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じゅうきゅう 『いやしひめ』 ~シャルド~

「母上を…『真珠姫』を貶めることだけは、絶対に許さない」


 そう恐い眼で睨まれて、震えるような声で言われて、僕ははっとしました。母親を、疑われて、怒らない人間なんているわけがない!しかも、僕は旦那様もフィアレイン様が自分の御子であるかを疑っていると、言ってしまった。親から自分の子どもかどうかを疑われるなんて、ショックを受けないわけがないのに…!


 僕は…なんてことを…!


 後悔して、口を開こうとした僕は、目の前で僕を睨むフィアレイン様の怒りに何も言えなくなってしまいました。そのまま、蛇に睨まれた蛙のように僕は動くことができません。


「…もういい。帰れ」


 そう言われて、僕の身体はようやく動かせました。僕は…。





 落ち込んでいた僕にセレナさんは「大丈夫よ」と言って頭を撫でてくれます。


「でも、お部屋に入ることができたなんて、シャルドくんは信用されてきたのかしら?どんなお話をしたの?」


「はい、あの…」


 お部屋でフィアレイン様とした話をしようとして、僕は思い出してしまいました。


『覚えておけ、シャルド。この家は、お前が思うよりも貴族の中の貴族だよ。どんなふうに見えているのかは分からないが、語られる言葉を全て信じすぎるな。まず疑え!その裏にあるものを探れ!眼を閉じるな!視線、臭い、態度、口調、何でもいい。何もかもを自分の持てるすべてを以て、感じろ』


 疑う…?この人たちを?


 にこにこと笑うセレナさんと他のメイドさんたち。今は休憩室でお茶を飲みながら、話をしている所でした。


「どうかしたの?」


「いえ…。何でもないです」


「そう?どんなお話をしたのかしら?」


 セレナさんが優しげに言う言葉に、僕は違和感を感じていました。あれ…?何だろう?


「どうして知りたいんですか?」


 そう言った瞬間、じっとセレナさんの後ろにいたメイドを見ていたからこそ気付きました。何人かいるメイドの数人が一瞬、僕を見下すような眼をして、すぐに笑顔に塗り替えました。見ていなければ、一瞬の変化に気が付くことはなかったでしょう。


「私たちもフィアレイン様のことを知りたいのよ。あまり出歩かれる方でもないでしょう?」


 僕はぞっとしました。優しいと思っていたメイドさん。数人だったけれど、僕は見下されている?


「どうかした?シャルドくん」


 セレナさんは?…セレナさんも?リレイさんも?奥様も?旦那様も?


 みんなは、この屋敷の人たちは…どんな眼で僕を見ていた?思い出せない…。


 僕は、眼を背けていた?蔑まれていたのに、それを見ないように…上っ面の言葉だけを信じていた?


「…すいません。セレナさん…少し、気分が悪いので…。外の空気を吸ってきます」


 それだけ言うと、僕は休憩室を出ました。足音を響かせて遠ざかるフリをして、そっと扉に耳を傾けます。




「なあに、あの子。たかが孤児のくせに!」


「声が大きいわよ!」


「だいじょうぶよ。足音が聞こえたもの」


「でも、いいのですか?セレナさま。あんな子に調子に乗らせて」


「いいのよ。奥様からはそう命じられているもの。あの子を懐柔するには、今まで優しくされてこなかった分、思いっきり優しくして甘やかせば簡単だわ」


 セレナさんの声が聞こえた時、僕はそっと扉から離れて足音を忍ばせて遠ざかりました。



 心臓が、うるさいほど騒ぐ。僕は…、僕は…。



 聞きたくなかった、悪意に満ちている言葉。孤児院にいるときは人の裏側まで見ていたのに、ここに来てから、僕はなにも見えていなかった…。見ていなかった…。


 しばらくぼんやりと歩いていると、前からリレイさんが歩いてきました。


「リレイさま」


「シャルド。ちょうど良かった。これを坊っちゃんに渡してください」


 持っていた手紙を僕に渡します。


「…はい」


「?どうかしましたか?」


 不思議そうなリレイさん。


「あの…リレイさまは、フィアレイン様のことをどう思っているのですか?」


 つい聞いてしまった言葉に、僕はすぐに後悔しました。聞くべきではなかった!そう思いましたが、一旦出た言葉を取り戻すことはできません。


「どう…ですか。そうですね…」


 答えてくれようとしているリレイさんをじっと見つめてしまいます。さっきのように何か違和感を感じられたらと、見つめます。


「あなたはどう思っているのですか?」


 逆に聞き返されてしまいました。


「僕は…」


 答えられませんでした。どう思っているかを聞かれて、答えずに逆に聞き返されたことで、僕はリレイさんがフィアレイン様の味方ではないと…そう思ってしまいました。

 答えに迷っている僕に、リレイさんは一つだけ答えてくれました。



「迷ったら、教会に行きなさい。きっと『姫』が導いてくださいます」



 『姫』…?教会の『癒し姫』でしょうか?

 教会は大昔から、『姫』と呼ばれる存在を神の使いとして崇めてきました。『姫』とは、『癒し』という奇跡の力を持つ女性の名前です。傷を癒し、病を治し、心を平穏に導く、奇跡の姫。そんな『姫』は人数が少ないのですが、一人一人に呼名が付けられています。僕が知っているのは『橙姫』『氷姫』『太陽姫』でしょうか?孤児院にも何度か来てくれていました。



 あれ…?『姫』…?なんでしょう?何か引っかかります。




『母上を…『真珠姫』を貶めることだけは、絶対に許さない』




 !!?あっ…!!



シャルドが単純すぎる…。

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