何かが始まった
世の中にはワザと問題を起こす人と、意図せずして問題を起こしてしまう人がいる。
今俺の身に起きたハプニングは後者であって、好きでこんな注目を集めているわけじゃない。
なんで静まり返るんだ。なんでこっち見てんだ。ちょっと扉を乱暴に開けちまっただけでしょーが。
「うぜえ」
俺が呟いたそれをきっかけに食堂がまた騒がしくなった。一体何だったんだよ。
とりあえず飯を食わねばと空いてる席に座る。したらそこにタッチパネルみたいなのがあって、どうやらこれでメニューを注文するらしい。周りは皆それをピッピ操作してる。あ、ペット連れてるやついた。良かった、オッケイみたいだ。
俺はシチューを選んで、ヒエは肉にしといた。他の奴らは分からないけど、特待生の俺は学食も無料なのである。万歳。
何となく上を見上げればそこにはドデカいシャンデリアが。
「・・・・有り得ねえ」
俺の常識はもはや通用しないのか。そうなのか。
「お待たせ致しました。ご注文の品です」
まださほど時間も経っていないが、ウェイターさんが料理を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「っ!、いえ」
おお、綺麗なおねーさんだ。眼福眼福。・・ごめんヒエお願いだから俺の足ガジガジしないで。俺が悪かったから。せっかくのかっこいい制服が唾液でべっちょべちょになってるから。そんな悲惨な目に遭いながらも無表情を保つ俺の精神力を誰か褒めてくれ。
・・・無理だろうな。俺友達いねえし。はは。
黙々とシチューを口に運ぶ。ヤヴァイこれ美味い。
下手なレストランよりも美味い。
こんなのがタダで食べれるなんて特待生様々だな。頑張って勉強してよかった。
「あ、あの!隣の席、よろしいですか?!」
ん?、とスプーンを口に入れたまま声の主を見れば顔を真っ赤にした可愛らしい女の子が立っていた。
隣って、俺の隣だよな。別に誰もいないし、わざわざ俺に許可を貰うまでもないだろうに。
どうぞと言おうとしたらヒエが隣の席にぴょん。飛び乗った。
ガルルグルルと女の子を威嚇している。ちょ、なんでご乱心なんだよコイツ。てか、その席女の子が座ろうとしたとこじゃん。それを威嚇ってお前、座んなってことか。
ヒエにビビってる女の子に心の中で謝った。これでも普段はほんといい奴なんだけどな。人間嫌いだからしょうがないと言えばしょうがないか。
「他の所に行ってくれないか」
「は、はいっ!すみませんでした!」
いやなんかこちらこそサーセン。
女の子が早足で離れて行く。したらヒエが唸るのを止めて毛繕いを始めた。
どんだけマイペースなのお前。
ちょっと呆れながらそれを眺めていると一段と食堂が騒がしくなった。
なんだなんだどうしたと食堂を見渡してみれば入り口に視線が集まっていることに気付く。
そこには遠目からでも分かるくらいにキラキラなオーラを振りまいている少年がいた。
あれってあれじゃん。入学式で在校生代表だったあの偉そうな奴じゃん。
俺の時は静まり返ったのにあいつの場合はざわめき立つのか。これが凡人とそうでない奴との差か。別にいいもん俺凡人で。あ、でも記憶力とかは天才的だった。
キラキラ少年は周りを一瞥もすることなく、生徒会専用と案内板が飾られている二階のフロアへ上がって行こうとして・・足を止めた。
そいつが見つめる先には桃色の髪をした女の子。
うわ、さっきヒエが威嚇した子じゃん。
その女の子に近づいて行くキラキラ少年。次第に静かになる食堂。張り詰める緊張感。
「リア」
満面の笑みで女の子の名前であろうそれをあっまい声で囁いた少年は、そのまま女の子・・リアちゃんを抱き寄せた。
途端に食堂は絶叫の嵐。特に女子の悲鳴が酷い。今なら声だけでグラスを割れるんじゃないだろうか。
男子達は迷惑そうに顔をしかめている。
つーか、これなに。乙女ゲームの始まりみたいなこの展開はなに。
「・・・部屋に帰ろうか、ヒエ」
なんだかとても疲れたよ。