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吾輩は猫である。名前はないこともない。

作者: ゆき

吾輩は猫である。名前はまだない。



はい。

みなさまこんにちは。

突然ですが転生って信じます?

正直私は信じていませんでした。

ええ、はい。

でした、ということは過去形です。

今は信じています。

というか、あれです。

私前世の記憶があるのです。

いわゆる転生者というやつですね、はい。

私はもともとただの平凡などこにでもいる高校生でした。

まあ、少し……いえ、かなりオタクてしたが。

ま、そんな私でしたがある日私は死にました。

理由は大きな地震。

みごと建物の下で生き埋めになりましたよ。

修学旅行で行った古い旅館は見事に崩れました、ええ。

周りからは泣き叫ぶ声が響き渡ります。

まるで悪夢のようでした。

私は死の恐怖の中願いました。

イケメンよ、今こそ助けたまえ!!と。

…………ええ、はい。

わかっておりますよ、そんなことないということは。

しっかりと死んでしまいましたしね。

でもあの時はそんなことを考えてないと狂ってしまいそうだったんです。

まあ、いろいろあって……なかったから死んだのですが、死んだ私は天使様に会いました。

べつに私が特別という訳ではありませんよ?

死んだらみんな天使様にお会いするそうです。

天使様はおっしゃいました。

転生することになるが何か希望はあるか、と。

話を聞くとどうやらこの質問は死んだ方、みんなにされるそうです。

そして言ったもの全てが叶うのではなく、その者の生前での行いで叶えられる願いの大きさ、数が決まるのだそうです。

私は愕然としました。

やばい、何もしてないぞ、と。

家の手伝いもあまりしてないし、人助けもとくにしていない。

ああ、でもこの間妹に漫画を貸してあげた……て、小さいか。

私は悩みました。

悩んで悩みすぎて天使様に言うだけはただだから言ってみろと呆れた口調で言われました。

だから、私は意を決して言ったのです。

イケメンのそばにいたい、と。

ええ、私はイケメン好きですが、何か?

二次元のイケメン以外愛せないと言って男子に引かれましたけど、何か?

乙ゲー好きですが、何か?

だいたいイケメンを愛でて何がいけないのかと私は思うのです。

私、顔より性格だな~と言う女は馬鹿なんだと思います。

だってお姫さまだっこされても、デブで不潔でブサイクな男にされてもトキメかないでしょう?

不細工な王子様が平民の女の子に恋して結婚しても、それはシンデレラストーリーではなく、あわれな花嫁のお話しでしょう?

そのくせしてイケメンなら基本なんでも許されるのです。

休み時間に勉強してても「きゃーっ、〇〇君て真面目なのね!!」なのに、これが残念な方だと、「●●君?誰それ……ああ、あのがり勉ね」なんだから世知辛い世の中ですね。

まあ、そう思う筆頭は私なんですけどね。

ゲームの中だけですが。

と、この話はいいのです。

話は私の転生のお話ですよね。

なんと驚くことに天使様は私に言われました。

なんだ、そんなこと、と。

そして私の願いを叶えてくださると言ってくれました。

私は天使様に土下座するほど喜びました。

天使様はあまり見ておりませんでしたが……けっ仕事人間め。あ、天使か。

と、あっと言う間に私の転生先は決まりました。

なんと魔法が使われている世界なのだそうです。

時代は私達でいう中世ヨーロッパ。

なんともファンタジーです。

さあ、転生しよう!!と、私が転生受付票を手に持った時、最後にと天使様がおっしゃいました。

天使様やその上司の神様は個人個人に力を与えることは出来ても、その後はどうしようもないと。

つまりどんなに美人に生まれさせようとも、幸せになれるかは自分しだい、だそうです。

私はそれをしっかりと受けとめました。

そして、天使様は頷き姿を消しました。

そして、それから数時間後、私は転生しました。

どうやらここでの記憶はなくなるようです。

受付票を受け取った方が言っていました。

でも、たまに覚えている方もいるそうです。

それは……転生機なるものの不調らしいです、はい。

そして、私は新しい生を手に入れました。



●〇●〇●



「ねえ、リリィ」



その方はまるで雪のように白い肌を私の顔に擦りつけてきます。

金髪碧眼に中性的な美しい顔。

まるでお姫……いえ、王子様のようです。

二次元しか愛せない私でも認めましょう。

彼はイケメンです。

そして、そんな超絶美形に顔をすりすりされる……ま、待ってください!し、死んでしまいます!!破裂です!心臓が粉々になります!!

私は必死に逃げようともがきます。

でも、逃がさないとばかりに彼は私を抱き締める力を強めました。



「だーめだよ。リリィ。君は僕の大切な存在なんだから……逃げるなんて、許さない」



きゃーっ!!死ぬ!!死んでしまう!!

へーるぷみー!!

ぎゃあー何するんですか!?

み、耳を!!く、口に入れた!!?

ひーやー!!

ちょ、ま、や、やだ!

