僕
僕は佐藤 裕太。
「裕太あー、コンビニ行くついでにアイス買ってきてよ!」
彼女は佐藤 由愛。
由愛とは兄弟でも親戚でもなんでもないただの幼馴染。
僕より3つ年上の20歳。来週には結婚する。
僕の幼馴染の由愛はバカで不器用でどんくさくて喜怒哀楽がはっきりしてる。
僕の幼馴染の由愛は優しくて人一倍努力していつもみんなの笑顔の源だ。
僕の幼馴染の由愛は僕が世界で一番好きな人だ。
だけど、来週には僕の目の前からいなくなる。
遠く離れた土地に行ってしまうからだ。
相手の男は僕より太ってて僕より不細工で僕より肌が汚い。
僕の方が断然優れているのに由愛はその男の元へ嫁ぎに行く。
その男は僕の知らない由愛を知ってる。
僕はその男が知らない由愛を知ってる。
これからその男は僕の知ってる由愛も知っていく。
これから僕は知らない由愛が増えていく。
「裕太、何怒ってんの?由愛姉ちゃんがいなくなるから怒ってるのかな?裕太くんは。ははっ。」
由愛が好きなソーダ味のアイスと炭酸水の入ったコンビにの袋を荒々しく突き出す。
「おっ!ジュースまで入ってんじゃん!裕太、気利くう~。」
「だけど、由愛は僕じゃだめなんだろ。」
由愛は、え?と大きな目をさらに丸くした。
「僕じゃあの男には勝てないんだろ。僕の方が良いのに。」
それだけ吐き捨てて僕は自分の家に帰った。
母親がおかえりと声をかけてくれたが何も返事をしなかった。
思いっきりベッドにダイブする。
僕じゃあの男に勝てないんだ。
僕よりあの男の方が頭が良い。
あの男はたくさん金を持ってる。
僕は将来有望だけど、保障はない。
あの男は由愛に嫌いなものも与える。
由愛を叱れる。由愛を甘やかしすぎない。
由愛を一人の女性としてみる。僕だってそうだ。
だけど、由愛は僕じゃなくてあの男を選んだ。
あの男は僕が持ってないものをたくさん持ってる。
とうとうこの日がきた。
由愛は純白のドレスを身にまとい幸せそうだ。
その史上最高に美しくて可憐な由愛を作ったのはあの男だ。
僕じゃない。
「由愛ちゃん、おめでとう。早いわねえ。もう由愛ちゃんが結婚だなんて。」
僕の母親が由愛に嬉しそうに話しかける。
父親は自分の娘が結婚する時みたいに泣いている。
「ほら裕太!アンタからも何か言いなさいよ!」
母さんが僕を由愛のところに引っ張っる。
「・・・・おめでとう。」
「ありがとう。」
由愛はまた幸せそうに笑った。
こんなに心のこもってないおめでとうを言われて嬉しそうにするのはおかしい。
おかしくなるくらい由愛は幸せの中にいるのだ。
由愛が由愛のお父さんと腕を組んで入場するとき。
由愛があの男の隣で幸せそうに微笑むとき。
由愛があの男とキスしたとき。
今日の由愛が直視できないくらいきれいで直視できないくらい幸せだ。
幸せなのはこの式場にいる僕を除く全員がそうだ。
僕だけが幸せじゃない。
ああいう顔をさせているのが僕じゃない。
僕じゃあの顔をさせてあげられなかった。
所詮、僕は由愛にとってただの幼馴染だ。
ただの近所の高校生の幼馴染。
それも今日で終わりを告げる。
僕は今日から本当に由愛と何の関係もなくなる。
その光景をただ見ているしかできない自分がもどかしい。
何も出来なかった自分が悔しい。
心無い拍手をして心なんて一切こもってない笑顔をつくって。
今日も僕は美しく着飾った高校生の幼馴染。
結婚する最愛の女性に何もしてあげられなかったただの男。
明日からは制服を着たただの高校生。
期末テストに向けて勉学に励むただの男子高校生。




