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俺とヤンデレ家族






俺的にこの世界は権力支配の傾向が強いと思う。地位のある奴は偉そうにふんぞり返り、一般人はひっそりと厄介事に巻き込まれないよう生活をする。が、中にはぎらつく瞳の奥に隠しきれない野望の炎を揺らめかせている危険な輩もいる。

治安が悪い訳ではない。むしろ平和な方だ。しかし、だからこそ血に飢えた獣が己の渇きを満たすために獲物を求められたらふらつくのだろう。

平和な国ほど裏は下劣で残酷な暗い世界なのだから。

ちょーコワイ。


なーんて現実逃避なう。

だって俺の目の前に柄の悪いゴリラが三匹……失礼、男の人が三人いるんだもん。

ヒエと日用品を買いに街へきてみればこれだ。ちょっと待ってろと言われたから素直に店の前で待ってるだけなのにどうして起こるハプニング。

おいこら、じろじろ見るくらいなら助けろやコノヤロー野次馬共め。


「テメエ!!」

「っ・・」

なんか胸倉を掴まれた。わー。

「聞いてんのかクソガキ!さっさと金寄越せって言ってんだよ!!」

そんな叫ばないでくれよ顔に唾が飛ぶじゃねえか。つか、子供に金たかるとかこいつら阿呆じゃねえの。おらぁ中身は立派な大人だぞ舐めんなバッキャロー。

「俺、金ない」

あんま他人と喋りたくないんだよなあ、ヒエが超不機嫌になるから。俺の許可なしに口きいてんじゃねえよって怒られる。めちゃ怒られる。バレるわけねぇよなと見てないとこで喋ってもあら不思議、速攻でバレる。恐怖を通り越して呆れるしかない。


けど俺にとってヒエは命の恩人で、あいつがいなきゃ赤ん坊のまま森ん中で死んでたと思う、間違いなく。

だからヒエに、お前の命は俺のもんだとか、俺から離れたら殺してやるとかいわれも特に拒否の意思は沸いてこない。ヒエに拾われた命だ。あいつのために生きるのも悪くない。かといって、度が過ぎた執着はどうしたもんかと思う。あれもうヤンデレだろ。おっかしいな、最初は普通だったのに。甘やかし過ぎたんだろうか。何をやらかしたんだ、俺。


とか色々思っているうちに俺の胸倉を掴んでた奴がもう片方の腕を大きく振り上げた。

やべーこれ殴られるパターンじゃん。

でもそう易々と殴られてたまるか。痛いのは嫌いなんだよ。


「先に手ェだしたの、あんたらの方だから」


これ正当防衛ね、と心の中で呟いて俺は渾身の力で男の鳩尾にパンチを見舞いした。

しかし子供の力なんてたかが知れてる。魔法を使えば話は別だがこんな街中でそんな目立つことをやってみろ、絶対何かのフラグが立つ。んで結果的に主人公は君だみたいな展開になるに違いない。

そんなのは御免だ。

俺の反撃が予想外だったのか男の体勢が崩れ、力が緩んだ。他の仲間二人が反応する前に、急いで店の中に入る。

カランコロンと鈴が鳴り、カウンターにいた店主と、その人と話し込んでる青年・・ヒエが此方に視線を寄越した。

切れ長の鋭い目が見開かれ、エメラルドに俺の姿が映る。次いで俺の後ろから流れ込むように店内に入ってきた男達を見ると、ヒエの雰囲気がガラリと変わり、心無しか短い銀の髪が逆立ったように見えた。

「ヒエ!あいつらが──」

俺の財布を狙ってる!と伝える前に、ヒエは長い足でそいつらを蹴り飛ばしていた。


「ムトに近づくんじゃねえよ、薄汚ねえクズどもが」


容赦ない、容赦ないよこの狼さん!

なまじ顔が整ってるから怒った時の迫力がやーばい。

しかし誰よりも頼りになる。ヒエはあっという間に三人をけちょんけちょんにして店から追い出すと、俺の方に寄ってきた。膝をついてしゃがみ、互いの目線が近くなる。褐色よりも灰色に近いヒエの手に頬を包まれ、目元をゆるりとなでられた。

「怪我はないか?」

「おー。助けてくれてありがとーな」

ニカリ。笑ってヒエの頭を撫でる。このサラサラ感たまんねえ!

「で、用は終わったんだ?」

「ああ」

「珍しいじゃねえか、ヒエが装飾屋に用事だなんて。何買ったんだ?」

するとヒエは口元を緩めて、おねーサマ方が鼻血ブーしそうな微笑を浮かべた。

「お前に、やりたいモノがある」

どこぞの二次元のような素晴らしい低音ボイスで告げられたらその内容に、俺は首を傾げた。

「ちょっと見せてくんね?」

「・・これだ」

ポケットから取り出されたモノ、首輪。


・・・さてどこからツッこもうか。


「俺が着けるの?」

「そうだ」

「チョーカーを?」

「首輪だ」

「なんで?」

「俺のもんだという証」



ヤンデレ!!!!



「そんなもんなくても俺はお前のだろ」

だって命の恩人だし。

横目で店の主人を見てみれば、顔を真っ赤にしながら呆然と俺らを見ていた。何想像してやがんだと自然に眉間に皺が寄る。ちとこの変態を教育し直してやろう。


「ムト」

「ぶっ!?」

がしり、ヒエに顎を掴まれて強制的に前を向かされた。鼻先が触れ合いそうになる程近くにヒエの顔がある。

しかも超不機嫌。

その眼光だけで魔王も逃げ出すこと間違いなし。

俺は見慣れてるからなんともねえけど。

「あれがどうかしたのか」

“あれ”って店主のことだよな。今更ながらに思うが、俺の口の悪さはヒエの影響によるものなのかもしれない。直す気はさらさらねえけど、余りひでーことを言わないよう気を付けなければ。口は災いの元ってな。余計なことを口走ってあらぬフラグとか立ったら取り返しがつかない。

「どうもしねえよ。少しムカついただけ」

「なら、いい」

何がいいんだよと思わず吹き出しながらヒエの頭をわしゃわしゃ掻き回す。ヒエに関するフラグは別にいいかなと許してるあたり、俺は本当にこいつに甘い。あ、だからヤンデレになっちまったのか。ん?なら原因は俺か?俺のせいなのか?

でも狼は独占欲とか、縄張り意識が強い生き物だし・・。まあ、ヒエがヒエならそれでいいや。

この世界で、たった一人?一匹?の俺の大切な、唯一無二の家族なわけだし。


「これからもよろしい頼む、ヒエ」

「あ?」

いきなりなんだみたいな表情をしていたヒエだったが、ハッと小さく笑うと、俺の頭を優しく撫でてくれた。この大きな手に、俺は一生ついていこうとひっそり誓う。

「ムト、お前は俺のだ」

「おー」

「生きるも死ぬも一緒だ」

「お、おう」

「お前が死んだら俺も死ぬ。俺が死んだら、お前も死ね」

「・・ハイ」



俺の家族は愛が激しすぎる。


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