なでないで、そんな!そんなふうにされたら……



「ふふ、気持ちいい?リリィはここが弱いからね」



な、わかってるなら止めてくださいよ!!

も、ほんとに、やだあ……。

わたし…だっ……て!怒るんですよ……!!

私はその与えられた感覚にたえるため彼を睨みました!!

そして抗議の声をあげます。



「にゃーーーお!!」


「はは、リリィ怒った?本当に意地っ張り。でも、好きなんでしょお腹撫でなれるの?」


「みゃ、みゃあ!!みゃあみゃあ!!」

(好きじゃないですー!!)



だが、悲しいかな、私の声は届かない。

いや、正確には言葉か。

なぜなら私は……



「クスクス。やっぱりかわいーなリリィは。さすが僕の猫だね」



そう、私は猫なのである。




●〇●〇●



我輩は猫である。名前はリリィ。



私はこの世界に生まれて知りました。

うまい話には裏がある、と。

私は五人兄弟で生まれました。

猫のお腹から。

それに気づいた時私は叫びました。

のおおおおおお!!と。

まあ、実際はにゃーーーーー!!だったんですけど……泣ける。

ていうかなんで記憶あるんですか。

ああ、あれですか不調ですか。

……………。

ふざけんなあ!!

さて、私が生まれた場所はなんと国一番の魔法使いのお屋敷。

私達はそこで使い魔としての勉強を……いえ、ネズミ取りの勉強をしました。

いえ、勉強ではありませんね。

最初っから実践です。

親猫にいわれるがまま、やらされました。

確かにちょこまか動かれると本能的に体が動いてしまいますので、最初は苦戦しましたが、すぐに慣れて捕まえられるようになりました。

ですが、私は気づくのです。

重要なことに。

猫ってネズミ食えるのか、と。

いや、確かに前世でも猫はいたいけな小さな動物あるいは虫を捕らえていました。

でも、食べてるとこみたことあります?

私はありません。

というか私ネズミ現実で見たことありませんでした。

アニメの中のト〇アンド〇ェリーくらいです。

あれ、どっちがネズミだ?

だから私は周りを観察しました。

母は……食べてますね。

兄も……食べてますね。

え、みんなまさか食べてる?

えー?えー?

ネズミだよ?

え、嘘でしょ?

え、尻尾から食べると美味しい?はい、そうですか。

ちょっ、弟!止めて押し付けないで!

姉…え、と。よこしなさいよ!!え、これですか。

どうぞどうぞ。

………………。

マジか。

食うのか、これ。

というか主食これですか。

今までは狩りができなかったから、魚が出されてたんですね。

うわー、どうしよう。

た、食べ、うん。食べよう。

い、いただきまーす。

がぶり。

………………。



「にゃーーーーーーー!!」



私は逃げだしました。



●〇●〇●



ああ、バカだ、私。

私はとぼとぼと家の中を歩き回りました。

外には出られませでした。

猫がドアなんて開けられませんからね。

ああ、どうしたものでしょうか。

ご飯がネズミだなんて……。

私、飢えて死ぬのでしょうか?

もう、歩くのも億劫ですよ。

あれですね。

もう僕疲れたよ、パトラシ〇ですね。

ああ、誰かご飯をご飯をください。

死にたくなんてありませんよ。

まだ、イケメンにも合っていないのに。

イケメン……そうですイケメンです。

まさか……兄という落ちとかありませんよね?

兄は猫の中でかなりイケメンらしいです。

え?なぜ曖昧かって?

だってもと人間の記憶を持つ私に猫のイケメン度なんてわかりません。

猫は猫です。

それ以下でもそれ以上でもありません。

ああ、なんかこれ言っててかなり悲しいですね。

私も猫ですからね。

ああ、せめて記憶さえなければ……!!

兄を見て欲情できたかも知れないのに!!

ふざけんなよ!転生機の不調!

せめてよこせよチートな力!!

ああ、怒ったらお腹がさらにすいてきました。

誰か……誰か……。

そこで私ははっとしました。

この……におい……は。

私は駆け出します。

目指すはこのにおいの元にあるであろうお魚!!

む!においはこの部屋からですね!

あーけーてー!!

おーさーかーなー!!

私は鳴いたりガリガリしたりしました。

でも、人は出てきません。

わかってるんですよ!ここにマイスイートハニーがいることは!!

あーけーてー!!

あ、ちなみに母の方針で主様である魔法使い様がたにご飯をねだったら絶縁らしいです。

厳しいですねえ、猫の世界。

でも、いい、私、今食べなきゃ死ぬもん!!

そりゃ兄弟は好きだから寂しいけど、母はあまり私達が好きじゃないみたい。

なんでも主様の寵愛は私だけのものなのに!!らしいです。

ちょ、母。寵愛って……お前猫だろ。

と、思ったのは秘密です。

でも、兄弟達も笑顔がひきつっていたから同じことを思ったのでしょう。

さて、今は魚です。

お!足音が近づきます。

おーさーかーなー!!

