じゅうはち おこっている!!
(待ち伏せターイム!!)
昼食の時間間近になって、シャルドを扉の前で待ち伏せしてみました!かちゃかちゃと食器を落とさないように慎重に暗い廊下を歩いてくるシャルド。当然、私の姿には気が付いない。
というか、かなり間近になってようやく気が付いて、ぽかん顔!ドッキリ大成功!その顔!その顔が見たかった!!ちゃっちゃら―!!
茫然としたシャルドをさっさと促して、中に連れ込み…ごほん!入ってもらう。
入ったところで再びのぽかん顔。…うん。言いたいことは分かる。きっと、部屋きったねぇぇぇ!!とかだろうね。思いっきり固まってるよ。
「座れるものならそこに座れ」
まぁ、座れないだろうね。戸惑いが顔に出ているよ。
(え?ここに座るの?!みたいな顔は止めて!!)
ソファの前で立ち尽くすシャルドは恐る恐る私の方を振り向く。
「あの…フィアレイン様…?なにか…ご用なのですか?」
おかしいな。私はドSじゃなかったはずなのに…。
(びくびくされるとちょっと楽しくなっちゃうじゃないか!!これはきっとフィアレインのせい!うん、きっとそう!)
「あぁ、今朝は来なかったな?どうしてだ?」
ド直球で聞くと、シャルドの視線が泳ぎまくる。なんて素直な反応…。
(フィアレイン、こういう所見習った方がいいんじゃないの?子どもらしさは武器ですよ?)
「昨日、『奥様』に呼ばれただろう?何を聞かされた?」
そうして話をきいたわけだけど、驚きすぎて嘘も何も閃かないのかね?すなお~に昨日のことをしどろもどろに話してくれちゃうよ。フィアレインに怒鳴るあの熱さはどこに消えたのかね~?
(いやいや!これは、速攻で毒蛇に絡み取られるくらいに素直すぎるでしょ?!)
「それで?」
「そ…れで…」
言いにくそうにもじもじし始めたシャルドを不審に思い、続きを促すと、ぎゅっと拳を握りしめる。
(ん?なんだ?)
「フィアレイン様…は…旦那様の御子ではない…と」
…く!
「くっ!ふふ…は…はは」
急に笑い出した私にシャルドはぎょっとしている。あぁ、だけど!おもしろくて仕方がない!まさか、そんなことを考えているとは…。ちょっと予測よりも面白いことをしてくれる!
「あぁ、悪い!くく…。それで?」
「あ…の。フィアレイン様は…旦那様にも前の奥様にも似ていないと…」
そうか、髪と眼の色か。
フィアレインは黒い髪、右が燃えるように紅い瞳、左が清んだ空色の瞳のオッドアイ。父親は青い髪、緑の瞳。母親は真珠色の髪、空色の瞳。確かに色自体は父親の要素がどこにもない。
(でも、それは仕方がないんだよね~)
「なるほど!それを父上も信じているというわけか。通りで、あの名前を付けるわけだ。普通なら有り得ない」
「え…?」
シャルドは意味が分からないのか首を傾げる。だけど、説明はしてやらない。座っているシャルドと目線を合わせるために少し前にかがむ。
「なぁ、シャルド。お前はそれを信じたのか?私は父上の子ではないと?疑問にも思わず信じたのか?この家の人間はお前にとってどう映る?」
シャルドは私の眼を見つめたまま、眼を見開いて固まっている。
「優しい?親切?差別をしない?まるで家族のように扱ってくれる?」
ふっと笑うと、戸惑ったような表情をする。
「覚えておけ、シャルド。この家は、お前が思うよりも貴族の中の貴族だよ。どんなふうに見えているのかは分からないが、語られる言葉を全て信じすぎるな。まず疑え!その裏にあるものを探れ!眼を閉じるな!視線、臭い、態度、口調、何でもいい。何もかもを自分の持てるすべてを以て、感じろ」
「…あなたは…あんなに優しい人たちを…信じてないのか?」
私の言葉を聞いていたシャルドがぎっと私を睨んで怒りを込めた口調で話す。怒りで握りしめた拳が震えている。
そんなシャルドを見て、少し眼を細める。
(…飼いならされ過ぎてる――――!!ここから、どうやったら信望者にできるの―――??それとも、やっぱりゲーム上では信望者ではないのか?!でもでも!だったらどうして捨て駒くんの暴露の時に反応しなかったのか…謎だ…。あぁ!わからない!!)
「お前が信じたいのなら、それでもいい。だが、私が彼らを疑う理由をお前自身が探るんだな」
「あなたは…!!」
シャルドが勢いのまま立ち上がる。
「あなたは…旦那様の子ではないかもしれないのに…!!」
「あぁ、そうだ。一つ言っておこう、シャルド」
立ち上がったシャルドににっこりと笑う。
「私はね、自分が何を言われようと何も感じない。狂っている。頭がおかしい。どうしようもない子ども。何を言おうが笑顔で聞き流す程度にはどうでもいいことだ。だがな…」
すっと眼を細めて、睨むようにシャルドを見る。びくりと震えるシャルド。だめだ!抑えられない!
(フィアレインが怒っている!!)
ちりちりと胸が焼けるような怒りが沸き起こる。何も知らない人間に、『真珠姫』を馬鹿にされる謂れはない!寄りにもよって、母上が不義を働いたと…。そんな偽りを許容できるほど、私は優しくもない。
「母上を…『真珠姫』を貶めることだけは、絶対に許さない」




