つまり、今日まで、一度も会っていないのです。


 それでも、毎日お部屋の前にお食事をお持ちしていました。毎日三回欠かさず置いているそうです。今も、お部屋の前にお食事を置くために地下に降りようと思っていました。


 すると、地下の階段から、ひょっこりと出てくる人影が…。


 え…?子ども…。


 もしかして…。


「…フィアレインさま?」


 名前を呟くと、その子どもはゆっくりとこちらを振り向きます。


「…っ!」


 あまりの綺麗なお顔に言葉を失います。なんて、なんて綺麗な…!!


 宝石のようなオッドアイの瞳。白い肌。幼いながらも整い過ぎたお顔。


「…お前は?」


 ぼそっと呟くような小さな声。聞き逃しそうなほどに小さい声なのに、頭にしみ込むように響きます。


「わ…私は、シャルド・デュレと申します!この度、フィアレインさまの従者をさせていただくことになりました!」


 勢いよく頭を下げようとして、手に持っているお盆の存在に思いとどまり、少しだけ頭を下げます。


「…うるさい」


 ぼそっと言われて、しまった!と思いました。


 うるさいのが嫌いで、よく喋る人が嫌い。子どもも動物も嫌いで臭くてうるさい女性も嫌い。


 そう言われていたのに、どうして僕は…!!焦ってしまったとはいえ!


 頭を下げたまま、泣きそうな僕を無視して、フィアレインさまは中庭の方に歩いていきます。


 すたすたと歩いていくフィアレインさまの後を追いかけます。



 小さな中庭には花が植えてあります。


 あの花畑は、メイド長のセレナさんが丹精込めて育てている…。そう思い、フィアレインさまの方を見ると、フィアレインさまはそのまますたすたと花畑に向かいます。



 ぶち!ぶち!!



 僕は唖然としました。


 え?え…?


 目の前で綺麗に咲き誇っていた花がブチブチと花の部分だけむしり取られていきます。


 あんなに…!あんなにセレナさんが心を込めてお世話をしていた花を!!


「…や!!やめてください!!」


 僕は思わず怒鳴ります。


 フィアレインさまは手を止め、こちらを振り向きます。


「…うるさい」


 またうるさくしてしまった!でも、それでも…!!


「その花は…セレナさんが丹精込めて育てているお花です!やめてください!!」


「……」


 じろりと感情のこもっていない眼で見られて、思わずたじろぎます。


 同い年…同い年と旦那様はおっしゃっていた。本当に?この冷たい…体温を感じさせない、この眼は…?


 フィアレインさまは、むしり取った花の部分を着ていたローブのポケットに入れて、さっさと歩いて、僕の隣りを通り過ぎていきます。


 僕は茫然と地下に降りていくフィアレインさまを見送ってしまいました。




 その日の夜、たぶんうるさい僕がいない間に、フィアレインさまは花を全部むしり取っていったようでした。次の日の朝には、花が一つも残っていない花畑が茎だけを残して風に揺れていました。


 

「…仕方ないわ…」


 寂しそうに笑うセレナさんを見て、僕は怒りが収まりませんでした。だって、セレナさんを含め、この屋敷の人たちは孤児である僕にまで優しくしてくれる…。そんな人たちを困らせるなんて…!!



 従者として雇われた身だけれど、一度しか会っていないフィアレインさまより、僕の中では使用人仲間である他の方たちの方が大切だと思いました。


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