扉が開きました。

出てきたのは……美少女です。

え……。

主様まさか……え、誘拐……?

そんないくら魔法使いだからってそんな……。

監禁なんて……え、マジか。

私は動きを停止しました。

浮かぶのは主様のこと。

主様は長い銀髪の髪をした方です。

美形ではありませんが性格どおりの優しげな顔をしています。

そんな主様がゆ、ゆ、ゆ、誘拐!!



「にゃーーーーー!!」


「ちょっ、え!!何……!?」



美少女ほ目をまん丸にしております。

でも、そんなのに構っている暇はないのです!!

逃げなくては!!



「にゃ、にゃ、にゃあ!!」

(逃げましょう!!)


「は?何?」



ああ、でも悲しいことに言葉は通じません。

私は取り敢えず部屋の中に入り、机の上の魚を口に加えます。



「あ!!僕の魚!!」



何いってるんですか。

今は魚よりも大切なことがあるでしょう!!

以外と食い意地のはった方ですね、まったく!

え?私?

私はいいんですよ。

人間とは違い本能に忠実ですからね。

と、あそこに窓があるじゃないですか。

しかも開いています。

なぜ逃げないのですか!

ほら、行きますよ!!

窓に近づき、一旦魚を置いて私は言い……いえ、鳴きます。



「にゃあ!!にゃあにゃあにゃあ!!」

(ここから逃げましょう!!)


「はあ?本当にさっきから……」


「にゃあ!!」

(早く!!)



もう!ぐずぐずしないでください!!

いつ、主様が来るか……て、きたあ!!



「フィル、さっきから騒がしいけど何か……って、うわあ!!」


「みゃあーーお!!!」



くらえ、爪でひっかくを!!

さ、美少女今のうちに……!

と、思って美少女を見たら、美少女は固まっていた。



「みゃ、みゃあ!!」

(逃げて!!)



私は倒れた主様に乗り猫パンチをしながら鳴きます。

ああ、言葉が通じないのがもどかしい!!

だけど今の鳴き声て美少女も我にかえったようです。

慌てたように口を開き………



「お師匠様!!」


「……………」



………お師匠様?

私は猫パンチをやめます。

改めて主様を見ると顔に傷を作りながらもあまり抵抗していません。

これは私を傷つけないためでしょうか?

え、でも主様は誘拐犯じゃ……

呆然とする私のもとに美少女が駆けつけます。

そして固まる私を両手で抱き、主様の上からどかしました。

そして心配そうにお師匠様!!と呼び掛けております。

……ん?お師匠様……?

やばい、私の頭にその言葉が浮かびました。

そういえば言っていなかったか主様が。

弟子をとるんだ的なことを。



『弟子をとることになってね。とても優秀な子なんだ。でも、力が強すぎて周りからあまり優しくしてもらえなかったらしくて……うちで引き取るからお前たち、よかったら彼と仲良くしてあげてくれ』



……………。

………やば。

言ったわ。言った。

主様確かに言ってました。

え、でも、彼っていうから男かと……。

美少女の姿を思い出します。

あれ、ズボンはいてた?

この世界では女はスカート男はズボンです。

つまり、彼は男で……。

美少女ではなく……美少年?

……………。



「にゃ」

(てへ)



私、間違えちゃった☆

………………。

じゃないよおおお!!

ど、どうしましょう!!

やばい、だってこんなとこ母に見られたら、絶縁どころじゃないです。

や、殺られる!!

くたり、と私は力を抜きます。

ああ、でも美少年に抱き締められてるので倒れません。

さすが男の子。



「お師匠様!大丈夫ですか!?」


「はは……大丈夫だよ。それよりフィルはひっかかれたりしてない?」


「僕は平気です」


「そう、ならよかった。………四番目も大丈夫?怪我とかしてない?」



力なく笑う主様に私は涙がでそうになりました。

な、なんて良い方なのでしょうか!

主様は私を四番目、と呼びます。

これは私の生まれた順番です。

主様は攻撃されたにも関わらず加害者の私を気づかうなんて!

ああ、私はなんてことをしてしまったのでしょうか。

こんな優しい方が誘拐なんてするはずないのに……!

ああ!!

これから殺される身でなければ、一生あなたにお仕えしたのに!!

そんなことを考えていた時です。



「みゃーーーお」


「にゃ!!」


「わっ!」



びくり、と体が跳ねます。

美少年がそれに驚き、一瞬私を落としそうになりました。

いつもなら鳴いて抗議したでしょう。

でも、今はそれに構っている暇なんてありません。

この声を私はよく知っています。

この声は……。

おそるおそる主様の後ろを見ました。

そこには………毛を逆立てた母が!!

や、殺られる!!

ネズミのごとく食べられる!!



「にゃー!!」

(四番目逃げろ!!)



母の後ろの兄弟達が口々にそう鳴きました。



「ふんみゃああ」

(殺す!!)



