生成り色
生成り色とはすごくすごく薄い黄色。
白に近い黄色。
生成り色は不思議な色。
見る人によって白か黄色か。
ぱっと見、全く別の色として見られる。
熊石 生成とは。
現在、高校2年生の男。
いい子なのか悪い子なのか。
ぱっと見、どちらともいえない外見を持つ男。
春。
クラス換えが行われ、担任の福崎が一人ずつ自己紹介をする時間を設けた。
「僕、熊石 生成。好きな色は蛍光黄緑。」
それだけいって座る。
周りはざわめく。
こいつはいい奴なのか?
そういった不安、または疑問を持たせる奴。
「熊石、ここ解いてみろ。」
数学の時間。
黒板に応用問題とチャレンジ問題が3問ずつ並べてある。
「できた!」
計6問の難しい問題を意図も簡単に解く。
「熊石、凄いなお前!全問正解じゃないか!」
先生を驚かせる。
何事もなかったかのように席に着く。
「熊石くん、この人物名は何でしょうか?」
歴史。
周りから見ればとても簡単な問題。
先生がちょっと笑いをとるために質問をする。
ちなみに答えは織田信長。
「お・・・お・・・・おた・・・・のぶ・・・こ?」
解けない。
先生は唖然とし、クラスメイトは笑う。
小野妹子のようなものだと考えているのか?
「熊石くぅん。起きてくださぁい。」
小さな声と小柄な体格。
めがねをかけていかにも弱そうな音楽の先生。
奴は余裕で一番奥の一番端っこの窓側の席で眠りに付く。
先生は何回も奴を呼ぶ。
奴が先生を無視しているのか。
それとも気づかないだけなのかは誰も知らない。
なぜなら、奴は休み時間すべて、教室にいない。
どこを探してもきっと見つからないと思う。
授業の終わるチャイムとともに教室から去る。
授業の始まるチャイムの3分前にはいつの間にか席に着いている。
奴は変わっている。
「席替えをするぞー。」
月1で行われる席替え。
奴はのそのそと歩いてくじを引く。
「熊石、何番だった?」
「僕は・・・・3番。うげ。一番前の席だ。」
「お前、先生から四六時中監視されるな!」
奴はまるで今の席と一生の別れをするかのように席に着き、窓の外をじぃっと見る。
奴は変わっている。
「僕、熊石 生成。」
奴は私の隣の席。
「君は?」
「三津 奈々子。」
「わあ!名前に3と7が入ってる!すごいすごーい!」
奴は私の名前を馬鹿にするかのようにはしゃぐ。
「三津が隣なら、先生は安心だ」
何が先生は安心だ。だ。
私は成績も良くて態度も良い。
いわゆる優等生。
地毛が茶髪のせいで。
スカートがお下がりだからすごくい短いせいで。
視力の低下は分かっていても中々、めがねをかけさせてもらえないせいで。
私は染めているスカートの短い目つきの悪い不良生徒と思われる。
ただ、色々な事情が重なっているだけ。
それだけなのに。
「三津さんって、見た目以上にいい人だよね」
奴は私をじぃっと見ていう。
「どうも。」
昼休みになっても奴は教室にいた。
珍しい。
私は友達と一緒に食べる約束をしている。
屋上で、だ。
屋上は立ち入り禁止。
しかし、いつもなぜか開いている、と友達はいう。
私にだって友達の1人や2人はいる。
「奈々子ー。今、熊石くんの隣なんでしょ?いいなー。」
奴はモテる。
自覚はしていないようだが。
「奈々子、ごめん!彼氏から呼び出しくらったの!ごめんね!」
友達は私1人を残して去って行く。
どうせ、彼氏といちゃいちゃラブラブするのだろう。
私は邪魔をしようとするような人ではない。
邪魔して何になるのだ。
と考えるような人なのだ。
彼氏いない暦3年。
中2のとき、ちょっとだけ付き合った男がいた。
付き合って2週間でキスより先にいこうとした。
私はそんな男と一緒にいたくないと別れた。
昼休みは長い。
ひたすら屋上で日向ぼっこ。
どこからともなく聞こえてくる曲。
「♪~♪~♪」
曲とともに聞こえてくる声。
どこかで聞いたことのある声だ。
入り口を挟んで丁度真後ろ。
奴がいた。
「あ。」
奴は私に気づく。
私は急いで逃げようとする。
奴に捕まった。
「今の、絶対に誰にもいうなよ!誰かにいったら・・・・。」
そこまで聞くと、その先は大体分かった。
お決まりのパターン。
「分かった。誰にも言わない。」
私は奴の足元を横目でみながらいう。
靴下がえらい可愛い。
男はあんまり履かないような靴下。
奴の好きな黄緑。
そんな不恰好な靴下はどこに行けば手に入るのだろうか。
面白いくらいに不気味だ。
私はさっさと教室に戻る。
奴はやっぱりいない。
奴は変わっている、と思い出したのは去年のこと。
奴は隣のクラス。
奴の存在なんて気にしたこともなかった。
あの時までは。
高校1年生の夏休み。
私は一度だけ。
このときだけ、海の中で溺れた。
その日は、海に友達4人で来ていた。
4人とも、私のことを良く思わなかったらしく、私はいつの間にか。
いや、あっという間に置いてけぼりを食らった。
仲間は外し。
私はせっかく海に来たのだから、泳いで帰ろう。
そう思い、いつの間にか足のつかないところまで来ていた。
頬を伝う目から出る液体は海の一部と化していく。
足がつった。
頭の中は焦りと悲しみと不安でいっぱいだった。
瞬時に、私は もう、死ぬのだろうか と考えた。
いや、ここで死んではいけない、と必死でもがいた。
海は遊ぶように私を下へ下へと引っ張る。
きっと、気を失ったのだろう。
目を覚ますと、そこは誰もいない海の家。
いるとしても、親父が1人だけ。
そよそよと吹く風。
私は扇風機の前にタオルケットをかぶせて寝かされていた。
「ねえ、大丈夫?」
間の前には奴がいた。
奴はゆっくりくつろいでいる。
「君、溺れてたんだよ。僕、助けたんだ。いい奴でしょ?」
奴は得意げにいう。
「ありがとう。」
そういって海の家から出て行こうとした。
「どこ行くの?」
「帰るの。」
「友達は?お母さんは?一人で来たの?」
「一人で来ちゃ悪い?」
「じゃあさ、僕と遊ぼうよ。」
「は?」
私は、水着から私服に着替えた。
奴と一緒に遊びに行かなければならないのだ。
街に出て、クレープを食べてアイスを食べて。
ゲームセンターへ行って奴は退屈していたが本屋に行って。
街をうろうろ。
世間一般でいう、デート、をした。
何で合って数分の奴と一緒にいなければいけないのだ。
今頃、家で涼んでいるはずなのに。
「元気でた?」
奴は笑顔いっぱいでいう。
「うん。」
私は少し微笑んでいう。
「じゃあ、ばいばい!僕ん家、こっちだから。」
奴はそういって見えなくなる。
変な奴だ。
その後、何度か学校で見かけることが多くなった。
こっちが気にしても、あっちは気にしない。
友達からは奴のことが好きなんじゃないの?といわれた。
奴が好き?
ずっと目で追いかける。
気になる。
目が合うと、どきっとなる。
恋なのか?
END