プロローグ
BLは保険です。直接的な表現はありません、多分。
女として死に、見知らぬファンタジーな世界に男として転生してから早六年。魔法もちちんぷいぷいと使えるようになって、男として生きてやるよと腹をくくったあの日から「あたし」は俺になった。
悔いなんてねえ。だって第三者から見た俺は将来有望なイケメンヤローだからさふはは。ごめんなさい調子に乗りました。
初めて鏡を見たあの時の俺の戸惑い。ガキにあるまじき色気を放つ美少年がそこにいました。なにこれ誰これウソこれとほっぺツンツンしながら受け入れたものさ。
紫がかった艶やかな黒髪。
赤と緑のオッドアイ。
薄紅の唇。
筋の通った鼻。
真っ白い肌。
とまあ、これだけなら美少年よりも美少女があってんじゃねえかと思うが、残念ながら眼光の鋭さで全部ぱあだ。
ちょっと遊んでそうな悪い兄やんとか、そんなかんじになりそうな俺。んでもって色気もレベルアップしそう。なんてマセガキ。
そんな俺が現在住居にしているのが、街の外れにあるでっかい屋敷である。そこで人型になれる素敵な銀の狼と一緒に暮らしている。
名前はヒエン。何でも、赤ん坊の姿で森の茂みにいた俺を拾い、縄張りである廃墟とかしたこの屋敷に連れてきたらしい。らしいと言うのはそん時の記憶が俺にないからである。2歳以降の記憶しか頭ん中にインプットされていないのだ。
ヒエン改めヒエは、大の人間嫌いで余程の事がない限り自分からは関わろうとしない。そんな彼が何故俺を拾い現在進行形で面倒をみているのか。
気になって本人に直接聞いてみたところ、
「ムトは特別だから」
謎が深まった。
これ以上聞いてもどうせはぐらかされるのだろうと思い早々に諦めた。嫌われてる訳じゃねえからまあ、いっか。うん。
ちなみにムトとは俺の名前。名付け親は言わずもがなヒエである。
ふと、この世界に俺のような転生者はどれくらいいるのだろうと考えることがある。いや別にいたとしても何をどうする訳じゃねえけどさ。俺は今まで通り屋敷でヒエとのんびり暮らしていくだけだ。森にいる魔獣と戯れながら。
彼等のあまりの可愛さに萌えに目覚めてしまった俺はもれなく変人の仲間入りだと思う。変態じゃなくて変人。これ大事。
しかし人の生活においてお金は必需品だ。狼であるヒエは野生でも生きていけるからともかく、人間である俺には必要なモノが山ほどある。屋敷に埋もれていた財宝を源に生活しているため今のところ不自由はないが、大人になったら俺も働いて稼いだ方がいいに決まってる。だが異世界人の俺がこの世界の仕事なんて知る由もない。さてどうしようと悩んだ結果、やっぱりヒエに聞いてみることにした。
「余計なことを考えるな。お前は俺の傍にいろ」
つまり野生にかえれと?
なんて冗談を言ったら噛まれた。首を。
流石狼。獣チックなコミュニケーションである。
しかしいきなりは辞めて欲しい。そして噛みつくなら是非とも美人なおねーさんにしてくれ。「あたし」であったらイチコロだろうが今の俺はちっさい男の子である。噛まれて喜ぶ趣味はない。
断じてない。