母の低い鳴き声に兄弟達が口をつぐみました。

私はというと、美少年の腕の中で固まります。

ああ、さようなら、今生。

さようなら、イケメン。

結局あなたに会えなかった。

主様がすごい声で鳴いた母にどうしたの?と聞きながら撫でていますが……母、睨んでます!!こっち見てます!!



「みゃあ、みゃあ……」

(ああ、最後に魚、食べたかった……)


「魚……?」



美少年が呟きます。

ああ、美少年、最後に心が通じ会えたんだね。

私は美少年を見上げます。



「みゃあ、みゃ、みゃあー」

(短い付き合いだったけど、お師匠様に大切にしてもらうんですよ)



ああ、最後だと思うと色々言葉が溢れてきます。



「みゃあーみゃ、にゃあー、にゃ、みゃあー」

(大丈夫ですよ。お師匠様は優しい人ですから。しっかりと甘えてください)



なんでしょうか、この溢れんばかりの思いは。

やはり死線を共にした仲だからでしょうか。

いえ、共にしていませんが。

私だけですが。

というか越える以前に私死ぬかもですが。



「にゃあ、にゃあ。みゃあみゃー。みゃにゃあー」

(人間でいられるのは今だけです。せっかく甘えられるんですから、ちゃんと甘えないと)



そうです。

私は猫になって死ぬほどそう思いました。

猫は人間ほど愛情というものはありません。

私は兄弟が好きですが、兄弟はきっと私が死んでも三日で忘れます。

動物って人間よりもずっと薄情なんです。

二番目は私達の中で一番体が弱く、生まれてから一ヶ月で死にました。

最初みんな悲しみましたが、すぐに忘れていました。

私は人間の心をもっていたので今でも考えると少し寂しいです。



「みゃあー」

(頑張ってくださいね)



私はそう鳴きました。

まあ、言葉は通じていないんでしょうが、いいです。

というか、あれです。

これも死の恐怖をまぎらわすためにしたことですからね。

だって、なんか喋ってないと怖いんですもん!!

無駄に一回死んでいませんよ!!

気持ちは前世の時の瓦礫の下と一緒です!



「みゃああおおお」


「みゃー」



ああ、母睨まないで。

もう、どうか許してくれませんか。

え?無理?そうですか……。

がくり、としていると美少年が口を開きました。



「お師匠様」


「………ん?どうしたの?」



困ったように母を撫でていた主様が顔をあげました。

その表情はとても優しいです。

ああ、私はこの人を誘拐犯だと思っていただなんて……。

私はまたもや泣きそうです。

猫なので泣けませんが。



「お願いがあるんです」


「お願い……?私にできることならなるべく叶えてあげたいけど……」


「はい、たぶん大丈夫です。というかお師匠様にしかお願いできません」



あれ、美少年何かお願いがあるんですか?

いいですねー未来がある方は。

未来のない私こそ叶えてほしいもんですよ。

ま、言葉通じませんが。けっ

さっきまで偉そうなことを言っておきながらも私はささくれた気持ちになります。

ですが次の言葉にその気持ちは吹き飛びました。



「この猫を僕にくださいませんか?」


「え?」


「にゃ!?」



えーー!?

美少年、何言ってんですか!!

この猫……て、私ですよね?

えーー!?

自分で言うのもなんですが、私ひどいことしかしてませんよね?

魚とって、主様ひっかきましたよ。



「別に構わないけど……どうしたの?猫好きだっけ?」


「いえ、特には……。でも、この子のこと気に入ったんです」



マジか。

人間の考えることはわかりません。

いや、私も元人間ですが。



「その子はネズミを取るために飼っていた子の子供なんだ。他にもたくさんいるけど……」


「いえ、この子がいいんです」



わあお。

私、すごいこと言われてますよ。

でも残念です。

猫だからときめけない。

人間なら私に恋して……!?とかあるけど猫に恋してとかはないでしょう。



「そっか。四番目」


「にゃ」

(はい?)



名前を呼ばれ反射的にこたえます。

気持ちは先生に当てられた生徒です。



「君の主は今日からフィルだよ」


「にゃー?」

(主様?)



美少年を見上げると嬉しそうに微笑まれました。

おお!かわいいです。

は!待ってください!!

つまりあれですか!?

私、死の危機を乗り越えたんですか!!

わーありがとー美少年……いえ、主様!

さっきひどいこと思ったりしてごめんなさい!!

私は薄情にも主様にすりよります。

それを見て母はさらに睨みました。

こ、怖くないもん!

もう私は主様のものだもん!!



「よろしくね」


「にゃー!!」

(こちらこそ!!)



