39 散歩回
春。
高校三年生。
四月。
「…………」
夕方。
レイは一人で歩いていた。
「のだぁ……」
住宅街。
静かな道。
夕焼け。
少しぬるい風。
「…………」
今日は珍しく静かだった。
彩音は塾。
真里たちは買い物。
原稿も一旦区切り。
「のだぁ……」
だから。
歩いていた。
なんとなく。
「…………」
前回人生。
散歩なんて、ほとんどしなかった。
外へ出る理由が減っていたから。
でも。
今は違う。
「うむ」
頭を整理したかった。
創作。
将来。
生活。
「…………」
最近。
レイの中には色々あった。
投稿。
掲載。
落選。
勉強。
英語。
中国語。
ネット。
「のだぁ……」
しかも。
書きたいものまで増えてきた。
『追放もの』
『青春』
『ギャグ』
『変な悪役』
『成金』
『悲恋』
『家族』
「うむぅ……」
ジャンルが散らかっている。
「吾輩、何屋なのだぁ……」
レイは空を見た。
夕焼け。
電線。
カラス。
「…………」
でも。
不思議と嫌じゃない。
「のだぁ……」
前回人生。
自分は。
“何者かにならなきゃ”ばかり考えていた。
立派。
安定。
ちゃんとした人間。
「…………」
でも。
結局。
途中で疲れた。
「うむ」
今は違う。
今は。
“書きたいから書く”が先にある。
「…………」
もちろん。
売れたい。
金も欲しい。
彩音との未来も欲しい。
「のだぁ……」
だが。
それだけじゃない。
レイは。
普通に。
創作が楽しくなっていた。
「うむっ♡」
その時。
小さな公園が見えた。
ブランコ。
滑り台。
夕方。
子供たちはもう帰っている。
「…………」
レイはベンチへ座った。
「のだぁ……」
静か。
遠くで犬の鳴き声。
どこかの夕飯の匂い。
「…………」
そして。
レイはぼんやり考える。
「うむぅ……」
なぜ。
自分は創作したいのか。
「…………」
多分。
前回人生。
頭の中にあるものを。
ほとんど外へ出さなかったからだ。
「のだぁ……」
変な妄想。
ギャグ。
キャラ。
世界観。
いっぱいあった。
でも。
“どうせ無理”で止めた。
「…………」
それが。
今。
少しずつ形になっている。
「うむ」
小さい投稿でも。
原稿料でも。
編集の感想でも。
全部。
嬉しい。
「のだぁ……」
その時。
レイは急に立ち上がった。
「うむ!」
歩きながら喋り始める。
「悪役主人公ぉ……」
真顔。
「だが完全悪人ではないのだぁ……」
通行人から見ると危ない高校生である。
「うむぅ……」
「あと、成金ネタはもっとリアルにしたいのだぁ」
「恋愛も欲しいのだぁ」
「でもギャグも捨てられないのだぁ」
「のだぁ……」
レイは本当に整理していた。
頭の中を。
「…………」
創作って。
意外と。
“自分が何を好きか”を理解する作業なのだ。
「うむ」
レイは川沿いへ出た。
夕日が反射している。
綺麗。
「…………」
前回人生。
こんな景色。
見ても何も思わない時期があった。
疲れていたから。
「のだぁ……」
でも今は。
“こういう景色の話を書きたい”と思う。
「うむっ♡」
その時。
レイはふと思った。
「彩音とここ歩いたら絶対良いのだぁ」
すぐ彼女のこと考える。
「…………」
だが。
それも含めて。
今の自分だった。
「のだぁ……」
高校三年生。
受験。
進路。
周囲は真面目な空気になり始めている。
「…………」
不安もある。
正直。
めちゃくちゃある。
創作で生きるなんて簡単じゃない。
才能の世界。
競争。
「のだぁ……」
でも。
前回人生。
“安定側”へ行っても、不安は消えなかった。
「…………」
だったら。
今度は。
自分で選びたい。
「うむ!」
レイは少し笑った。
「失敗しても、吾輩の人生なのだぁ♡」
春の風。
夕焼け。
静かな川沿い。
「…………」
その時。
レイはポケットからメモ帳を出した。
『夕方の川沿い』
『孤独じゃない主人公』
『静かな回』
「のだっ♡」
即メモ。
「使えるのだぁ♡」
レイは笑った。
前回人生なら。
ただ通り過ぎて終わった景色。
でも今は。
全部。
物語になる気がしていた。
「…………」
空は少し暗くなっていた。
「帰るのだぁ」
レイは歩き出した。
家には。
母親がいる。
父親がいる。
そして。
明日学校へ行けば。
彩音もいる。
「のだぁ……」
それだけで。
前回人生より。
ずっと良い世界だった。




