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リスカ

作者: WAIai
掲載日:2026/03/03

ー血が出た。

奥村智は自分の腕を見、うっとりとする。右手にはカッターを持ち、左腕にはカッターで切った痕が多数残っている。

ー気持ちがいい。

血の流れる様子を見ながら、智は落ち着いていく自分を知る。まだ10代で若いのだが、不登校だった。髪はボブカットで、可愛いといわれる部類だった。しかし智は自信がなかった。

ー自分がいるからいけない。

そう思うのは、親の重荷になっているという自覚があった。智は親にはっきり言われていた。

「ーお前なんか、私の子どもじゃないんだよ」

ぐさりと深くカッターの刃を刺す。本当に親の言葉かと思うが、両親は仕事で忙しく、智は独りぼっちのほうが多かった。

ー私さえ、いなければ…。

ずっと小さい頃から思っていた。早くに幼稚園に預けられ、迎えに来るのは最後。しかも不機嫌に来られるので、子ども心に自分はいらないのだと分かっていた。だから人の顔色を見る癖ができていた。怒らないで欲しい、泣かないで欲しい、私がいなくなるから。そんな思いでいっぱいだった。だから自分の人生が楽しいわけがない。生きていると実感することができなかった。

ーこのまま、いっそ死んでしまえば…!!

またカッターの刃を刺す。切り傷は複数で他人が見たら、どん引きするだろうと想像できる。まあ、他人に見せるつもりはないのだが。

ー私の血は汚れている。

そこまで思わなくていいのだが、智は自分が許せなかった。自分さえいなければと何回も思ったものだった。そうすればすぐおさまるのにと、何度も願った。両親同士が会話がないのは自分のせいか、顔を合わせるのも嫌なのは自分のせいなのか、不安で不安でたまらなかった。

「ー智、ちょっと」

母親の裕子の声がし、智は慌てて腕を隠す。今は夏なのだが、長袖を着ていた。

「いいよ」

良い子を演じて答えると、裕子と父親の竜也が深刻そうな表情で切り出す。

「ー離婚しようと思う」

「…え…」

智は冷や水を頭からかぶさられたように、固まった。ついに来たかと、どきどきする。

「どっちについていく? 私かお父さんか」

「それは…」

選択を迫られ、智は戸惑ってしまう。どちらについていくにしても、自分はお邪魔虫だと気づいていた。不倫しているのも知っていたし、それを見たふりをしていたのも嫌だった。

ーそんな…。私が悪い子だから…?

誰も智を責めていないのだが、どうしても自分の存在を消したくなっていた。だから智は明るく振る舞う。

「ー私、どちらにもついていかない。1人で暮らす」

そう告げると、両親が安堵したのがすぐ分かった。「ああ、やっぱり…」自分はゴミのような存在なのだと、改めて知る。

ーもう人間でいたくない。

そこまで思うようになっていた。他人からすれば、可哀想と言われるかもしれないが、智は浮かんだ涙を首を振ることで、ふりきり言う。

「アパートを用意してくれれば、そこにいくから。大丈夫!! もう私も大きいんだから、ね?」

「…分かったわ。じゃあね」

「お前はしっかりしているから、大丈夫だ。じゃあ」

パタンとドアが閉まる。その途端、智は心の中で大きく叫んでいた。

ーふざけるな!! 自分逹で作ったくせに…!!

直接言えれば楽なのだが、リストカットのことも、両親は知らなかった。

ーこの!! この!! この!!

カッターを深く刺していく。血の匂いが濃くなり、部屋に充満する。流れるものが汚らわしく思えてならなかった。大量の血に、智はぼうっとした顔で見つめていた。

ー離婚、離婚…。ははっ。

笑いたくなってしまった。このまま死んでしまえと、カッターを大きく刺そうとしたその瞬間。

「ー智、あの…。…こら!! 何をしているんだ!!」

「あ、これは…」

「やめなさい!! 凄い血じゃないの!!」

両親がやかましく叫び、カッターをとられる。

ーあ。私の唯一の癒やしの時間が…!!

そう思った途端、智は叫んでいた。

「返せ!! それは私のものだ!! 私が何をしようが、何を考えていようが、関係ないくせに…!!」

表情は険しいものとなり、両親がおどおどする。いい気味だと少し思い、手を差し出す。

「ほら、見てよ、これ。ずっと前からやっているのに、気づきもしないで…!! 離婚するとか、自分達の勝手で決めて…!! 許せない!!」

智は知らずに泣いていた。血がぽたりと床に垂れていたが、両親は普段、大人しいと思っていた智の反撃に、びっくりして何も言えないようだった。

「私がいなくなればいいんでしょ!! そうすれば、2人は幸せになれるんでしょ!! だったらいいじゃない!! 私は好きなようにしても!!」

「…。とりあえず救急車だ」

「分かったわ。今、呼ぶ」

「ちよ、ちょっと待ってよ!! 何で救おうとするのよ!! 世間体のため? 私が死んだら困ることなんてあるの?」

智の叫びは両親に届かず、彼らは機械的に動く。それが自分達の義務であるかのように。智はその場に膝をつくと、子どものように泣きじゃくる。

ー神様は意地悪だ。子どもは両親を選んで生まれてくるって言うけど…。

この2人でなければ、その前に生まれてこなければ幸せだったのかと苦悩する。間もなく救急車がやって来るだろう。それが許せなかった。

「私の人生、何だと思っているんだー!!」

大声で叫ぶと、智は涙を拭ったのだった。


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