そして私は主様のペットになりました。



●〇●〇●



あれから約十年。

主様は立派な青年になられました。

主様はとても優しい方です。

ネズミ捕りをしなくてもお魚をくれるし、遊んでくれるし、私にリリィという名前もあたえてくださいました。

まあ、たまに……いえ、けっこう意地悪ですがそれでも大切な主様です。

また、主様はとても美しいです。

とてもイケメンな方で、まるで王子様のようです。

最初はよくイケメン具合に悩まされたものですが、今はもう目の前に顔があってもへっちゃらです。

あれ、これ私の前世の願いじゃない?と気づいたのはつい最近のことです。

そんな主様ですが今は王宮で魔法使いとして仕えております。

そしてなぜか私も連れていかれます。

最初は大丈夫なのか?と怯えながら行きましたが、主様はかなり偉いらしく誰も何も言えないようです。

私はずっと主様のお側におりました。

朝昼晩ずっと一緒でした。

でも私はそろそろ主様から離れなくてはなりません。

主様は今年でちょうど二十歳。

地位も高い主様には縁談が沢山きており、今度本格的に決まるんだそうです。

仕事場に主様が泊まった時。

私は主様が寝ている間、内緒で朝の散歩に出かけていました。

まあ、後でバレて叱られましたが……。

私は聞いてしまったのです。

主様と同じ魔法使いで主様の部下である方の話を。

その方達は言っていました。

主様がとある令嬢と婚約するだろうと。

そしてその令嬢はたいそう動物が苦手らしく私を今まで通りに飼うことはできなくなるだろうと。

私はそれを聞いて落ち込みましたが、どこかでこうなる日がくることもわかっていました。

私は猫です。

いつまでも主様と一緒にはいられません。

それに……私が生まれて十年以上たちました。

私もそろそろ寿命なのです。

人間と猫とは生きる時間が違う。

分かっていましたがとても悲しいですね。

私はとても寂しがりやで臆病です。

だから主様に捨てられるなんてことは絶対に嫌なのです。

そして我が儘な私は主様が私の死ぬところを見て悲しむのも嫌なのです。

だから、私は家出をしようと思います。

猫は自分が死ぬとわかると家を出ていくと言いますが、あれは本当なのですね。

きっと私と同じように主を悲しませたくないのでしょう。



「リリィ」



主様が私を呼びます。

私は主様から伸ばされた手を伝って主様の肩に上りました。

ここが私の定位置です。



「じゃあ、いこうか」


「にゃー」



主様は今、お師匠様のおうちから出て自分のお屋敷に住んでいます。

魔法使いはこの国ではたいへん貴重でたいへん重要なのだそうです。

そして主様はお師匠様の次に力がある方なのでお金もすごく稼いでおり、お屋敷も立派です。

当然、移動には馬車を使います。

ちなみに魔法使いは騎士よりも人気が高いらしいですよ。

さすが主様です。

私は馬車に座る主様の膝の上でそう思いました。



「にゃーにゃ」

(主様撫でてください!!)


「仕方ないなー」



主様はそう言いながらも頭を優しく撫でてくれます。

主様は言葉が通じないのに、いつも的確に私の話を理解してくれます。

最初は不思議でしたが、今ではさすが主様と思っています。

おや、もうすぐ馬車がお城につきますね。

いつもは何も感じないのに今日はとてもそれが悲しいです。

私は今日主様の元から去ります。

馬車を下りたその時に主様から去ろうと思っています。

だから、主様のそばにいられるのはこれで最後。



「ん、リリィ着いたよ」



主様。

今まで本当にありがとうございました。

きっと私はあの時、主様に飼っていただけなければきっと今頃母に殺され生きていませんでした。

主様が外に出ました。

いつも通りに私に手を差しのべます。



「リリィ」



主様、どうか幸せになってくださいね。

私、主様のことが大好きでした。

恋してました。

それに気づいた時は心の中で母に全力で土下座しました。

ごめん!!馬鹿にして!!と。



「リリィ?」



主様が動かない私に、不思議そうに声をかけます。

ごめんなさい。主様。

もうその手には乗れないのです。

私は臆病ですから。

もうそばにはいられないのです。



「にゃー」

(さようなら)


