赤毛の少年
いつもくちゃくちゃガムを噛んでいる彼。
お菓子が大好きな彼。
とても優しい彼。
苦手な生き物は女の子。
そんなあなたに恋をしました。
春。
桜が風に舞い、新入生を歓迎する季節。
もちろん、そのチャンスを逃すまいと各部の勧誘は激しく行われている。
「宮元さん。」
私、宮元 早希、高校2年生!
きゃるん♪
何てのんきにいっていられない様な場所に放り出された私。
と、去年、この激しい新入生の取り合いで強引に園芸部に入部させられた男子生徒。
彼は橋本 祐人。
「新入生の今の気持ちが痛いほど伝わるのは気のせいかな・・・。」
橋本くんは運動部に半強制で体験入部させられている新入生を見ながら言った。
運動場では砂埃が立ち、人影しか見えない。
あんな中で新入生はここで生き延びていく知恵を身につけていくのだ。
「園芸部に入りませんかー」
園芸部は校舎の裏山に作物を栽培したり、校内の花壇の花の世話をしたりするのが主な活動内容だ。
裏山は牧畜もあり、そこで飼育されている牛や羊などに邪魔されることが多々ある。
そいつらは隣にある学部で飼育されているものだ。
「あ、宮元さん。ガム、持ってない?」
橋本くんはガムが好きだ。
この規則のゆるい自由な学校で一番自由人だといわれている橋本くん。
「うん。橋本くんがそういうと思って持ってきた。」
制服も着てこず、出会う人に求めるのはとりあえず「ガム」。
彼はガムがなければ生きれないらしい。
「俺の好きなグリーンアップルじゃん!宮元さん、やるねー♪」
今日ぐらいは制服で来いと先生からも部長からもいわれていた。
久しぶりに見る制服姿は中々、新鮮だ。
「宮元さんも食べる?」
いや。
それ、私のだし。
「いい。食べない。橋本くん、好きなんでしょ?」
無事、数人の新入生をGETし、部室に戻る。
「おかえりなさい、早希ちゃん、祐人くん」
荒井部長の彼女である堤先輩は私たち勧誘組を温かい紅茶と共に迎えてくれる。
「疲れましたー。紅茶、いただきます。」
校舎からちょっと離れたレンガ建ての広い部室。
ソファも日当たりのいいベランダもキッチンだってある。
全部、お金持ちの息子である荒井先輩のご両親が用意してくださった部室なのだ。
「荒井先輩もいかがですかー?」
荒井先輩にとっても美味しいストロベリーティーを勧める。
「ごめんね早希ちゃん。さっき、悠子に入れてもらったんだ。」
あー、堤先輩に。
私は堤先輩の用意してくれたビスケットを橋本くんと頬張りながらくつろいだ。
いつしか時は流れ、夕方になっていた。
今日は勧誘のために設けられた一日であり、授業がない。
特別日課というやつだ。
特に、園芸部の新入生は指導組がお世話をしていただろうから、とっくの昔に帰っているだろう。
「宮元さん。もうそろそろ下校時刻ですけど。」
寝起きに光り輝くものが視界に入ってきた。
「まぶっ・・・!あれ・・・?橋本くん。」
橋本くんは制服からいつもの私服に変わっていた。
制服ではよく目立つ赤毛も私服のカラーに混ざり、違和感がなくなっていた。
「帰りましょ。」
先輩たちは?と聞くと、今日は早めにお開きしたから帰った、といわれた。
あちゃー。
寝てる間にものすごく時代は進んでいたな・・・。
「でも、まだ時間はあるでしょう?」
なら、もうちょっと。
と私は寝返りをした。
「ねぇ、宮元さん。ものすごくはだけてるんだけど。」
橋本くんは私を上から覗くようにいう。
「え!うそ!」
私はパッと起き上がった。
「好き」
橋本くんはそういって部室から出て行った。
END