そして終わった俺の何か
眩い金の髪に美しい青の瞳。絵本から出てきた王子様そのものだと囁かれる、公爵家の次期跡取り、グランリー・レッチェオール。この学園の生徒会長で、王族とも親交がある上位貴族にあたいする。
そんなグランリーが心寄せるのが、マドルサ伯爵の一人娘、リア。
ふわりとした桃色の髪に、同色の瞳。愛らしいその容姿は学園内でも密かに騒ぎ立てられている。
なにせ会長だけでなく、他の生徒会役員も彼女に夢中なのだから、生徒から注目されるのも無理はない。
よって現在、この学園はちょっとしたプチ騒動が起きているのだ。
「と、言うわけなんだよムトくん!!皆が彼女を取り合っているんだよムトくん!!」
入学してから早くも一週間。ヒエの威嚇にもめげない俺の前席の変人くんは、今日も熱く語りかけてくる。
その内容はほぼ、全て、必ず、リアちゃんに関することで。
飽きる。てか、正直飽きた。別に誰が誰を取り合おうとどうでもいい。逆ハーレムに興味なんぞない。それが乙女ゲーム的な展開になっていようと、俺は知ったこっちゃない。
「ムトくんもそのうち目を付けられちゃうかもね、格好いいし!」
お前が言うか。それをお前が言うのか。俺の眼光の鋭さに比べりゃ、お前の方がずっと近寄りやすいぞ。このチャラ男め。別に羨ましくなんかねえし。
「確かにリアちゃんは可愛いけどさ、俺的にはないわー。何て言うの?裏がありそうな感じがどうもねえ」
勝手に考察を始めた変人くん。あのさ、一応今授業中なんだけど。ほら、先生がこっちプルプルしながら睨みつけてるから!
「前、向けば?」
「やだ寂しい」
きめぇ。こいつきめぇよ。なんだその首コテン。ヒエの方がずっと可愛いわ。
どうもこいつ・・ハウロくんは勉強が嫌いなようで、こうして俺に毎回話題を振ってくる。お陰で俺も晴れて問題児入りである。
あいつ授業聞かないくせに頭いいからむかつくみたいな。
先生から言われた。そーいうのは本人の知らないとこで愚痴れよほんと。俺が傷付くじゃん。
「ね、これが終わったらリアちゃんの教室見に行かない?」
「行かない」
「えー、なあんで?行こうよ、面白そうじゃん!」
ブーブーブーブーうるっせえ。ハウロくん、行きたきゃ一人で行きなよ。
俺、予感がするんだ。リアちゃんに会ったら何かのフラグが立ちそうな予感がするんだ。
それってほら、いくら避けても結局は降りかかるんだろうけどさ、少しの間くらい足掻いたっていいじゃないか。
ハウロくんを威嚇するヒエの背中を撫でる。ちゃっかり机に座っちゃってるとこが、こいつらしいよね。いつ触ってもモフモフ。ああ、癒されるわ。
「・・・ムトくんってさ、本当にその狼のこと好きだよね」
「は?」
「だって、その子を触ってるときだけ、すこーし笑うんだもん」
まじか、自分じゃ気付かなかった。
ヒエを見る。目があった。でも逸らされた。
が、尻尾が左右にパタパタと揺れている。照れは隠せても嬉しさを隠しきれないそんなヒエが俺は大好きだ超可愛い!!
たまらずヒエをぎゅっと抱きしめる。もう俺の頭の中はヒエで一杯だ。ハウロくんなんて知らん。
そんなことをしてる内に授業は終了。昼休みになった。
もう食堂に行く気にはなれないから、部屋に帰って何か作ろう。で、ヒエと一緒にお昼寝タイムだ。
そうと決まれば即実行と、俺はヒエを抱っこしたまま立ち上がって教室を出る。
・・・いや、出ようとしたんだ。けどそこには予想外の人がいて。
「ムト、という一年生は君か?」
ちょっとリアちゃん何でグランリーくんがこんなとこにいるのかな。ちゃんと傍らに引っ付けておかなきゃ駄目でしょ。
「・・そうですけど」
すまないがついて来てくれと言われた瞬間、思った。
あ、これ終わったわ。
ヒエくんは、暴れたら学園から追い出すという校則を怖がって、ムトくんに絡む人をぶちのめすのを、我慢しています。
なので全力で威嚇します。
噛みついたりはしません。校則云々の前に人間か大嫌いだから触るの拒否って感じです。