「リリィ……?何言って……え、ちょ!!」



私は駆け出しました。



「リリィ!!」



主様の声が聞こえます。

でも、止まるわけにはいかないのです。

主様、さようなら。



●〇●〇●



もしも人間だったら、と考えたことがあります。

もしも人間だったら主様のそばにいれたのでは、と。

この気持ちを伝えられたのでは、と。

でも、無理ですね。

そもそも私が猫だったから主様と出会え、主様と共にあれたのですから。

はあ、と私はため息を一つはきました。

あれから数字間後、あんなに晴れていたのが嘘のように雨が降っています。

行くあてもとくにありませんので、わたしはとぼとぼと雨に濡れながら歩いています。

雨宿りをしようにも場所がないのです。

なぜかこの世界には屋根なるものがありません。

だから屋根の下という手段もないのです。

お腹…すきましたね。

いつもなら主様に食事をもらっています。

雨も冷たいです。

いつもなら主様の暖かいお膝に座っています。

………ダメですね。

私はもう主様の猫ではないのに、ただの野良猫なのに、主様のことばかり考えています。

ホームシックでしょうか。

チリン、と自分の首にある鈴がなります。

これは主様にもらったものです。

私の宝物なのです。

ああ、主様……会いたいです。

ずっと一緒にいたいです。

なぜ私は猫なのでしょうか。

なぜ一緒には生きられないのでしょうか。

なぜ……

そう考えていた時、ふ、と私の体が止まります。

今、何か聞こえた気がします。

でも、そんなはずはありません。

だってこの声は。

この人は今……



「リリィ!!」



私は走りました。

なんで、どうして?その言葉ばかりが頭の中をぐるぐる回ります。

今、主様はお仕事中のはずです。

主様は真面目な方ですから、私を連れていてもちゃんとお仕事なさいます。

ですから、さぼるなんて考えられないのです。

でも、この声は、確かに主様です。



「リリィ!!待て!!」



待て!と言われて待つ人間なんていないと思います。

いえ、猫なんですけどね。

私は焦っていましたが、追い付かれはしないと思っていました。

だって私は猫ですから。

ただの人間が追い付けるはずはありません。

でも、忘れていたんです。

主様がただの人間ではなく、魔法使いだということを。



「にゃ!?」



ふわり、と体が浮きます。

もがいても前には進めません。



「にゃ、にゃー?!」

(な、なんで?!)


「リリィ!!」



そのまま主様に追いつかれ、抱き締められました。

く、苦しいです。



「にゃーー!」

(苦しいです!!主様!!)


「この馬鹿!!」



その声に私はびくり、と体が震えます。

顔を見なくてもわかります。

主様が怒っていることが。

それもかつてないほど。

案の定、主様に脇の下に手を入れて持ち上げられ顔をみたら盛大に怒る主様と目が合いました。



「なんで逃げ出したりした」



や、ヤバイです。

主様の口調が変わっています。

いつもの優しい喋り方じゃありません。



「リリィ、答えろ」



びくっ!と再び体が震えます。

私はしぶしぶ口を開きました。



「にゃあ、にゃーみゃーにゃあにゃ」

(だって主様婚約するんですよね?)


「は?」


「にゃあ、にゃあにゃあにゃーにーにゃあ」

(お相手の方が動物が苦手で私は邪魔なんです)



主様は目をまんまるにしています。

おそらくその話を私が知っていて驚いているのでしょう。



「にゃあ」

(それに)



私は続けます。



「にーにゃあにゃみゃーにゃあ」

(私はそろそろ寿命なのです)



主様は黙ってしまいました。

おそらく主様も気づいておられるのでしょう。

最近、私寝てばかりですからね。



「にゃーにゃ」

(主様、だから……)


「……さない」


「にゃ?」

(え?)



だから、下ろしてください。

そう言おうとしたのは主様の言葉で遮られました。

でも、それはあまりにも小さくてよく聞こえません。

聞き返そうとしたその時。



「そんなことは許さない」



そうはっきりと言って、私を抱えなおすと呪文を唱えられました。

それが転移の魔法だと気づいた時には、もう場所は違う場所に移っていました。

私はそこで床に下ろされます。

魔法使いは国に言われた時以外にはあまり魔法をつかってはいけない、という決まりがあります。

だから主様はいつも馬車で王宮に行かれるのです。

と、そんなことよりもここはどこなのでしょうか。

暗くて広い場所です。

私は猫だから見えますが主様は見えているのでしょうか。

そう思い見てみると主様はとくに不自由なく動いています。

何をしているのでしょうか。

あれは……水?

しばらく待つと出来た、と主様が呟きました。

そしてこちらを見てにこり、と微笑みます。



「おいで、リリィ」



なんだかさっき怒っていたのが嘘みたいに笑顔です。

逆になんだか怖いです。

おびえているのに気づいたのでしょう、主様は大丈夫だからと私をだっこします。



「ああ、でも少し痛いかも。ごめんね」


「にゃ?」

(え?)



聞き返す間もなく手に痛みがはしります。

主様の手にはナイフ。



「みゃーーー!!」


「あはは。大丈夫だよ」



何が!どこが!?

なんですか!!主様私を殺す気ですか!?

やーー!!

誰かーー!!



「もう、暴れないで……っと」


「にゃーーー!!」



あ、主様!?

今度は自分の手を傷つけました。

な、何をやってるんですか!?



「だから、暴れないで。ほら、リリィ舐めて」


「にゃ!?」



な、舐める!?

血を!?

わ、私そんな趣味はないのですが!?



「ほら、早く」



ギャーー!!

近づけないで!!

無理、無理!!

血なんてなめられません!!

でも主様は私の口にそれを押し付けてきます。

むーー!!

わ、わかりました。

覚悟をきめましょう!!

私はペロリとそれをなめました。



「うん。いい子」



そう私の頭を撫でて、そのまま私の傷の部分を口に含みました。

いやあーーー!!

主様!私毛だらけですから!!

ダメです!!

というか血は危険なんですよ!?

病気沢山なんですよ!?

そんな私の叫びは届かず、主様は私に先程の液体を近づけます。

これもなめればよいのでしょうか?

