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にじゅうさん いや、ツンドラだ!!

『貴様は阿呆か?』


『バカ女。貴様の正気を疑うな』


『本当に魔力以外に価値のない女だな』


『せいぜい、殿下の盾にでもなってろ』




 記憶にある中の『シャルド・デュレ』という少年。


 かつて、クーデレ設定という彼を見ながら、何度となく打ちのめされた。なぜ?なぜって?!


 あれはもはや、クールなんてものじゃない!ツンデレ!いや、ツンドラだ!!


 デレはどこへ行った?!と言うくらいに、デレの割合がはっきり言って少なすぎる!!一年設定の物語の中に、デレは数回…。口調も態度も、とてもではないが気になる女の子にするものじゃないんだよ!


 無視、罵倒、見下し、女の子を平気で盾にする鬼畜っぷり。いったい、制作陣はあれのどこに『クール』を見出したんだ?!鬼だ!鬼がいらっしゃる…!


 あまりのきつさに、つい攻略サイトを見てしまった。攻略に失敗すると、ツンドラが降臨するらしい、と知った。多数の死亡ルートがあるのもシャルドのルートだった。失敗すると、殺人犯の盾にされるか、冤罪をかけられてストーリーの半ばで主人公退場。バッドエンドのオンパレード。失敗の率が高すぎるのも、問題だった。


 (どう考えても、シャルドが一番難易度高かった!王子の方が楽だったし!!でも、何故か公式ファンブックでは難易度は王子の次…)


 ゲームの中なら許されるかもしれないが、現実問題、あの性格は喧嘩を売っているとしか思えない。あれを攻略のために肯定するのは、ドMじゃないと無理だ!!


 (将来、あれになるのに、今の暑苦しい性格はないでしょ―――!!)


 そう考えると、あのツンドラは…。


 


 とか、現実逃避はそろそろやめよう。


 取りあえず、この眼の前の状態をなんとかしなくては…。


 あぁ、でも、一言言ってもいいですか?



 (めんどくせぇぇぇ―――――――――――!!!!!)



 帰ってもいいですか?真剣に!



 現在の状況を説明するなら、目の前には日本人的最大級の謝罪方法で頭を下げる従者。


 (そう!!DO・GE・ZA☆)


 面倒くささしか感じない今日この頃…。


 というか、一体なにが起こってどういう事態でこんなことになっているのか、さっぱり見当もつかない。


「…おい」


 おっと!思っていたよりも低い声が出ちまったぜ。


 土下座体勢のまま、びくりと身体を震えさせるシャルドにため息も漏れるってもんだよ。


「…なんのまねだ?」


「俺…謝らなきゃって…」


 いや、わかってるって!それ(土下座)が謝罪以外の意味を持っていたら逆に驚くよ!!選択肢としては…


 ①謝罪

 ②おっと、コンタクトを落としちまった!!

 ③……靴を舐める…とか?


 切実に一番しか希望しない。


「…なにをだ?」


「俺…教会に行ってきたんだ。その…リレイさまが、『姫』の導きがあるって言うから…」


 敬語が外れてますよ?これがシャルドの素か。


「…」


「それで…」


「…取りあえず、入れ!無防備にここにいるのは避けたい」


 特に、はね。



 あの人物・・が近くに居ると思うと…どう考えても、ここにいることがいいとは思えない。


 (誰なのかは知らないけど…子どものフィアレインが勝てるかどうかは微妙すぎる!!ハイスペックなフィアレインが勝てる見込みを算出できないなんて!!)



 そう…。勝てないかもしれない人物が…今、この屋敷の中にいる…。




 


 

 シャルドが地下の部屋の前をどんどんどんどんとめちゃくちゃにノックをして、扉を開けた瞬間、目の前で土下座をかましてくれる少し前の話だ。


 この扉の前に、とある・・・男が来ていた。


 眼を覚まして、ソファから起き上がった瞬間、軽いノックの後、静かな、落ち着いた声が地下に響いた。


「坊ちゃま、お茶をお持ちしました」


 聞いたことのない男の声に、思わず息を飲んだ。感情を感じさせない淡々とした声に、意味の分からない恐怖を感じた。


「…そこに、置いていけ」


 動揺は飲み込んで震えそうになる声を抑えて、できる限りいつも通りの声を出す。一瞬早くなった心臓も、あっという間に収まり、冷静な思考が戻ってくる。立ち上がろうとして思いとどまる。恐らくソファから動けば、気配で警戒を悟られる。現に、起き上がった瞬間に声をかけてきた。扉の前で気配を感じさせずに部屋の中の様子を見ていたのだろう。だから、ここは動けない。


 声の高低からすると、年齢は20代前半。身長は180cm弱。


「かしこまりました」


 言葉遣いに違和感がない。よほど訓練されているのか?そして、恐らく声に殺気を含ませている。この声を聞くと、全身に緊張がはしる。男の正体に思考をフル回転させながら、そっと寝る前に持っていた真っ黒い本を抱える。


 (!!?)


 無意識の行動にはっとした。なぜ、私はこの本を大事に抱えたのだろう?


 そう考えた瞬間、扉の前の気配が動いた。ゆっくりと遠ざかっていく。





 しばらくして、ほっと息を吐き出す。


 (プロっぽいなぁ。ストーカー女を遠くに出したのは失敗だったかな?)


 彼女は私が知りたいと呟いた情報はめちゃくちゃ細かく探ってくる。欲しいと呟いた本はどんなに希少な本でも持ってくる。彼女なら、何か動きがあったかを知らせてくれるだろうに…。


 設定では、リューナ・アブヒラドールは商家の生まれだ。ゲームでは普通の商家としか出ていなかったが、ストーカー女の探ってくる情報は、少し異常なものも含まれている。例えば、一つの殺人事件が起こり、その犯人や殺害方法、動機までは許容範囲だろう。新聞にも載っていることだ。だけど、さすがに犯人の家庭環境、犯行前の大体の行動、捕縛に関わった人間、周囲の評価とかを見た時は、マスコミか!?と私だったらツッコミを入れていただろうし(フィアレインはスルーした)、犯人が自白していない余罪、警吏も知らない凶器の在処まで付いていた時は私だったら背筋が凍っていたかもしれない(フィアレインは以下略)。


 これで、普通の商家です。と言い張られたら、苦笑いするしかない。


 (だから、あれはリューナじゃないと考えているんだけど…)


 そう思いたいだけかもしれない。私はあれが『リューナ・アブヒラドール』ではないと思いたい。だって、あれがもし『リューナ・アブヒラドール』であるなら、私は彼女を使うことが怖くなる。


 考えが逸れたな。扉に近づき、気配を探る。もしも、その道の人間なら気配を悟らせることはないだろう。遠ざかっていったのも演技かもしれない。


 そう疑いをもつと、目の前の扉を開けることは、途方もない恐怖だった。







 



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