血よりはまし、と、私はあまり気にせずなめて……後悔しました。



「に、にゃ!!」

(に、がっ!!)



苦い。すごく苦い!!

何これ、何これ!?

主様は苦笑しながらそれを……飲んだ。



「にゃあ!!」

(主様!!)


「うーん。やっぱ苦いや」



いや、そんな軽くないから。

すっごく苦いから!!

うわあ、飲みましたよ。

すごい……ですね主様。



「ねえ、リリィ」



主様は笑顔を私に向けました。



「僕ねリリィのことが好きなんだ」


「にゃーにゃあ、にゃー」

(私も好きですよ)


「うん、知ってる」



そう言うと主様は私の耳元で何かを囁きます。

これは……呪文?

主様をそれを唱え終わると私の鼻にキスしました。

そして



「だから、ずっとそばにいてね」



その瞬間あたりは光に包まれました。

私はそのまぶしさに目をぎゅっとつむります。

な、何が起こっているのでしょうか!?

なんだか体もとても熱いです!!



「あ、主様!!熱いのです!!」


「うん、大丈夫だよ」



主様に抱き締められます。

というか大丈夫じゃないのです。

本当になんというか、真夏の砂浜で裸足でいて、砂、あつっ!てくらい熱いです。

イヤーもーやだー!!

そう強く、思った時。

光は止みました。

体の熱さも消えて行きます。

はあ、よかった……。

私はゆっくりとまぶたを開きます。



「主様!熱いのなくなりました!!」


「うん。よかったね」


「はい!」



私はにっこりと笑いました。

そこでふ、と地面に落ちている鈴を見つけます。

あれは私の鈴!

私は急いでしゃがんで手を伸ばして鈴を……ん?

え、手?しゃがむ?

何を言っているのでしょうか?

私に鈴をとる手などな……



「え?」



手がある。

しかも、人間の。



「え、え?」



私はからだ中をペタペタ触ります。

毛が……ない。

長い足がある。

頭のこれは……髪。

え、これはいったい……



「あ、主様……」



私は助けを求めるように主様を見ます。

主様はとても良い笑顔で、いいました。



「人間の姿も可愛いね」



…………………。



「にんげんーーーー!?」



●〇●〇●




吾輩は人間である。名前はないこともない。



いえ、嘘です。

嘘つきました。

私は人間ではありません。

ちなみに猫でもありません。

私は……使い魔です。



「ねえ、リリィどこに行くの?」


「あ、主様……」



ベットを出ようとした私の手をつかんで、主様は私をベットの中に連れ戻しました。

私は内心ひーと悲鳴を上げます。



●〇●〇●



私は使い魔になりました。

血をなめたり苦い液体を飲んだり……あれはどうやら使い魔にするための儀式だったらしいです。

使い魔になると主様の命令に絶対服従になったり、人間の姿になれたり、寿命が主様と同じになったりするそうです。

他にも何かありましたが、まあ今のところそれさえ知ってれば問題ありません。

あの日……使い魔になった日、人間の姿になった私はすぐさま主様の部屋に転移させられました。

そして気づけばベットの上……。

これはヤバくないか……?

そう気づいた時にはもう食べられておりました。

そして痛む体、寝込む私、やっと復活、それを食べる主様。

というループが続いて一ヶ月。

ついに私は爆発しました。

人生……いえ、猫生初の大泣きです。

だって悲しくなったんです。

好かれているのは知っていました。

でも主様は私のように恋愛とかの好きではないでしょう?

なのにこういうことをされて……。

私は悲しくて悲しくて仕方ありませんでした。

それを泣きながら訴えました。

というか力の限り叩いたりしました。

そして主様は……



「ふざけるなっ!!」



まさかの逆ギレです。

一瞬ぽかんとしましたが、ベットに抑えつけられそうになったので必死で抵抗。

ですが、私は使い魔です。

主様には絶対服従。

動きを封じられました。

せめてもの抵抗と思い、にらみましたが……はい、主様のにらみに勝てるはずがないのです。

そして、告げられた言葉に私は驚きました。



「ずっと……会った時からずっと……好きだった」


「は?」



私は口をぽかんとさせます。

は?会った時から……え。



「そ、それはどういう好きで……」


「恋に、決まってるだろう!?なんでわからない!?」



き、決まってませんー!!

え、ちょ。

あ、主様!

そんな、まさか……だって私あの時、猫でしたよ!?

猫!にゃんこ!!キャッツ!!!

まさか、そういう性癖……?



「……一応言っておくけど、性癖とかじゃないから」


「は、はあ……そ、そうですよね……はは!!」



いや、でもだったら、なんで……?

その疑問に答えるように主様が話はじめました。



「はじめて会った時……リリィが言ってくれたでしょ?」



は?はじめて会った時……?

さ、魚ちょーだいとか…?



「完璧には覚えてないけど……甘えてもいいとか、そういうこと」



………ん?

言った……そんなこと?

ヤバい!!

まったく覚えてないです!!

あの時はほら、色々必死でしたから!!

私の視線に気づいたんだろう。

主様は苦笑しました。



「別に、思い出せなくてもいいよ?リリィが言ったことに変わりはないんだから。あそこに行く前僕はいつも一人だったんだ」


「一、人?」


「そう、一人。魔力が強くていつも魔法を暴走させてた。だから人は近寄ってこないし、来ても怯えた顔しかしていない。小さい頃からそうだったから……ほら、性格が少しひねくれちゃって……。で、いつも怯えてばかりの大人たちを馬鹿にしてた。でも、リリィに言われて気づいたんだ……ああ、僕は寂しかったんだ、甘えたかったんだ、て」



主様はその時のことを思い出しているのか、嬉しそうに笑っています。

私は思い出そうとしてみるけど……ダメですね。

というか私本当にそんなこと言いました?

言った記憶が本当にな……ん?

言った……記憶?



「あ、主様…!!」


「ん?」


「私!あの時、喋れませんでしたよ!!にゃんにゃん鳴いてました!!」



そうですよね!!

あの時私はまだただの猫ですから、主様に言葉は伝わりません!!

やっぱり、勘違いなのでは……。



「ああ、それね。んーやっぱり、気づいてない?」


「え?」


「僕、動物の言ってることわかるんだよね。魔力高い人はわりとそういうのあるらしいよ?」


「へっ!?」



な、なんですか!?それ!!

初耳ですよ!?



「いや、この間、リリィが家出した日、怒って普通に問い詰めたから……気付いてるかな、と」



は!!

そういえば!!

確かに私と会話が成立してました!

え、じゃあ……ずっと……主様は私の言葉わかって……。



「ごめん、リリィの独り言とか、創作した歌とかが可愛くてなかなか言い出せなかった……」


「にゃーー!!」



なんてことですか!!

だって私けっこう独り言言ってましたよ!?

お魚の歌とか歌ってましたよーー!?

ていうか主様!!なに笑ってるんですか!?

さっきまで怒鳴ったりしてたのに…!

私は力の限り睨みます。

体は……まだ自由では、ないので。



「ははっ!ごめんねリリィ」


「うーーー!!」


「でも、これでわかったよね?僕がどれくらい君を愛しているか」


「う!」


「さっきは怒ってごめんね。まさか伝わってないなんて思わなかったんだ。一ヶ月もこういうことをしてるのに」


「や!!」



主様の手が体に触れました。

それだけで私はびくっと反応してしまいます。

そんな私を主様は笑います。

主様が手で唇で私に触れてくるたびに、顔が真っ赤になっていくのがわかりました。

それが恥ずかしいのに、嬉しいなんておかしいですよね?



「ねえ、リリィ。君は僕のものだよね?」



主様の唇が私の耳のすぐ横で、囁きます。

私は顔を真っ赤にしながら何度も何度も首を縦にふりました。



「なら、ずっとそばにいてね。使い魔とは結婚できないけど……大丈夫、どんなお嫁さんよりもずっと愛してあげるから」


「……っ…だ、れとも、結婚……しな、い?」


「うん、しないよ。ねえ、だから……」



●〇●〇●



「だから、教えて」



私はぶんぶんと顔を降りました。

朝、起きてベットに連れ戻されてからこの言葉は何度も繰り返されています。



「ねえ、リリィ教えてよ」


「ひゃっ!!」



脚の際どいところに主様の手が触れ、あやしくゆっくりと動きます。

それでも私は首をふり続けました。



「強情だなあ。ねえ、いい加減教えてよ。誰が君に僕が婚約するなんて言ったの?」



主様は優し気に、まるで子どもに言い聞かせるように言いましたが、目が全然笑っていません。



「だ、から…!教えても……彼らには何もしないと……!!」


「うーん?それは約束できないよ。ごめんねリリィ。僕できない約束はしない主義なんだ」


「なら、無理です……!!」



それにあれは私が盗み聞きをしただけです。

教えて、彼らが何か酷いことをされるのはおかしいのです。

でも、それを言っても主様は納得しません。

けれど、主様は服従で命令することもありません。

それは、つまり……



「あ、るじさま……!遊んで…ますよね!!」


「ん?なんのこと?」



そう、主様は本当に聞き出そうとはしていないのです。

いえ、いつかは聞き出そうと思っているのでしょうが、それはきっと今じゃなくても良いのです。

今はただこうして私をいじめたいだけ。



「もー主様は意地悪です!!」


「えー?今さら?」


そして主様は笑いました。



●〇●〇●



それからちょうど八十年、魔法使いは永遠の眠りについた。

膝の上には一匹の猫。

二人は出会ってから約九十年の間片時も離れることはなかったという。








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― 新着の感想 ―
[良い点] 凄く綺麗にまとまっていて これぞ短編!という感じで とても読みやすかったです!
[一言] 最初の主人公の言葉からすると、「イケメンは言葉が理解できる動物(猫)に恋をしてもいい」ですよね。イケメンパワー凄い。
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